※この記事は2020年03月11日にBLOGOSで公開されたものです

モバイルゲーム開発等を主業務とするDeNAが第3四半期決算で多額の減損処理を実施し、2019年4~12月で501億円の最終赤字を計上。今期通期でも大幅な赤字転落が確実となりました。同社にとっては、2005年の東証マザーズ上場以来初の赤字決算となります。

2019年10~12月の第3四半期に実施される減損処理額は、約500億円。その大半は2010年に買収した米国のゲーム子会社ngmocoの「のれん代」です。大幅赤字の決算見通しを受け、額のあまりの大きさから「DeNAは大丈夫なのか?」という話題が市場を駆け巡り、株価はあっという間に1割以上も下落。

その一方で、ネット上での投資解説では、赤字の大半である「のれん代」の減損処理は一過性のものであり、かつ現金支出を伴わないので経営上全く問題のない赤字であるとする向きもみられました。

今回のDeNAの赤字決算をどのようにみるのが正しいのか、また同社の今後はどうあるべきなのかを探ってみます。

DeNAのピークは2013年の「モバゲータウン」ヒット期

赤字の善し悪し判断というものは、銀行員的な発想で申し上げれば、「膿を出し切った赤字」なのか「先行きの見えない赤字」なのかという基準で分けられます。減損処理と聞くと、確かにいつまでも含み損的なものを抱えていてもしょうがないので、ここで膿を出し切ろうというイメージが漂います。

すなわち、DeNAの減損処理がこのとおりのものであるのなら、まさに「膿を出し切った赤字」として評価できるものであると言えるでしょう。

しかし、今回の米国子会社ngmocoの「のれん代」の減損処理経緯を詳しくみてみると、どうも「膿を出し切った赤字」とは言い難いやっかいな事情があるように思えます。

今回減損処理した「のれん代」の主である米国のゲーム子会社ngmocoですが、実は既に存在しない会社なのです。2010年に大きな期待感を持って買収したものの、事業は赤字が続き2016年に同社を清算。米国からの事業撤退をはかりました。

そもそも「のれん代」は買収された企業が持つ目に見えない価値の総称なので、たとえ会社が整理・消滅してもDeNAの事業の中で、その見えない価値が引き続き活かされていくなら、会社の存廃とは切り離して「のれん代」を存続させることは可能なわけで、ngmocoの会社整理後も「のれん代」は引き続きDeNAの無形資産として計上されてきたのです。

しかし、DeNA総売上の約3分の2を占める本業であるゲーム事業は、売上ベースで2015年3月期の1129億円からここ数年下降線の一途をたどり、2019年3月期には835億円にまで減少(利益も約4割減)。

2020年3月期決算に向けたこの第3四半期段階で既に、決算期までに回復の見込みなしと判断され、これまでゲーム事業へのプラス効果アリとして計上され続けてきた「のれん代」を会計基準の「事業価値低下による固定資産の価値下落」に相当するものとして泣く泣く減損処理をした、というのが事の真相のようです。

思えば同社ゲーム事業のピークは、ガラケー時代の2013年、ゲームサイト「モバゲータウン」の大ヒット期です。

しかし、スマホゲームへの移行に乗り遅れ感が強く本業でのジリ貧状態が続き、2015年には任天堂との資本業務提携によって打開策を見出そうとしますが、これも思ったほどの効果が得られず。ゲーム上のバグや運営面でトラブルが相次ぐなどのイメージ悪化もあって、浮上策が見出せずに苦しんでいます。

こうしてみると、今回の減損処理が本業における「事業価値低下」を受けたものであるということは、どうやら「膿を出し切った赤字」とはおよそ言い難いということになるわけなのです。

「新規事業」鳴かず飛ばずで苦戦

本業回復の新たな展望がないからこその減損処理であり、これを前向きな処理と捉えるためには新規事業の展望の有無ではかる以外にないのです。では、その他事業はどうなのか。

ゲーム事業の次にボリュームが大きいのは、売上の約4分の1を占める横浜DeNAベイスターズのスポーツ事業です。これは絶好調です。横浜スタジアム買収による球団・球場一体経営に加え、地元小学校へのベースボール・キャップの配布などの集客施策が功を奏し、今は観戦チケットがなかなか手に入らないほどの大人気ぶりなのです。

しかしながらこの事業、ハコのサイズと主催試合数が決まっているだけに、事業全体の底支え的な存在にはなるものの、今後の企業業績を引っ張るほど大きな成長が期待できるビジネスではありません。

この売上の9割を占める2大事業において、ゲーム事業が下降線、スポーツ事業は好調とは言えアタマ打ち。そんな状況を受けて、2019年度から複数の新規事業を新たな収益の柱にしようという計画がぶち上げられました。

その筆頭と言えるのが、配車アプリ「MOV」を軸としたオートモーティブ事業です。しかし、2017年に立ち上げたものの、ライドシェアに馴染まない我が国では利用率が低く、収益化の見通しが立たないまま累積損失がかさんで4月に日本交通系のJapanTaxiと統合。DeNAの連結対象から離れることになりました。結果、累積損失だけが残ることとなり、明らかな失敗事業となっています。

もうひとつの肝煎りの新規事業が、ヘルスケア事業です。こちらもまたゲーム事業に続く有望成長事業として2014年に期待感を持って立ち上げられたものの、2016年のキュレーション・サイトにおける無断転載および医療専門家の裏付けのない医療情報の掲載等が大きな問題となって、致命的なイメージダウンを受けます。

以降、鳴かず飛ばず。やはり累積損失を抱えたまま、成長への出口が見えない状況が続いています。このように現時点で、ゲーム事業の穴埋め役を果たせるような新規事業は存在しないのです。

DeNA再浮上に残された道は赤字事業の再生ビジネスか

結論として分かるのは、今回の赤字は「先行きの見えない赤字」であることです。ではこの先DeNAはどうなってしまうのでしょうか。

まず基本的な事から申し上げると、幸いなことに「モバゲータウン」全盛期の蓄財によって、同社は現時点でも800億円ものキャッシュフローを抱え、自己資本比率70%超という財務体質優良企業ではあります。ですから、今回の赤字がたとえ「先行きの見えない赤字」であっても、それが即刻経営危機につながるものではないことだけは確かです。

ただ、このままの状態が何期も続くなら株価は下落が続くでしょうし、いずれ蓄財が底を尽けば破綻もないとは言い切れません。現状では光明が全く見えないDeNA。再浮上への道はあるのでしょうか。

ゲーム事業の復活については、当たるか当たらないか、言ってみれば博打に近い事業でもあります(もちろん今後、大ヒットタイトルが出ないとも限らないわけですが)。

しかし、ここ数年の連続業績降下をみるに、DeNAは大きな投資コストがかかる博打事業で一攫千金を待つのは得策ではなく、早期にゲーム以外の事業に活路を見出す必要があると思えます。

ならば再浮上のカギは新規事業ですが、先のオートモーティブ事業、ヘルスケア事業の他にも、旅行事業もまた赤字体質から抜け出せずに2018年にエボラブルアジアへ格安で売却し、店じまいした過去もあります。純粋な新規事業は全くと言っていいほど育たない組織風土であると感じさせられます。

光明のヒントは、唯一好調なベイスターズ球団ビジネスにあるのかもしれません。これはTBSから買い取り、大赤字を見事に立て直した事業です。すなわち新たな事業を自社で立ち上げることは下手でも、赤字事業を買収して再生し育てることは組織風土に合っているのかもしれません。

幸いなことに、買収資金は上記のとおり今なら豊富にあるのです。同社再浮上の道を開く手段として、赤字事業の買い取り・再生ビジネスは検討の価値がありそうです。

いずれにせよ、今回の減損処理で本業の行き詰まりがハッキリした以上、これまでの延長線を歩むのではない思い切った経営の舵取りが求められていることだけは確かでしょう。