2022年の11月上旬、世界でもっとも人気のあるモバイルゲーム、キャンディークラッシュ(Candy Crush)は、リリースから10周年を迎えた。

開発元であるキング(King)はこの特別な年を祝いつつも、その栄光に満足しているわけではない。同社はまさに今、キャンディクラッシュというブランドの刷新に取り組んでおり、広告主や将来的なブランドパートナーに同ブランドがもつオーディエンスの規模や範囲を認知してもらうべく努力している最中なのだ。

収益の大半を占めるモバイルゲーム



米国のゲームソフトウェア会社アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)がスウェーデンのゲームスタジオだったキングを2016年に買収して以来、この巨大ゲーム開発企業の従業員たちは自社のことを内々で「ABK」、つまり「アクティビジョン・ブリザード・キング」の頭文字で呼んでいる。だが同社の最近の財務レポートをみると、「KAB」(キング・アクティビジョン・ブリザード)の順で並べるほうがふさわしいのではないかと思われる。

今ではアクティビジョン・ブリザードの収益の大半をモバイルゲームが占めていることからしても、キングが一番手のポジションにふさわしいといえるかもしれない。

「今世界には30億を超えるゲーマーがいる」。繰り返し引き合いに出される統計データだから、ゲーム業界で長く働いた経験のある人ならおそらく耳にしたことがあるだろう。キャンディークラッシュの名と並べて語られることの多い数字だ。マーケターたちはこの大人気ゲームタイトルを「非ゲーマー向けゲームのプロトタイプ」とみているのだ。

キャンディークラッシュが今回記念の年を迎えるにあたり、キングの開発者たちは、従来の型を破ってこのゲームが一部の熱心なユーザーだけでなく、誰にでも楽しんでもらえるゲームであることを示したい、と期待している(編集部注:本記事の記者は2日間のプレスツアーとしてキング本社を訪れ、アクティビジョン・ブリザードがその旅費を負担した)。

鍵となる数字



キャンディークラッシュは、Facebook向けのブラウザゲームとしてスタートしたが、現在ではキャンディークラッシュサーガ(Candy Crush Saga)の名称で広く人気を集めるモバイルアプリとしてよく知られている。キャンディークラッシュサーガは、これまでに30億回以上ダウンロードされている。このなかには複数回再インストールされたものも含まれてはいるが、それでもキングが公表した数字によれば、現在2億4000万人以上の月間プレーヤー数を誇っている。

キャンディークラッシュは、広告やゲーム内購入による効果的なマネタイズもあって、米国のアプリストアでは21四半期連続で売上高トップの座を維持している。

アクティビジョン・ブリザードの最新の財務報告書によると、キングは2021年第3四半期から2022年第3四半期にかけて、前年同期比でネットブッキング(繰延べによる影響を除いた純収入こと)が8%、収益が6%増加したという。

2022年第3四半期にアクティビジョン・ブリザードが得た純収入17億8000万ドル(約2492億円)のうち、9億3200万ドル(約1305億円)がモバイルゲームによるもので、これはABKの同四半期の総収入の52%に相当する。

万人向けだからこそ、あらゆるインベントリを用意できる



アクティビジョン・ブリザードとキングの幹部は、DIGIDAYによる取材のなかで、キャンディークラッシュは特定のオーディエンスをターゲットにしたものではなく、万人向けのゲームであるとの見解を繰り返し強調した。加えて、キングのプレジデントであるチョドルフ・ソメスタッド氏も、この取材でキャンディークラッシュが非ゲーマー向けのゲームであるという評価は「妥当なものだ」と認めている。

キャンディークラッシュにとって、この評価は概して悪いものではない。ここ数年は、あらゆる広告産業のイベントで行われたあらゆるゲーム関連のマーケティングプレゼンテーションのなかで、キャンディークラッシュというブランド名が前述の「30億人のゲーマー」という数字とともに引き合いに出されているのだから、間違いなく恩恵を得ている。キャンディークラッシュの典型的なオーディエンスは、まさにマーケターたちが必死になって探し求めているユーザー層と一致するのだ。

「キャンディークラッシュはゲーマーでない人向けだ」との評判がもたらす課題のひとつは、10周年を迎えた今から新たな利用者を取り込むのは難しいのではないかという懸念だ。現時点ですでにリリースから10年以上が経過しており、変わらずにこのゲームをプレイし続けているユーザーももちろんいるだろうが、リリース当初にプレイしていた人のほとんどがもうこのゲームを卒業してしまったのではないだろうか。

「やめてしまった人たちにしてみれば、『キャンディークラッシュってまだ流行ってるの?』と思っているのかもしれないが」と、後出のロマーノ氏はいう。「もちろん、流行っている。今も何百万もの人に愛されているんだから」。

結局のところ、キャンディークラッシュはコアなゲーマー向けのゲームではないという声は、アクティビジョン・ブリザードにとって大きな問題ではない。同社は知的財産を豊富に保有しており、あらゆる広告主の求めるオーディエンスプロファイルに応えてふさわしいインベントリを用意できるからだ。

「キャンディークラッシュやコール・オブ・デューティ(Call of Duty)といった不朽の名作を含む素晴らしいブランドポートフォリオがあれば、いかなる広告戦略に対してもそれに見合ったプレーヤーをみつけることができるだろう」と、アクティビジョン・ブリザード・メディア(Activision Blizzard Media)のグローバルリサーチおよびマーケティング担当のバイスプレジデントであるジョナサン・ストリングフィールド氏は話している。

ゲームというより、むしろコンシューマ製品



キャンディークラッシュは単なるモバイルゲームではなく、いわゆる「大衆の精神安定剤」のようなものだ。このゲームは通勤時の暇つぶしに使われることが多く、また絶えずゲーム内購入への誘惑にさらされるので、ユーザーにとってゲーム内での課金は、コール・オブ・デューティやヘイロー(HALO)の最新作にお金をかけるよりも簡単な、あたかもジャンクフードやたばこ1箱を買うのと同じような感覚に陥ってしまうこともある。

キングは2021年11月、靴業界でキャリアをスタートしたフェルナンダ・ロマーノ氏をマーケティングおよびイノベーション担当のチーフオフィサーに迎え、キャンディークラッシュをコンシューマ製品の分野へと押し上げようとしている。ロマーノ氏によれば、靴業界でのマーケティング経験とキャンディークラッシュに関わる仕事との間には、一般に想像されるよりもはるかに高い関連性があるのだそうだ。

「毎日何百万もの人がプレイしているのだから、その認知度の大きさを考えれば、ある意味、コンシューマ製品のようなものといえる」と、ロマーノ氏は語っている。

斬新さや新鮮さで若返りを図る



ハドソン川の上空でドローンを飛ばすなどの人目を引く演出と併せて、キングはゲームそのものの価値を高めることで、キャンディークラッシュというブランドの若返りを図っている。10周年を記念して、ロンドンのアビーロード・スタジオで録音された新しいキャンディークラッシュのオーケストラテーマを発表し、ゲーム内のキャンディや「ブースト」、そのほかのアイテムのビジュアルを一新した。

また、メーガン・トレイナー氏など有名人を起用したゲーム内アクティベーションを強化し、スペース・ジャムやソニック・ザ・ヘッジホッグといったブランドにキャンディークラッシュとのタイアップを働きかけるなどして、新規ユーザーの獲得と離れていた既存プレーヤーの取り込みに努めている。

キングのキャンディークラッシュ担当ジェネラルマネージャーのトッド・グリーン氏は、「キャンディークラッシュのクリエイティブ面の挑戦で核となるのは、なじみのあるコア要素を維持し、ゲームを開いたときに次に何が出てくるかがだいたいわかるようにすることだ。だが同時に、斬新さ、新鮮さ、新しいアイデアも見えさえすれば、スマートフォンの向こう側に人がいることをユーザーに感じ取ってもらえるだろう」と話している。

[原文:How - and why - Candy Crush is in the midst of a 10th anniversary brand refresh]

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)