自賠責の返済100年かかる!? 財務省の6000億円借入問題 返済額どうなる かつてはゼロ円17年
財務省が一般財源に繰り入れた自賠責保険料の積立金約6000億円の返済について、来年(2023年)度の返済予定額を決める折衝が大詰めを迎えています。防衛増税も決まり、財政事情はまさにひっ迫。今後の返済はどうなるのでしょうか。
返済ゼロ17年 財政が苦しい時は返済しなくてよかった
1990年代に財務省が一般財源に繰り入れ(借り入れ)た自賠責保険料の積立金約6000億円の来年(2023年)度返済予定額が、今週末にも決定します。来年度は防衛増税も決まっており、財政事情はまさに厳しさを極めています。鈴木俊一財務相は、どう判断するのでしょうか。
会見する鈴木俊一財務(中島みなみ撮影)。
鈴木俊一財務相は2022年12月20日の閣議後会見でこう話しました。
「今般の与党税制改正大綱と自動車安全特別会計の話は、直接関係するものではないと考えている」
財務省の借入額は現状で約6000億円(5952億円)あります。これは自動車ユーザーが納めた自賠責保険料の運用益の積立金で、保険金支払いとは別に、後遺障害を抱える被害者支援などに使われています。先の会見で、鈴木財務相は、これを一度に返すことはできないと話しましたが、問題は毎年の返済額です。
国土交通省の財布(自動車安全特別会計)には1441億円の積立金しか残っていません。そのため自動車ユーザーには2023年度から、1台約150円前後の新たな賦課金が上乗せされ、実質的に保険料の値上げとなる見込みです。
2022年度は、2018年に返済が再開されて以来の過去最高66.5億円が決まっています。ただ、借入からの28年間を振り返ると、後述する大臣間合意の条項に基づき、17年間も無返済が続いていました。返済が再開された後も、国土交通省は具体的な数字で返済額を要求せず、財務省が予算折衝の中で毎年の返済額を確定しています。
返済条件を決めた財務相と国交相が交わす合意内容には、財政事情が厳しい時には返済を求めない条項があります。「一般会計の財政事情、自動車安全特別会計の収支状況等に照らし、財務省及び国土交通省が協議の上、決定することとする」というもの。
来年度予算における一般会計は例年以上に厳しさが増しています。防衛力の抜本的強化のため歳出を切り詰め、足りない部分を、いかに増税で賄うかという状況です。一方、自動車安全特別会計には、賦課金制度で新たな財源が確保されました。国土交通省の資料によると、毎年必要な事業費の半分は新設された賦課金制度で賄う予定で、その収支は大幅に改善されます。
年54億円の返済で、完済まで100年かかる?
過去の財務省の返済実績を振り返ると、貸し出された積立金は1兆1200万円(1994/1995年度)。単年度のピーク時返済は2000億円(2000/2001年度)あった一方で、前出のとおり28年間のうち17年間は、まったく返済がありませんでした。当時の財務省は「財政事情に照らしてやむを得ない」と説明しています。
ただ、2017年に麻生太郎前財務相と石井啓一元国土交通相と交わされた覚書で、こんな一文が付け加えられたことにより、0円返済は解消されました。
「毎年度の具体的な繰戻額については、被害者等のニーズに応じて被害者保護増進事業等が安定的、継続的に将来にわたって実施されるよう十分に留意しつつ...」
この新たな覚書から返済が継続して再開されました。2018年〜2022年までの返済額は23億円、49億円、48億円、55億円、66.5億円(予定)と増えています。
大臣間の合意には有効期限があり、2021年12月22日に鈴木財務相と斉藤鉄夫国交相は、2023年度予算からの最新の合意を交わしています。新しい合意には、返済額の水準について「2022年度予算における繰戻額の水準を踏まえ……」という、一応の目安が示されました。
今まさにその議論が続いている中で、鈴木財務相はこう説明します。
「繰戻しに継続的に取り組むことの重要性は私も十分意識をしている。一般会計から自動車安全特別会計への繰戻しは、引き続き財務省として財政事情が厳しい中でも国土交通大臣との大臣間合意に基づいて、被害者保護に係る事業が安定的継続的に実施されるよう、2023年度の予算編成を含めて、国土交通省と真摯に協議をしながら、しっかりと一般会計からの繰戻しを着実に進めていきたい」
2022年12月21日に行われた財務省と国交省の大臣折衝(財務省提供)。
それでも返済額が気になります。返済額の目安とされた2022年度予算の繰戻額は当初予算で54億円、補正予算で加算され合計66.5億円になりました。
これが基準になると、5952億円の完済は、単純計算で110年後。気が遠くなるほど遠い話になります。