女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でもあるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第11回は、現在56歳の川上さんの「更年期」体験と20代で経験した「パニック症」について。その際に大きな心の支えとなったという“おヒョイ”さんこと俳優・藤村俊二さんとの思い出を振り返ります。

川上麻衣子さんが思う「更年期と老いがもたらしてくれるもの」

日に日に暖かくなるこの季節は、なにか新しいことを始めたくなる季節でもあります。春は環境が変わることの多かった青春時代を思い出しますが、入学式や就職活動とは無縁の50代でもワクワクは変わりません。

パニック症に悩まされていた頃の川上麻衣子さんと、名優・藤村俊二さん<写真>

「新しいことを始める=できなかったことができるようになる!」
これがいちばんのアンチエイジングだと私は信じています。外見の衰えは、ある意味成長の証。

 

●子どもの頃は怖かった「老化」。意外と悪くない

子どもの頃に祖母とお風呂に入った際に、腕や脚の皮膚のたるみを見て感じた老いが着々と自分の体に刻まれ始めていることを、最初に気づいたときはかなり落ち込みましたが、50代も半ばとなると意外と受け入れられるものです。

私の「更年期」もいよいよ終わったのかもしれないなと、ほくそ笑んだりします。結局更年期は、成長を続ける自分に心がついていけず、もがいている状態なのではないかと思うのです。

私の場合、なにもかもが平均どおりに成長してきました。反抗期も、乳歯から永久歯に生え変わる時期も初潮を迎えたときも…。

順調に成長することを喜び、健康な体に感謝しておきながら、ある年齢を過ぎた途端に成長を止めようとあがくのは、なにか道理に反する気もしています。ですから「更年期障害」についても、平均どおり私にも40代半ば頃に、自覚できる程度のさほど深刻ではないものがそれなりにやってきました。

さほど深刻ではないと、表現したのは、私の場合20代後半の情緒不安定な日々の方がはるかに深刻だったからです。

●20代後半に心のバランスを崩しパニック症に

これも今思えば、成長する自分についていけず、心のバランスが崩れたせいなのかもしれませんが、さまざまな不安からパニック症に陥り、常にビニール袋を持ち歩く生活でした。

完璧でありたいと思う自分と、完璧ではない自分。自分の描く理想と、現実の自分とのギャップ。そんなことに翻弄されて、いわゆる自律神経失調症の症状に苦しみました。

30代半ば頃まで、不安定な部分は残りましたが、その後克服できたのは大好きな俳優、「おヒョイさん」こと藤村俊二さんのおかげでした。

●救ってくれたのは俳優・藤村俊二さんの言葉

 

舞台で共演した際、飄々とされているイメージの強いおヒョイさんの手が本番直前、氷のように冷たいことに驚いた私に「マイちゃん。本番前は緊張で倒れそうなくらい不安になるもんだよ」と教えてくださいました。

あまりに意外と思えたこともあって、普段は隠していたパニック症を打ち明けたところ、「大丈夫!! もし倒れたって逮捕はされないもんね」とあの悪戯っぽい笑顔で励ましてくれました。そうなんですよね。恥ずかしい気持ちになったとしても、別に逮捕される訳じゃあるまいし…。

そう思った途端に肩の荷が降りたかのように気持ちが楽になり、パニック症との縁が切れたのです。この教訓が効いたせいか、更年期障害特有のホットフラッシュで、女優にあるまじき汗が顔から噴き出したりしても、落ち込むことなく、自身の成長と割りきってつき合えたように思います。年をとることは決して罪ではないのですから。

 

●年を重ねることを楽しみ、新しい挑戦もしていきたい

昔両親とテレビを観ていると、きまって「あら、この女優さんも、随分老けたわね」と口にする場面が何度もありましたが、そう言われるのは表に出る人間の宿命なのでしょう。人は変わっていくものなのです。

いちばん恐れなければいけないのは、変化を拒むことで不自然な姿になることだと私は感じています。ほめ言葉としてよく、「全然変わらないね」という表現を使いますが、変わらないなあと思う人たちをよくよく観察してみると、じつはしっかりと時代とともに変わっているからこそ違和感なく、移りゆく時代の流れを上手に楽しんでいる姿が、若い頃と変わらなく見えるのだと思います。

できたことができなくなったことに捉われず、新しい挑戦にワクワクして、できなかったことができるようになる! これに勝るアンチエイジングはないと私は思うのですが、皆さんはいかがでしょう。