外資コンサルの就職者が多い慶應義塾大(写真:aki/PIXTA)

大学生の就活は全体としてみれば、売り手市場が続いている。大学通信が医学部と歯学部を除くすべての4年制大学を対象に行っている就職状況調査によると、2022年卒の大学生の平均実就職率(就職者数÷<卒業(修了)者数−大学院進学者数>×100で算出)は、2021年卒を0.7ポイント上回る86.1%だった。

一方、有名企業400社に限定した平均実就職率(400社就職者数÷<卒業(修了)者数−大学院進学者数>×100で算出)は、2021年卒の10.2%から2022年卒は9.5%に下落。これには、大企業の求人倍率が下がっていることが影響している。

リクルートワークス研究所が公表している従業員5000人以上の企業を対象とした求人倍率は、2021年卒の0.60倍から2022年卒は0.41倍に下がっている。求人倍率と呼応するように、有名400社の就職者数は、2021年卒の5万1893人から2022年卒は5万302人に減少した。

有名企業の新卒採用枠が小さくなる中、「有名企業400社への実就職が高い大学」にランクインしている大学も、実就職率が下がっている。

文系学部を持つ総合大学で実就職率が減少

ランキング上位大学のうち、1ポイント以上前年を下回った大学は、1位一橋大学(-5.9)、2位東京工業大学(-12.2)、4位慶應義塾大学(-1.6)、10位国際教養大学(-2.5)、12位早稲田大学(-1.6)、14位横浜国立大学(-1.7)、15位上智大学(-1.4)など。

文系学部を持つ総合大学に実就職率が下がった大学が多い。航空や旅行代理店、デパートなどが採用を大きく減らした。さらに情報技術の発達による事務職の削減の影響が大きそうだ。

実就職率が上がっている大学には、3位豊田工業大学(+1.7)、5位東京理科大学(+0.8)、6位九州工業大学(+4.1)、7位電気通信大学(+1.2)などがある。工科系大学が多いのは、IT企業に限らず、デジタル技術はあらゆる企業で必要とされることから、理系学生に追い風が吹いていることにありそうだ。

さらに、これからは企業の発展に不可欠な、デジタル化を推進するDX(デジタルトランスフォーメーション)人材やカーボンニュートラル社会の構築を進めるGX(グリーントランスフォーメーション)人材の需要が高まると見られ、理系学生の就職の間口はさらに広がることになりそうだ。

次にランキング上位大学の就職状況を見ておこう。実就職率が下がっているとはいえ、トップの一橋大の実就職率は50.8%で、卒業生の2人に1人が有名企業に就職している。就職先は、楽天が最多で30人。以下、PwCコンサルティング、三菱UFJ銀行(各15人)、野村證券(13人)、三井住友銀行、アクセンチュア(各12人)など。採用が減っているメガバンクだが、総合職の採用はあまり変わらないことから、一橋大からの就職者は相変わらず多い。

2位の東京工業大は、日立製作所(34人)、ソニー、野村総合研究所(各22人)、パナソニック、日産自動車(各20人)など。製造業に交ざって、シンクタンクの野村総研が例年上位に入っている。

3位となったトヨタ自動車が設立した豊田工業大は、イビデン、豊田合成(各6人)、トヨタ自動車(5人)、トヨタ車体(4人)、アイシン、デンソー、トヨタシステムズ、豊田自動織機(各3人)など、中部の優良企業に多くの学生が就職していることが特徴だ。

4位の慶應義塾大は、アクセンチュア(88人)、PwCコンサルティング(83人)、楽天(76人)、三菱UFJ銀行(69人)、エヌ・ティ・ティ・データ(58人)など。東京理科大はNECソリューションイノベータ(30人)、アクセンチュア(27人)、富士通(26人)、エヌ・ティ・ティ・データ(24人)、日立製作所、SCSK(各23人)などの就職者が多い。

外資コンサルの就職者が多い大学は?

実就職率ランキング上位の大学の就職先を見ると、総合大学と理工系大学ともに、アクセンチュアやPwCコンサルティングなど、外資系コンサルティングファームが多くなっている。デジタル技術を活用して働き方やビジネスを効率化するため、コンサルのニーズが増えていること。さらにコンサルをステップに次のキャリアに進もうと考える難関大の学生が多いことが就職者増の背景にありそうだ。

代表的な外資コンサルの就職者が多い大学は、アクセンチュアが慶應義塾大(88人)、早稲田大(87人)、東京大(53人)、大阪大(28人)、東京理科大(27人)、京都大(26人)、立教大(22人)など。東京大は同大からの最多の就職先になっている。

デロイト トーマツ コンサルティングは慶應義塾大(25人)、東京大、早稲田大(各11人)、東京工業大(7人)、京都大、上智大(各6人)、大阪大(5人)。PwCコンサルティングが慶應義塾大(83人)、早稲田大(59人)、東京大(21人)、東京工業大(19人)、上智大(17人)。マッキンゼー・アンド・カンパニー・インコーポレイテッド・ジャパンは、東京大の就職者が頭抜けて多く40人。東京大以外に就職者がいるのは、慶應義塾大(5人)、京都大(3人)、北海道大、東京外国語大、早稲田大(各1人)の5大学のみ。

ランキング上位大学の就職先のもう一つの変化は、IT関連企業が増えていること。上智大の就職者が最も多いのは、楽天グループ(41人)で2位は日本IBM(26人)。明治大学(26位)の1位は楽天グループ(35人)で2位がNECソリューションイノベータとTIS(各30人)。法政大学(40位)は1位がドコモグループ(34人)で2位が楽天グループとNEC(各24人)など、となっている。

かつては、有名企業400社への実就職ランキング上位大学の就職先はメガバンクに代表される金融が多かったが、情報技術の発達などがもたらす産業構造の変化により就職先にも変化が見られる。





■データについて
(注)データは8月20日現在で卒業生数100人以上が対象。400社実就職率(%)は、有名企業400社への就職者数÷〔卒業生(修了者)数−大学院進学者数〕×100で算出。同率で順位が異なるのは、小数点2桁以下の差による。一部の学部・研究科などを含まない大学もある。大学名横の*印は大学院修了者を含むことを表す。設置の「国」は国立、「公」は公立、「私」は私立を表す。大学院進学者数の「−」はゼロまたは未集計。有名企業400社は、日経平均株価指数の採用銘柄や会社規模、知名度、大学生の人気企業ランキングなどを参考に選定。東京大学は一部未回答のため表に含まない。大阪公立大学は統合前の大阪市立大学と大阪府立大学の実績を掲載した。

(井沢 秀 : 大学通信 情報調査部部長)