「寿命半分」だったはずでは? 209系登場30年 長持ちの秘訣と“他線区のおさがり”
それまでの電車と比べ「重量半分・価格半分・寿命半分」というコンセプトで登場したJR東日本209系。しかし寿命半分どころか、登場から30年が経過してもなお活躍しています。「寿命半分」の真意とは、いったい何だったのでしょうか。
登場30年 房総などでいまだ現役
かつてJR京浜東北線の顔だった209系は、JR東日本が今から約30年前の1992(平成4)年に製造を開始した通勤形電車で、2023年2月現在でも房総エリアや川越・八高線、武蔵野線などで運用されています。2022年には伊豆急行への譲渡が発表され、同社では3000系「アロハ電車」として特別なラッピングが施されました。
JR京浜東北線で使われた209系電車。写真は試作編成で量産車と多くの仕様が異なるため、他路線へは転用されずに廃車となった(2006年9月、児山 計撮影)。
ところで、209系は「重量半分・価格半分・寿命半分」という設計コンセプトが掲げられていました。重量が半分になればそれだけ走行にかかわるエネルギーが削減され経済性が高まりますし、価格が半分になれば車両の導入コストが下がり、同時に新型車両の投入ペースが早まることでサービスアップになります。
では「寿命半分」とはどういうことでしょうか。鉄道車両は209系開発当初で、1両およそ1億円といわれていました。決して安くはないのですから、寿命の短い車両よりも寿命の長い車両のほうが経済的ではないでしょうか。
一般的に鉄道車両の寿命はおよそ30〜40年です。その半分ということは15年ほどで廃車になる計算になりますが、現実の209系は「寿命半分」のコンセプトとは裏腹に、今も1993(平成5)年製造の車両が活躍しています。「寿命半分」のコンセプトは撤回され、これまでの車両と同じように、30〜40年使う方針に転換したのでしょうか。
実は車両の陳腐化を避けるために次のような取り決めがなされていました。税法上の鉄道車両の減価償却期間である13年間は、大規模な分解・整備を行わず、“13年が経過した時点で廃車かリニューアルかを判断する”、というものです。
誤解された「寿命半分」その真意
この取り決めにより、製造から13年経過し、仮に世相の変化で輸送力を削減する必要が出た場合、そこで廃車にしても経営的に損にならないとされていました。つまり、「13年で元が取れる車両」という意味です。
当然13年経過後に、「別の用途で使おう」「機器や内装をリニューアルして使おう」と判断し、長期にわたって使用するケースも考慮されていました。しかし209系の登場時は、「寿命半分」というこれまでにないコンセプトだったがゆえに、「13年で使い潰す安普請の電車」と誤解して受け取られたケースも否定できません。
房総地区の209系。写真の編成は1994年〜2021年の27年間運用された(2010年10月、児山 計撮影)。
ところで、一般的な在来線の車両は製造から8年が経過した段階で、車輪からパンタグラフに至る主要な機器すべてを取り外して検査することが法で定められています。いくらJR東日本が「この電車は高い信頼性があるので、13年間 分解検査なしでも大丈夫だ」と主張しても、本来は法がそれを許さないわけです。
ただJR東日本は国土交通省に、現代の技術基準をもとに新しい検査体系の導入を求め、2002(平成14)年3月に施行された「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」では、鉄道事業者が客観的に安全性を証明できれば独自の検査体系の導入が可能となりました。各部品の信頼性が保証されるのであれば、検査期間を8年以上に延ばせるようになったのです。
こうして法制度と現代の車両技術、そして検査制度がアップデートされた結果、JR東日本では耐久性・信頼性の優れた部品を用いて安全性を確保し、最も周期が長い部品で走行距離240万km(10〜18年程度)での検査サイクルを実現。209系の「寿命半分」コンセプトを確立させました。
209系を209系で置き換えた!?
1992年に京浜東北線へ投入された209系は、17年後の2009(平成21)年に約半数の車両が房総エリアに転属します。この際、車両の制御装置は新しいものに交換され、インテリアも一部の車両にクロスシートを導入し、長距離利用を考慮してトイレを設置するといった改造がなされています。
209系の基本番台で最も新しい車両は1997(平成9)年製造なので、予定通り製造から13年で「廃車するか更新して再利用するか」を検討したことになります。一方、1996(平成8)年に川越・八高線に投入された209系3000番台は、製造23年後の2019年に廃車。これらの車両は「23年で元を取った」ことになるわけです。
13年間運用して廃車となった川越・八高線用の209系3000番台。この209系を置き換えたのはなんと別の209系だった(2009年4月、児山 計撮影)。
ちなみにこの209系3000番台の後継車両は209系3500番台。はからずも「209系で209系を置き換えた」ケースになりますが、こちらは「中央・総武線各駅停車で元を取った車両をリニューアルし転用」しています。
このようにJR東日本では、「寿命半分」コンセプトの新型車両を重要路線に集中投入し、検査もしくは更新時期に差し掛かったら「短期間で元を取った」車両を捻出のうえ一部をリニューアルし、他線区へ転属するというサイクルができました。このため、比較的短期間かつ低コストで首都圏の主要線区から国鉄型の古い車両を淘汰できたのです。これも言い換えれば、「寿命半分」の効能のひとつといえるでしょう。
※誤字を修正しました(2月13日12時20分)。