ロブションで迎える30歳の誕生日ディナー。男にプロポーズされない女のNG行為…
「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね？」
そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。
彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。
男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。
でも男性が最終的に"NG"を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。
▶前回：可愛くて会話上手な28歳女。なのに男にホテルに“置き去り”にされたのは…
Vol.2 歩美、30歳。誕生日に最高峰フレンチでのプロポーズを期待
『歩美：カイくん、まだ飲んでるの？家に着いたら連絡してね！』
金曜日の23時。私はお風呂から上がると、彼氏の海にLINEを送信した。
取引先との会食だと言っていたが、スマホを見る余裕もないのだろうか。夕方に送ったひとつ前のメッセージにも既読がついておらず、私はモヤモヤしていた。
2歳下の海とは、付き合って1年になる。
彼は昨年末に、PR会社を辞め、先輩とふたりで人材派遣会社を起業したばかり。だから忙しいのはわかる。
でも、一応、結婚前提で付き合い始めたはずなのに、彼の熱量はその時がピークで、今はかなり冷めている気がするのだ。
― なんだか、私だけが好きみたい…。
あと数日もすれば、私は30歳。ふたりの関係に未来はあるのだろうか、と焦りと不安が容赦なく襲う。
私は、忙しくて忘れていた花瓶の水を換えると、ベッドに腰掛けた。
ありがちだと言われようと、私が一番好きな花は薔薇だ。
一番美しい時に散っていく桜と違って、どんなに醜い姿になろうとそこにあり続ける姿が、人間っぽくて好きなのだ―。
歩美は週末を彼氏のために空けていたが、彼氏の海は…
『海：ごめんごめん！今終わったとこ、もう寝てる？』
― カイくんだ…！
彼氏からLINEが届き、それだけで、胸がキュッと熱くなった。
好きな人からの連絡は、どうしてこんなに心を揺さぶるのだろう。私は、すぐにでも返信したい気持ちをぐっと抑え、ベッドに横になり目を閉じた。
翌朝、私は海に『昨日寝ちゃってた』とLINEを送り、今日の予定を聞いた。
今週は平日1日も会えなかったし、週末くらい何かプランを立ててくれているはず。そう思っていた。なのに、13時を過ぎても彼から連絡が来ない。
しかし、夕方から出かけるかもしれないという希望を捨てられず、お気に入りのバスオイルを垂らしたバスタブに浸かり、その後メイクも軽く済ませた。
― こんなことなら、ネイルかヘアサロンの予約をしておけばよかったな〜。
私は自分が哀れに感じるのと同時に、海にいら立つ。
その感情の吐口として彼に大量のLINEメッセージと、不在着信を数件残してしまった。
でも彼から折り返しがあったのは、15時過ぎのこと。
「歩美？どうしたの。なんかあった？」
「なんかあった、じゃないよ。なんで連絡くれないの？もう15時だよ。こんなに天気がいい土曜日を、無駄にしちゃったじゃない」
私は勢いに任せ、強い口調で海に文句を言う。
「えっ！会う約束してたっけ？ごめん、俺めちゃくちゃ二日酔いで、やっと今ベッドから出たとこだわ」
「別に約束はしてないけど。週末なのに、会わないの？私たち」
たしかに、ちゃんと約束はしていない。
しかし彼女がいるのなら、土日のどちらかを空けておくのは、思いやりというよりも常識じゃないのだろうか。
「ごめん。今日は無理だ。明日も朝からゴルフだ」
「…そう」
セットした髪もメイクも、時間も無駄になったことで私は泣きそうになった。
「ねぇ！私、彼女なんだよね？来週誕生日ってわかってる？ちゃんと祝ってくれなきゃ知らないから！」
私は一方的に電話を切り、冷蔵庫から冷えたシャルドネを取り出すと、ワイングラスに勢いよく注いだ。
どのくらいひとりで飲んだのか、覚えていない。
気づいたらソファでうたた寝してしまい、つけっぱなしにしていたNetflixでは、恋愛リアリティー番組の最終話が静かに流れていた。
30歳のバースデーディナー、プロポーズを期待する歩美だが…
「歩美、誕生日おめでとう。ついに30歳だね！」
「ありがとう〜！」
ずっと来たいと思っていた『ガストロノミー ジョエル・ロブション』。
海とシャンパーニュで乾杯すると、幸福感で胸がいっぱいになった。
リクエストした通り、フレンチの最高峰のお店に連れてきてもらい、私は上機嫌だ。
先週末、プチげんかをしてしまったが、海が謝ってきてくれたから仲直りができた。
今日は何といっても、30歳をお祝いする誕生日ディナー。きっと、プロポーズされる。そんな予感がする。
美しく華やかな料理を存分に堪能しながらも、私は、時間が経つにつれドキドキしていた。
「わぁ。すご〜い！」
想像以上に豪華なプレートが運ばれ、私は口を手で覆った。
「改めて、誕生日おめでとう！これからもよろしく」
海の手には真っ赤なバラの花束があり、笑顔で手渡してくれた。
しかし、本数は108本でもなければ、年齢に合わせた30本でもない。
「海、ありがとう。……うれしい」
そう答えたものの、彼への不満を隠しきれなかった。気づかれないようにバラの本数を目で数えたが、何度数えても11本。
― 11本…？少なくない？プレゼントはないの？ていうか、プレゼントは？
今にも泣いてしまいそうな感情を、私は必死で抑え込んだ。
食事を終えレストランを出た後は、海の住む中目黒までタクシーに乗ったが、私はほとんど会話ができなかった。
誕生日をロブションで祝ってくれたことは、もちろん嬉しい。
ここは、東京のフレンチの中でも決して安くないことを知っているし、私の友達でも行ったことがある人はごく僅か。
しかし、期待していたプロポーズはなかった。
それだけでなく、ジュエリーやバッグのプレゼントもなく、ギフトには定番の赤いバラが11本だけ。 それを思うと、悲しくて涙が出てきた。
「歩美？どうしたの？」
「ううん、なんでもない！」
「なんでもなくないだろ。言わなきゃわかんないよ。どうしたんだよ」
そう冷たく言われ、私は思っていることをすべてぶちまけてしまった。
海は無言でずっと聞いていた。そして、私が言い終わるとやっと口を開いた。
「すみません、ここでひとり降ります」
そして、まだマンションに着いていないのに、タクシーを降りてしまったのだ。
「えっ？ちょっと待ってよ。誕生日の夜にひとりにするの？」
引き止めたらタクシーに戻ってくれると思った。
「ごめん。今日は歩美といられない。タクシー代はアプリ精算になってるから」
「そんな…」
しかし、海はすぐに他のタクシーを捕まえていた。
私は、仕方なく自宅のある東新宿へ向かうように運転手にお願いした。
心臓がバクバクしていた。
このまま振られたら、結婚から遠のいてしまう。もう、30歳になってしまったのに…。
歩美との結婚を考えられなかった理由〜海の場合〜
歩美の第一印象は、綺麗なお姉さんだった。
それに、しっかり者でサバサバしてるのに、いい塩梅で女らしく、魅力的な女性に見えた。
なんでもリードしてほしいという年下の女の子が苦手な僕は、すぐにアタックし、ほどなくして交際スタート。
しかし付き合ってみると、だんだんとあることに気づいていく。それは、歩美は「そこまで大人ではない」ということ。
たとえば、思ったことをストレートに伝えてきたり、相手の都合を考えなかったり。
年齢の割にガキだな、と思うことが多かったのだ。
起業したばかりで大変なことは伝えているはずなのだが、先週も、週末には会うものだと勝手に決めつけていて、会えないとわかるとヒステリックに怒られた。
僕としては、約束していなかったのでお互いひとりの時間を尊重しようと思っていたが、歩美は、土日は恋人同士で過ごすのが当たり前だと説教してきたのだ。
トドメは今日の誕生日ディナー。
歩美の行きたいレストランを予約したが、お酒も結構飲んだので、会計は2人で20万円。
サラリーマンではないとはいえ、起業したばかりの僕には、痛い出費だ。
それをわかった上で、ニコニコと楽しんでくれたら僕も将来を前向きに考えたと思う。
しかし、歩美は違った。
「どうしてプレゼントがないの？プロポーズは？バラの数も少ない！」
そう、わかりやすく顔に書いてあったのだ。そして、それを感情に任せて僕にぶちまけてきた。
バラの11本の意味“最愛の人”を彼女がわかっていたら、まだ救われたかもしれない。
彼女は、水切りして丁寧に扱わないと、すぐに枯れてしまう薔薇のような女性だ。そこも最初は可愛らしく感じたが、もう無理だ。
「あ、ここで大丈夫です」
僕は自宅のマンション前でタクシーを降り、歩美と別れることを決意した。
▶前回：可愛くて会話上手な28歳女。なのに男にホテルに"置き去り"にされたのは…
▶Next：5月5日 木曜更新予定
「特技＝料理」の女が、危険な理由って？
