同期の美女と話してただけなのに…。男性上司がニヤニヤしながら近づいてきて放った、ありえない一言
マウンティング。
本来は動物が「相手よりも自分が優位であること」を示そうとする行為のことを言う。
しかし最近、残念ながら人間界にもマウンティングが蔓延っているのだ。
それらを制裁すべく現れたのが、財閥の創業一族で現在はIT関連会社を経営する、一条元（はじめ）。通称・ジェームズだ。
マウンティング・ポリスとも呼ばれる彼が、今日戦う相手とは…？
▶前回：息子が受験に失敗し、公立小へ通うことに。そこで慶應幼稚舎に合格したママ友が掛けてきた、最悪な一言
金曜13時。会社勤めをしている人たちで混み合う、丸の内のオフィス街。
「平日の昼間なのに、混んでるね」
「みんな優雅だよね〜」
スーツ姿の男性もいれば、子連れのママもいる。若い女性たちのグループも目立つ。
「なんの仕事をしてる人たちなんだろうね。こんな真っ昼間からお茶できるなんて…」
僕の発言に、2人が顔を見合わせて笑っている。
「いやいや、ジェームズ。傍から見れば、僕らだってそのうちの1人だからね？」
「そっか」
今日は午前中で仕事が終わってしまい、暇だった僕。なので瑛太を呼び出したら、昼休みにオフィスから抜けてきてくれたのだ。
ちなみに蓮は起業しているから、自由なスケジュールで動ける。
「世間はもうすぐゴールデンウィークだからねぇ」
「ゴールデンウィークってさ、よく考えるとすごい名前だよね」
このときはまだ、数時間後に“ある現場”へ呼び出されるなんて露知らず。呑気に午後のカフェタイムを楽しんでいたのだ。
その夜、ジェームズたちが制裁を加えることになった相手とは…？
Case13：後輩にマウントを取ってくる、ダサい男／通報者・流星（29）の怒り
僕は今、猛烈に怒っている。いや、怒りを通り越して呆れていると言ったほうが正しいのかもしれない。
「橘さん、こちら確認してもらってもいいですか？」
僕が勤めているのは、一応業界内では最大手と言われている広告代理店だ。課長の橘さんは、僕より20歳くらい年上。たしか50過ぎだったと思う。とにかく会社の大先輩だ。
「あぁ、書類ね。そのへんに置いといて。後で確認するから」
「すみません、こちら急ぎでチェックが必要でして…」
そう言うと彼は明らかに面倒くさそうな顔をして、僕のほうをチラッと見た。
「こう見えて、課長って忙しいんだよ。もう少し待てるよね？」
何かと“忙しい”アピールをしてくる橘さん。だが僕は知っている。彼が勤務中にゲームをしたり、仕事と全然関係のないLINEをしていることを。
橘さんの席は窓際にあるから、彼のゲーム画面が窓に反射して偶然見えてしまったのだ。
― こんなに仕事してないのに、橘さんの給料は僕の3倍くらいあるんだもんなぁ。
日系企業の年功序列システムを恨めしく思う。でも、僕が何か言える立場ではない。だから大人しく、無能な上司の戯言を聞き流す日々だった。
しかしこれだけだったら、どこにでもいる上司と同じかもしれない。
だが橘さんは、自分より目立つヤツが大嫌いな“マウンティングおじさん”だったのだ。
例えば、ランチタイム中。社内でも「可愛い」と評判の藍原さんと僕が、話をしていたときのことだった。
「流星くん、今度友達が飲み会を開いてほしいらしくて…。忙しいところ申し訳ないんだけど、1回お願いできないかな？」
「そうなんだ。わかった、誰か探しておくね」
彼女と僕は同期なので、以前から仲がいい。少し雑談をしてからデスクに戻ろうとしたそのとき、橘さんが急に近づいてきたのだ。
どうやら僕たちが話していた様子を、陰から見ていたらしい。
「内田〜。何、今の？藍原さんと仲いいの？」
「え？いや、彼女とは同期なんです」
「ふーん、内田ってカッコいいからね。…でも、今のうちだけだよ？男が顔面で勝負できるのなんて、30歳までだから。今後もずっと、女の子からチヤホヤされるなんて思わないほうがいいよ」
それだけ言うと、颯爽と去っていった橘さん。僕は何も言い返すことができず、モヤッと感だけが残った。
― 今のは、なんだったんだろう。牽制されたのか？
だが橘さんの愚行は、これだけでは終わらなかった。
「内田！今夜、一杯行こうよ」
「えっ、今日ですか？」
正直、彼とは飲みたくなかった。なぜなら橘さんと飲むと、毎回同じパターンに陥るからだ。
「藍原さんにも声かけといて。せっかくなら、みんなで行こう」
帰って1人で飲みたい気分だったのに…。断れる雰囲気でもなく、僕は藍原さんに声をかけることになってしまった。
「藍原さん、ごめん…。誘えって言われたから、一応声かけてみた」
「橘さん？面倒くさっ！でも流星くんだって断れないよね…。いいよ、私一緒に行ってあげる」
「えっ、本当に？」
「うん。ただし、スペシャルゲストを呼んでもいい？」
このときの僕は、なぜスペシャルゲストを呼ぶのか、全く理解できていなかった。
それに、またいつもの「昔、俺はアレをした」「コレをやったのは、俺」という橘さんの“アレオレ武勇伝”を聞かされると思って、気が重かったのだ。
だから藍原さんの心遣いが、本当にありがたかった。
若い頃の武勇伝を語る男。語れば語るほど、墓穴を掘っていき…
藍原さんが予約してくれたお店に着き、席へ通された僕。「意外に隣のテーブルとの距離が近いなぁ」なんて思っていると、彼女もやって来た。
そのうしろから、ただならぬイケメン3人衆が入店してきたので、つい目で追ってしまう。そして藍原さんは僕の横に、彼らは隣のテーブル席へと座った。
― 外資系の人たちかな？カッコいいなぁ。
そう思っていると、いきなり藍原さんが彼らと話しだしたので驚いてしまった。
「ちょっと、どういうこと？」
「こちらジェームズさんと、蓮さんと瑛太さん。私の知り合いなんだ。さっきまでパレスホテルにいたみたいだから、呼んでみたの」
意味がわからず戸惑っていた、そのとき。ようやく橘さんがやって来た。すると藍原さんは、早口で彼らに指示を出し始める。
「じゃあ、そういうことだから。いつもの3倍くらいの声量で話してくださいね！特にジェームズさんは、声が小さいから」
「はーい。うまくいくかなぁ」
「大丈夫です、3人なら。では、よろしくです！あ、橘さんこっちです〜」
藍原さんの切り替えの早さに、圧倒されてしまう。これから何が起こるのか、僕は全く想像できなかった。
そして何事もなく食事が進み、中盤に差し掛かった頃。橘さんの、いつもの話が始まった。
「僕の若い頃は、本当に大変で。ほぼ毎日徹夜だったし、家に帰れないくらい忙しかったんだぞ」
「はぁ。すごいですね」
― また始まったよ、寝てない自慢。それの何がすごいんだろう？
そう思いながら、小さくため息をついたときだった。隣のイケメンたちの会話が、急に聞こえてきたのだ。
「ジェームズってさ、1日何時間くらい寝てるの？」
「えっ、僕？6時間くらいかな。でも休日とかは9時間くらい寝るときもあるけど。睡眠って、大事だからさ」
思わず、僕たちのテーブルが静まり返る。すると何かを察したのか、橘さんが慌てて話題を変えた。
「内田は今、30歳くらいか？僕が30代のときは、あの広告をやってたんだ。知ってるか？大女優のマナミが出てたCM。アイツは、俺が育てたようなもんだからな」
すると、また隣から声が聞こえてきた。
「そういえば蓮、叔母さまは元気？お名前、なんだったっけ…」
「あぁ、マナミさん？元気らしいよ。今は売り出してくれた監督と結婚して、アメリカにいるけど」
ここにきて、何かに気がついたらしい橘さん。僕の横でワインを飲んでいる藍原さんは、こっそりニヤニヤしている。
「瑛太、仕事は順調？」
「まぁ、おかげさまで」
「…えっ、それだけ？（笑）」
「仕事のことなんて、別にベラベラ話さないでしょ。ダサくない？」
そのとき、イケメン3人衆と目が合った。
仕事のことを偉そうに話すのは、たしかにダサい。それに、本当にすごい人に限って何も言わないものだ。
なんだか憎めないスマートな3人に、僕の心はポカポカと温かくなった。
それに彼らの姿を見て、橘さんは何かを悟ったらしい。これ以上、彼が武勇伝を語ることも、不必要に偉そうにしてくることもなくなったのだった。
▶前回：息子が受験に失敗し、公立小へ通うことに。そこで慶應幼稚舎に合格したママ友が掛けてきた、最悪な一言
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“若さ”だけがウリの、年齢マウント女
