宇崎竜童、宮川泰、三木たかしと共演する坂本冬美

 デビュー10周年記念として、1996年に『螢の提灯』『さよなら小町』と、3枚同時に発売させていただいたのが、この『TOKYOかくれんぼ』です。

 昭和世代の方には懐かしい、平成生まれの方にとっては、なんだこれは? という縦長のシングルCD。ディスクのサイズもちょっと小さい8cmです。なぜこのCDが誕生し、なぜ消えていったのか、その理由は……謎です(笑)。

 作詞は真名杏樹先生。作曲は、代表曲『夜桜お七』をプレゼントしてくださった三木たかし先生で、シングルとしては初めてとなるポップス作品でした。

 話を聞いたときは「また、無茶なことを……」と思ったような記憶がありますが、こうして、一曲一曲を振り返る機会をいただいたことで、

ーーまだまだ、固まるのは早い。いろんなことにチャレンジさせよう! というスタッフの思いを、痛いほど感じています。

■月に一度のお休みは朝から病院で点滴

 柳ジョージさんとのコラボ以来2度めとなる、ライブハウスのステージに立つという体験をさせてもらったのもそのひとつでした。「V.S.O.P」Very Special Only one-time Performance “たった一回きりの特別パフォーマンス” 。

 共演してくださったのは、宮川泰先生、宇崎竜童さん、三木たかし先生……思いっきり自慢しちゃいますが、すごいメンバーです。

 黒のパンツに黒のジャケットという衣装に身を包んだわたしの横で、宮川先生が優しくピアノを弾き、宇崎さんが高らかにトランペットの音を響かせ、三木先生が物語を紡ぐようにギターを奏でる……ほんと、夢の中にいるような時間でした。

ーーえっ!? 何を歌ったのか教えてほしい?

 いや……あのぅ……それはですね……モゴモゴモゴ。

 言い訳です。言い訳ですけど、聞いてください。当時のわたしは、次から次へと押し寄せるスケジュールをこなすのに精いっぱいで。

 はぁ、今日も終わった。よぉし、なんとか今日を乗り切ったぞ……。毎日がその繰り返しで。終わったことは頭から消さないと、次が入ってこないという状態だったのです。

 デビュー10周年のパーティー。5度めの座長公演。東京、大阪と続く記念リサイタルに加え、毎年恒例となっている全国80カ所160回にも及ぶコンサート……すべてが、全力投球です。

 お休みは月に一度。それなのに、その日を狙ったように体が悲鳴を上げて……。朝から病院に駆け込んで、ベッドの上で点滴を受けながら、あ〜、う〜と唸り声を上げていたような一年でした。

 この年、『紅白歌合戦』で、初めて紅組のトリを務めさせていただいたときもそうです。12月に入ってから盲腸の手術をして。完全に治り切る前に本番のステージに立つという、いま考えると、かなり無茶なことをしていました。

 傷口に帯がかからないように、担当医の先生が少し下のほうを切ってくださったので、なんとか無事、本番を乗り切ることができましたが、いやはや、なんともです。

 だからといって、「V.S.O.P」で何を歌ったのか、覚えていなくてもいいとはならないわけで……モゴモゴモゴ。

 もしも、です。もしも、このライブを観た! という方がいらっしゃいましたら、ぜひ、編集部までご一報ください。お待ちしています。

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』、そして最新シングル『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、ファン投票によって選曲された『坂本冬美35th Covers Best』と、メモリアルイヤーの締めくくりに『夜桜お七』初のアナログ盤が発売中!

写真・中村功
構成・工藤晋