彼氏の前で「昔は男遊び激しかったよね」と暴露してくる女友達。意地悪な発言をしてきた、その真意とは
マウンティング。
本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。
しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。
それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元（はじめ）。通称・ジェームズだ。
マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…？
▶前回：「憧れの大先輩です♡」こちらが紹介した男との食事会で、ドン引きした年下女の発言
「…で、結局そのまま逃げたってこと？」
僕の家に押しかけて来てまで、話を聞いている蓮と瑛太。明らかに面白がっている。
「ちょっと！こっちは真剣なんだよ」
「ジェームズに迫るなんて、恵那ちゃんもやるねぇ」
「いいじゃん、綺麗だし性格もいいし。ジェームズは、それくらい押しの強い子じゃないとダメでしょ」
人の恋愛話になると、急に饒舌になる2人。そんな彼らに、恵那とのことをうっかり話してしまった自分を恨みながら、山崎の18年物をグラスに注いだ。
カラン、と氷が溶ける音がする。
こんな何でもない日に飲む物ではないかもしれないけれど、今日は飲みたい気分だ。
「ジェームズにも、ついに春が来たかぁ」
呑気にウイスキーをチビチビと飲みながら、好きな仲間と過ごす時間。そんな平和な週末のはずだったが、僕たちはこの後、ある場所に呼び出されることになったのだ。
恋に悩むジェームズが、呼び出された場所は…
Case15：男心でマウンティングする女／通報者・杏（28）の場合
平和な時間から一変。僕は今、蓮と瑛太とともにバーの隅へ追いやられている。
「瑛太、この状況は…」
「ごめん。僕もよくわかってない」
3人ともまぁまぁ大きい体をしているのに、なぜか肩身の狭い思いをさせられている僕たち。
先ほどまで僕らは、家でのんびり飲んでいた。なのに瑛太の彼女である杏ちゃんから、突然連絡が来たのだ。
「ジェームズ、蓮…。彼女から『3人そろって、バーまで来い』ってLINEが来たんだけど」
そして指定されたバーへ行くと、杏ちゃんと、その友人のエリカちゃんがいた。
「杏ちゃんが羨ましいなぁ、こんな素敵な彼氏がいて。カッコいいし優しいし…。杏ちゃんが帰国子女だから、気が合ったんだろうね。いいな」
先ほどから、しきりに瑛太と杏ちゃんのことを褒めているエリカちゃん。一見何の問題もなさそうだし、なぜ僕たちが呼ばれたのか最初は理解できなかった。
しかしそんなエリカちゃんの話を笑顔で聞きつつ、杏ちゃんは瑛太に対して険しい顔で迫っている。
「ねぇ瑛太。私のこと、好きでしょ？」
杏ちゃんに責められ、なぜかタジタジの瑛太。
「え？も、もちろん…」
「別に、私の胸が“まな板”でもいいでしょ？」
「マナイタ…？？」
どうやら、僕たちが来る前にひとバトルあったようだ。
「違う違う〜！私が言いたかったのは、杏ちゃんの胸が小さいとかそういうことじゃなくて。細くていいなってことだよ！」
僕と蓮、そして瑛太はどう反応していいのかわからず、ただ黙って目の前にあるビールに手を伸ばす。
「私はお尻が大きい安産型だから、杏ちゃんみたいな華奢な人が羨ましいの。それに胸の開いた洋服とか着ると、変に目立っちゃうから…。杏ちゃんが着ると、深めのVネックもおしゃれに見えるでしょ？」
そう話すエリカちゃんは、たしかにグラマーだ。しかもちゃんと自身の魅力が引き立つような、体にフィットしたタイトワンピースを着ていて、それがよく似合っている。
一方の杏ちゃんはデニムにTシャツという、とてもシンプルな装い。だけどそのシンプルさが、余計に彼女の手足の長さを際立たせている。
「でもやっぱり杏ちゃんはさすがだよね。ちゃっかり、瑛太さんほどのレベルの男性を捕まえて」
たぶん以前の僕だったら、この発言の意図がよくわかっていなかっただろう。
しかし最近、こういう場面によく出くわしているせいか、だんだんとエリカちゃんの言いたいことが掴めるようになってしまった。
「杏ちゃんはちょっと規格外というか、男関係にも自由奔放すぎるというか。私、すっごく心配してたんだよ」
さすがにこの発言を、瑛太の前でするのはマズイのではないだろうか。でも、もはや僕たちが口を挟む暇さえ与えてくれない。
「瑛太さんみたいな素敵な彼氏を捕まえられて、本当によかったね」
すると突然、杏ちゃんが静かに吠えた。
「捕まえたんじゃなくて、私が捕まえられたのよ。…女の価値は、胸の大きさだけで決まるものじゃないからね」
今までいろんな女性を見てきたけれど、本人に向かってハッキリそう言えたのは、もしかしたら杏ちゃんが初めてかもしれない。
だがエリカちゃんも、黙ってはいなかった。
「これはアドバイスなんだけど。もう少し、瑛太さんのこと大切にしたほうがいいよ。3歩下がって男性を立てられるような女が、本当にイイ女って言うでしょ？」
そのとき、勢いよくバーのドアが開いた。…そこにはなんと、恵那が立っていたのだ。
なぜかバーに、恵那がやって来て…？
マウンティング・ポリスは永遠に…
「あれ、ジェームズさん？…って、みなさんおそろいで」
先日、恵那との飲み会から逃げるように帰ったので、なんだか気まずくて彼女の顔を見ることができない。
そんな僕が俯いていると、なんとエリカちゃんが恵那にも噛みつき始めたのだ。
「あっ、恵那さん〜！お久しぶりです。覚えてます？」
「…エリカちゃんだよね？久しぶり」
「相変わらずお綺麗ですね〜。あっ、そうだ！年上の彼はお元気ですか？すごく高いワインを奢ってくださった、あの素敵な人」
その瞬間、恵那と目が合ってしまう。
このとき、僕は悟った。普段は気づいていないけれど、この世の中には色々なトゲが隠れていることに。
「エリカちゃん。あの彼とは、もうお別れしたのよ」
「そうなんですか？恵那さんとお似合いだったのに、残念ですね」
「うーん、それはどうだろう。私は今、幸せだと思ってるから。残念だとは全く思わないよ」
恵那の言葉に、なぜか僕がハッとしてしまった。
そして僕も黙っていられず、口を開く。
「うん。恵那が言った通りで、自分の幸せは自分が決めるもの。他人がとやかく言うのは違うよね。それに自分のモノサシを押し付けると、自分がツラくなるだけじゃない？」
蓮と瑛太が、深く頷きながら笑っている。
僕がマウンティング・ポリスと呼ばれるようになって知ったこと。それは「マウントを取ってしまう人は、心のどこかでその人を羨ましいと思っている」ということだ。
そしてその嫉妬心は、自分と近い存在であればあるほど大きくなる。でもそれを認めたくなくて、他人を攻撃してしまうのかもしれない。
エリカちゃんが帰った後、杏ちゃんがこうつぶやいた。
「エリカちゃん、実は瑛太くんのこと好きだったんだよね…」
「えっ、そうなの！？」
男3人、椅子から転げ落ちそうになる。気づかなかった鈍感な男たちも悪いけど、女心はやっぱりムズカシイ。
杏ちゃんがハイボールを一気飲みする。それにつられて、僕たちも黙ってビールを飲み干した。
「はぁ…。世の中にはいろんな人がいるね。とりあえず！ジェームズは、自分の幸せもちゃんと考えるように」
そう言い残し、杏ちゃんと瑛太が帰っていく。
それにつられるように、蓮も会計だけ終えるとどこかへ消えてしまった。
「せっかくだし…。もう一杯、一緒にどうですか？」
「もちろん。何杯でも、付き合います。…そしてジェームズさん。自分の幸せに、ちゃんと向き合う準備はできましたか？」
恵那の言葉に、僕は頷く。
「うん。I’m ready です」
◆
杏ちゃんや恵那のように、うまくかわしたり、言い返すことができない人たちはたくさんいるだろう。
でもマウンティング攻撃を受けても、受ける側が傷つく必要はない。何か言われたとしても「憧れの裏返しかな」と思えばいいし、自分の幸せにもっと真摯に向き合えばいい。
自分の幸せを追い求めるならば、他人のことなんて気にしている暇はないのだから…。
今日もきっとどこかで勃発している、マウンティング戦争。
そんなときは、僕たちのことを思い出してほしい。
いつか出くわすかもしれないし、出くわさないかもしれない。でもそこにマウンティングがある限り、何か力になれればと願っている…。
Fin.
▶前回：「憧れの大先輩です♡」こちらが紹介した男との食事会で、ドン引きした年下女の発言
▶1話目はこちら：未婚の37歳友人に「結婚してなくて可哀想」と言い放つ女。しかし、実は夫と…
