「僕と結婚を前提に…」イケメン社長が恋人に選んだ、意外な人物とは？
同じ会社、同じ部署。そこで働く、27歳・同い年の美女ふたり。
世渡り上手のあざとい女子と、真面目過ぎて融通が利かない女子。
彼女たちは見た目から性格、そして行動まで、何もかもが“正反対”なのだ。
そんなふたりが恋に落ちたのは、同じ会社のイケメン次期社長！？
美女ふたりからアプローチを受ける御曹司は、一体どちらの女性を選ぶのか。
◆これまでのあらすじ
1日も早く広報部を去り、紗良と七瀬から距離を置きたいと思っていた英琉。その矢先、父が他界し社長に就任することになると、姉から魅力的な女性と引き合わされてしまい…。
Vol.13 「好き」って言わせたかった、3人の結末
〜「結婚を前提に…」英琉が選ぶ女性は〜
「麗奈さん、ありがとうございました！おかげで、雰囲気がずいぶん明るくなりました」
「よかったー！こちらこそ、ありがとう。あ！次の土曜日って、英琉くんも華英の家に行くよね？」
会社の役員応接室をあとにすると、麗奈にこう聞かれた。
彼女は、僕の姉・華英の大学時代からの友人だ。先週末、神楽坂のフレンチレストランでお互い唐突に引き合わされた。それからすでに、彼女とは2度も会っている。
麗奈が青山のギャラリーで働いていると知り、今日は応接室に飾る絵画を見繕ってもらったのだ。
さらには、姉が自宅のリビングを模様替えした際、彼女のギャラリーで美術品を何点かオーダーしたらしく、届く日に立ち会ってほしいというのだった。それが、今週末というわけだ。
「そうですね、麗奈さんがいらっしゃるなら僕も行こうかな。立て続けにお世話になってしまったので、お礼もしたいですし」
「本当？ちょうど、父から美味しいワインとか、英琉くんが興味ありそうなフランスのお菓子をたくさんもらったところなの！持っていくね」
麗奈の父は、貿易会社の取締役をしていて、海外のワインや輸入食品などをしょっちゅうくれるらしい。
そんな父の仕事の影響もあって、幼いころから家族や友人とよく海外旅行をしていた彼女は、学生時代に西洋美術に魅了されたそうだ。それをきっかけに、今の仕事に就いたのだという。
そして迎えた、土曜日の午後。
僕が姉の家に着くと、彼女のほうが先に到着していた。
「麗奈、今度はどこに買い付けに行くんだっけ？ノルウェーって言ってたよね？」
「うん、オスロとフィレンツェ！まだちょっと先なんだけど、次は半月くらいかけてヨーロッパを周れたらなって」
この日の麗奈は、ネイビーの半袖のパーカーにマスタードイエローのロングスカートというカジュアルな服装で、リラックスした様子で姉と話していた。手には、空になりかけたワイングラスを持っている。
「英琉くん！こんにちは、お先にいただいてます」
彼女はソファに座ったまま、こちらを振り向いた。その瞬間、僕はこんなふうに思ったのだった。
姉の家でくつろぐ麗奈を見て、英琉が思ったこととは？
― 麗奈さんとは…きっとこの先も…。
彼女とは、出会ってから2週間しかたっていない。まだ2人きりで過ごしたことさえないのに、僕の頭の中には、ごく自然に彼女と過ごす未来図のようなものがよぎったのだった。
仕事モードのパキッとしたファッションやメイクではなく、休日のくつろいだ感じのギャップが魅力的に映ったのか。
それとも、父の会社を継ぐ前の海外を飛び回っていた自分と、彼女の姿が重なったのか。自分でもよくわからない、不思議な感覚だった。
思わず、麗奈のことをジッと見つめてしまう。すると、姉がニヤニヤしながら僕のことを一瞥するものだから、焦って会話を続けた。
「フィレンツェって、ウフィツィ美術館にも行かれるんですか？」
「うん、その予定！最近、イタリア語の教室に通っていて、今度の買いつけは通訳を頼まずに1人で挑戦してみようと思ってるの」
麗奈との会話は異常なほど楽しかったし、彼女の向上心と意志の強さは心から尊敬する部分も多かった。
親の援助は受けずに、自分のギャラリーを構えるという夢を聞いたときは、自立心の高さにすっかり感心してしまったほどだ。
慣れない仕事に緊張してばかりで、委縮することも多かった僕にとって、この麗奈との時間は癒しでもあり、刺激的でもあった。
それからは、僕のほうから積極的に彼女を誘うようになり、2回目のデートのあとには、ためらうことなくこう言った。
「麗奈さん、僕と結婚を前提にお付き合いしてください」
〜私が相手にもされないなんて…紗良の落胆〜
― え〜、既読にもならないんだけどお！
英琉が社長に就任して3ヶ月がたった頃。かつて彼と七瀬、私が中心になって取り組んでいた会社のInstagramのフォロワーが、ついに5万人を超えた。
私は絶好の話しかけるチャンスと思い、久しぶりに彼に連絡をした。しかも、LINEでは馴れ馴れしいかもしれないと気を使い、わざわざInstagramのダイレクトメッセージからコンタクトをしたのだ。
それなのに、朝送ったメッセージは昼過ぎになっても既読にさえならない。
英琉が広報部を離れてからというもの、すっかり顔を合わせることがなくなってしまった私は、彼のInstagramの過去の投稿に『いいね』をしてみたりコメントをしてみたりしたのだけれど、一向に反応はなかった。…そろそろ、潮時なのだろうか。
「はぁ…まさか、私がここまで相手にされないなんて…」
仕事中だというのに、自分が送ったメッセージを何度も読み返しては、ため息を漏らす。
すると、ふいにメッセージの下に『既読』がつき、英琉から短い返事が送られてきた。
しかし『フォロワー5万人達成おめでとうございます。これからも期待しています』という文面には、以前のような親しみやすさは感じられなかった。
私ががっくりと肩を落としていると、少し離れたデスクに座る七瀬と目が合った。
彼女は、私とは対照的にどこかスッキリした表情をしている。そして、ほぼ同時に席を立った私たちは、どちらからともなく歩み寄ると、初めてシンクロした。
「ねえ、長谷川さん…」
「ねえ、村上さん…」
不機嫌な紗良とは対照的に、清々しい表情の七瀬。一体、なぜ？
〜とっくに吹っ切れていたから…七瀬の3ヶ月〜
― 一ノ瀬さん、お父様のことで気を落としているだろうし。それに、忙しいよね…。
会社のInstagramのフォロワーが目標の3万人を達成したのは、英琉の父が他界してすぐのことだった。当初、広報部の次は秘書課へ異動する予定だった彼だが、ほどなくして社長に就任すると、私たちとは顔を合わせることがなくなった。
だから、そのことは伝えずにいたのだ。
それと、私は部長からこんな提案もされていた。
「長谷川さん、営業部へ戻るつもりはない？」
聞くと、私が営業部にいたころに親しくしていた先輩が部長になったのだという。そこで、新しく立ち上げるチームのメンバーとして、私と一緒に働きたいと言ってくれているそうだ。
英琉が広報部に配属されてからというもの、どこか仕事に集中しきれていなかった私にとって、これは本来の自分に戻るいいきっかけだと思った。
こうして、異動の準備や仕事の引き継ぎをしているうちに、あっという間に3ヶ月がたっていた。
◆
広報部での仕事も、あとわずかというある日。会社のInstagramのフォロワーが、5万人を超えた。
私は、これをひとつの区切りにするために、英琉に報告のメールを送ることにした。彼からの返事は、その日のお昼過ぎに送られてきたが『おめでとうございます。これからも期待しています』という当たり障りのないものだった。
むしろ、それが清々しくもあり、私はすぐに仕事へと頭を切り替えることができた。
「うん、あとは…この引き継ぎを村上さんにして…と」
そこでふと、紗良のほうに視線を向けるとタイミングよく目が合ったので、私は席を立って彼女のほうへ向かった。
口を開いたのは、ふたり同時だった。
「ねえ、長谷川さん。一ノ瀬さんと最近…」
「ねえ、村上さん。この新商品のプレスリリースなんだけど…」
だが、内容はまるで違うものだった。
「えっ？長谷川さん、何て？」
「村上さんこそ、一ノ瀬さんが何？」
そして、顔を見合わせると、ふたりして笑ってしまった。
「もうっ、長谷川さんって相変わらずだよねえ！仕事のことばっかり！」
「それは、村上さんでしょ！仕事中なのに、いつも恋愛のことばかりじゃない！」
「…ねえ、今日なんだけど…」
「…あの、今日これからは…」
私たちふたりの、この日2回目のシンクロは食事の誘いだった。
◆
これまでは、可愛さを武器に、まわりに甘えてばかりの紗良をどこか冷ややかな目で見ていた私だった。
けれど、一緒に仕事をしてみると、意外と根性があったり、負けず嫌いな一面があったり、何よりここまではっきりと物事を言い合える彼女との関係は貴重なものなのではないかと思ったのだ。
何かにつけて、言い争いになることは多いけれど、別々の部署で働くことになった私たちは、今でも週に1度は夜ご飯を食べに行く仲だ。
紗良には、社外に新たなターゲットができたらしい。一方で私は、仕事に邁進する毎日だ。
そこへ、こんなうわさが飛び込んできた。
「一ノ瀬さんが、婚約したらしいよ！」
その日の夜。
私たちは、中目黒にある『SPICEHOLIC』にいた。スパイスをふんだんに使った料理は、ピリッと刺激的でいつも以上にお酒が進む。
「七瀬ちゃんっ！一ノ瀬さんって、電撃結婚ならぬ“電撃婚約”らしいよお〜！」
「ふーん、まあそれはいいんだけど。どんな相手なのかは、ちょっと気になるよね」
紗良は、自家製の漬け込み酒2杯目で早くも酔い始めている。小首をかしげながら、私の目をジッと見つめて、甘ったるい声でこう言った。
「私の何がダメだったのお？あ〜、彼に好きって言わせたかったなあ！」
「はいはい。だったらそのあざとい感じ、もう少し引っ込めたら？」
御曹司との恋は、手に入らなかった。けれど、何でも言い合える意外な友人ができた私は、この数ヶ月の月日は悪いものではなかったなと今は思えるのだった。
Fin.
▶前回：新社長となったイケメン御曹司。美女ふたりの想いを断ち切って、休日にデートする女性とは？
▶1話目はこちら：容姿と性格が真逆の美女ふたり。そこに御曹司が配属されて…？
