「重力レンズ」を利用して5150光年先の「はぐれブラックホール」の観測に成功
ブラックホールは光さえ飲み込んでしまうことから望遠鏡などで直接観測することは困難であり、重力波やガンマ線バーストなどのブラックホールに特徴的な現象を利用した観測が試みられています。そんな中、海外の研究チームが「重力レンズ」と呼ばれる現象を利用して地球から約5150光年離れた位置に存在するブラックホールの観測に成功しました。
[2201.13296] An Isolated Stellar-Mass Black Hole Detected Through Astrometric Microlensing
Rogue black hole spotted on its own for the first time | Space
https://www.space.com/rogue-black-hole-isolated-discovery
地球が属している天の川銀河には超新星爆発によって生み出された「恒星質量ブラックホール」が数億個あるとされています。恒星質量ブラックホールはこれまでにも複数個観測されていますが、それらは近接した位置に存在する中性子星などの天体との相互作用を利用して観測されており、周囲に大規模な天体が存在しない独立したブラックホールが観測された例はなかったとのこと。そこで、研究チームは独立したブラックホールの観測に取り組みました。
研究チームは、ブラックホールなどの強力な重力場が光を曲げる「重力レンズ」と呼ばれる現象を利用してブラックホールの観測を試みました。重力レンズはブラックホールだけでなく中性子星や白色矮星などの大規模な天体も引き起こす現象で、重力レンズによって光が曲げられた地点を地球から観測すると、その地点が暗くなったように見えます。研究チームの一員であるカイラス・サフ氏によると、ブラックホールによる重力レンズは長期間にわたって周囲の明るさに影響を与えるとのこと。加えて、ブラックホールは他の大規模な天体と異なり目視できないことから、「光が長期間にわたって曲げられ、かつ、その原因が目視できない地点」があれば、そこにブラックホールが存在していると考えることができます。
研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡で検出された約6年分の重力レンズイベントを分析しました。その結果、地球から約5150光年離れた位置で上記の条件に合致する重力レンズイベントが発生していたことが判明しました。以下の画像は、発見された「MOA-2011-BLG-191/OGLE-2011-BLG-0462」と呼ばれる重力レンズイベントの観測結果を示しており、観測日によって中心付近の星の明るさが変化していることが分かります。
今回発見されたブラックホールは太陽の約7.1倍の質量を持ち、時速16万2000kmで移動し続けているとのこと。研究チームは、このブラックホールは超新星爆発の影響で生み出され、その勢いで移動し続けていると推測しています。
サフ氏は今回の研究結果を基に、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡やNSFヴェラ・C・ルービン天文台に設置された最新の望遠鏡などが将来的に独立したブラックホールの観測に非常に役立つ可能性があると述べています。