この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。

GLOSSYでもこの2年ほどメインテーマとなっているNFT関連や仮想通貨のニュース。昨年は「NFT元年」とも呼ばれ、個人やブランドが発行したNFTが高値で取引された。また、スマートコントラクトによりブロックチェーン上で構築されるDAO(分散型自律組織)という新しい仕組みの組織も登場した。 しかし、今年はビットコインやイーサリアムの暴落やNFTマーケットプレイスのオープンシーでの取引量と取引高の下落などのニュースがある。一方では、NYFWが製品やイベントと紐づいたNFTを一般にも手が届く価格で販売し、NFTへの参入障壁を低くしようという民主的な動きも見られる。 そのような現状に、ファッションNFT企業やデジタルファッションのDAOはどう対応しているのだろうか。また、その分野にはどのような可能性があるのだろうか。今回、GLOSSY JAPANにてその最前線にいる3氏に話を訊いた。 日本のNFT企業からは、デジタルスニーカーのエコシステムを開発するジョイファ(Joyfa)代表取締役の平手宏志朗氏。2022年2月に、【Glossy+TALKS Vol.5】に登壇いただいたが、それ以降複数プロジェクトが進行しており、7月にはデジタルファッションDAOのレッド(Red)DAOとのコラボ「レッドローズスニーカー(Red Rose Sneaker)」を、8月には、NFTホルダーがデザイナーになれるデジタルスニーカー「フリーダム(Freedom)」を発表した。米国からは、ファッション業界に新しい価値を見出そうとしているデジタルファッションDAOのリーダーであるレッドDAOのメーガン・カスパー氏とカティア氏に加わっていただき、スニーカー市場やDAOの可能性などについて話を聞いた(インタビューは日本時間2022年9月6日に実施)。以下は会話からのハイライトである。読みやすさのために編集されている。 

――今回の「レッドローズスニーカー」コラボレーションに至った経緯は?

 平手宏志朗氏(以下、平手氏) 2021年10月に設立したレッドDAOはドルチェ&ガッバーナのNFT購入をはじめエキサイティングなことを行っていると注目していた。すばらしい人材が集まってエコシステムを構築していた。ジョイファが4月にVC5社から資金調達をした際、カティア氏が窓口になっていたVCがあり、そこからレッドDAOにつながり、企画書を提出し受け入れられた。レッドDAOのようなデジタルファッション分野のリーダーとコラボできたことは非常に大きかったし、貴重なフィードバックも多く受け取った。学びの機会でもあり、たいへん有益だった。また、このコラボによって取材される機会も増えている。 

――レッドDAOにとって、ジョイファに注目&魅力的だった点とは?

 カティア氏 多くのコラボ提案が届いているが、我々はトップブランドから新進のWeb3デザイナーまでさまざまなブランドと協働してエコシステム全体をサポートしたいと思っている。また、異なる立場の興味深いプロジェクトに可視性を与えたいと考えており、関与するプロジェクトは厳選している。 今回のコラボの主な目的には、コミュニティの教育があったことも重要だった。ジョイファのコラボではまず芸術的な面があり、そしてコミュニティのアクティブなメンバーにNFTを提供するというアプローチがすばらしいと思った。 

――レッドローズスニーカーNFTの当選者20人はTwitterのマーケティングによって決定していたが、どのようにしてファンを増やしているのか?

 平手氏 NFTスニーカーマーケットでもっとも重要なのはコミュニティだ。プロジェクトに情熱を持ってくれる人たちと交流して、Discordでコミュニティを作って、コミュニケーションをとる。それが初めにやることだ。 

――Discordを使うメリットやデメリットはあるか?

 平手氏 DiscordはほかのSNSと比べて少し複雑で、使いこなすには時間がかかる。だが、慣れてしまえば多くのチャネルがあり、さまざまなエンゲージメントが持てるので、コミュニティ構築に向いている。アクティブなプロジェクトの認知にはTwitterを、そしてエンゲージメントにはDiscordを使っている。  

――日本のNFT市場の現状はどう考えている?

平手氏 トークンを発行するプロジェクトにしたい場合、日本だと含み益課税が発生してしまい、現実的ではない。なので、ドバイやシンガポールで事業を行う人たちもいる。私は半年前にドバイに拠点を移したが、ここでは税率は0%だ。だが、日本で税規制を変えようという動きはある。 

――デジタルのスニーカー市場の今後は? どのような可能性があるのか?

 平手氏 NFTスニーカーといってもいろいろなタイプがあると思う。我々がフォーカスしているは、3DのARベースのデジタルスニーカー。Web2ブランドとWeb3文化を組み合わせる可能性は非常にエキサイティングなのだが、Web2企業やブランドがWeb3市場に進出する際にWeb2の製品をそのままWeb3に持ち込んでもうまくいかないことがある。当社はWeb2企業がWeb3へ進出する際に価値を加えて支援できると思う。 

――レッドDAOにとって、NFTスニーカー市場はどのような意義を感じている?

 メーガン・カスパー氏(以下、カスパー氏) デジタルスニーカーには幅広い可能性がある。物理的なものは転売価値が高いので、スニーカーがクリプトエコシステムに取り入れられるのは理にかなっている。NFTクリプト分野に関与している大部分は男性で、物理的なスニーカーを取引しているのも男性だ。RTFKTとナイキの提携などスニーカープロジェクトが多いのは、実際のスニーカー転売市場の取引が高いからだと思う。 また実際のスニーカーとNFTが紐付けられていたら、物理的な品を所持していなくても所有権が得られる。この所有権と所持の区分はひとつのトレンドで、NFTスペースで取引する人にとってはエキサイティングなものだ。投機的資産以外にも、VRやAR、ディセントラランド(Decentraland)のようなプラットフォームで着用できるとか、ソーシャルメディアのコンテンツを制作するなどのユースケースもある。投機的ツールとしての所有を超えて、そのような実際のユースケースに価値があると考えて注目している。スニーカー関連では、最近(デジタルアーティストの)ペットライガー氏とコンタクトしている。同プロジェクトは高精度のフォトリアルな女性用シューズも制作しており、グッチヴォールト(Gucci Vault)とのコラボも行っている。シューズを3Dプリンタブルなファイルや3Dプリントする方法と紐づけるような新しいユースケースを考えている。そのようなフォトリアルなシューズは従来の製造方法では実物は作れないからだ。だが、3Dプリンターならその可能性が広がり、とてもエキサイティングだ。 

――DAOの今後の可能性、注目しているプロジェクトなどは? また投資・収集を超えて制作に関与する可能性はあるのか?

 カティア氏 DAOは伝統的なファッションブランドとは競合しないが、エコシステムを育成し、ほかのブランドが業界をディスラプトするのを支援するイネーブラー。ファシリテーターとも言えるだろう。デジタルファッションに関しての可能性を広めるサポートや、ウェブブランドの育成や教育を目指している。我々は市場に情報や教育を提供するので、従来のファッション業界におけるヴォーグ誌のような感じだろうか。また、投資・収集を超えて制作に関わることはまだ行ったことはないのでなんともいえないが、その可能性は否定できない。 

――今年に入って仮想通貨の価格変動が激しいが、それはNFT市場にどう影響している? 貴社は影響を受けているのか?

 平手氏 現在は仮想通貨だけでなく全体的に弱気相場だ。資金調達が難しくなる、コスト構造の見直しが必要になるというようなことはあるが、長期的な戦略があるので、施策を行っていくことに変わりはない。ARのNFTコレクターズアイテムは将来ブームになると信じている。 カスパー氏 我々は組織としては影響を受けていない。メンバーの大部分はクリプトネイティブか、クリプトに精通しており、その変動性には慣れている。投資対象の変動性は長期的にはデジタルファッションやその市場には影響しないだろう。 エルメスのバッグを例にとると、バッグの価格変動は仮想通貨市場の変動とは関連しない。チェーン上のスマートコントラクトを通じてバッグがNFTと紐付けられとしても影響はないと思う。 いまは消費者のほとんどがデジタルファッションを投機的資産として購入しており、ちょっとした実験が行われているような状況だ。デジタルファッションが大衆向けの消費になれば投機的なものと消費的なものとははっきり分離されるだろう。 カティア氏 価値の分離についてはメーガン(・カスパー氏)と同意見だ。収集家、そして長期的な投資家としては、弱気市場でチャンスが増える可能性がある。たとえば、レアなNFTなどが強気相場の最高時よりも低い価格で市場に出るというようなことがありうる。 

まとめ

 取材直前に急落した仮想通貨市場やNFT市場のニュースを目にしていたが、そのような市場の変動性はWeb3企業や組織にとっては予想内であり、長期的な戦略を持ってプロジェクトが進められている。この点は従来の企業と変わらないようだ。 投資・収集目的のレッドDAOは、さまざまなブランドがWeb3での可能性を広げるための支援や教育を担うイネーブラーとして機能している面があることもわかった。同DAOは7月に、デジタルファッションプラットフォームのトリビュートブランド(Tribute Brand)の資金調達に関与、また、著名フォトグラファー5人と協働した作品がクオンタム(Quantum)に発表されている。 クリエーターとしてプロジェクトに関与する可能性も閉ざされてはおらず、平手氏はその「集合知」を絶賛している。デジタルファッションのプロジェクトにレッドDAOの名を見ることはますます増えそうだ。 NFTスニーカー市場ではカスタマイズ要素や実物と紐付けられたNFTの可能性などもあり、どのようなプロジェクトやユースケースが登場するのか、そしてDAOはそれらにどのように関与してエコシステムを構築してゆくのか。今後の展開が楽しみである。 Written by ぬえよしこ