在日アメリカ大使館領事部は、12月6日日本在住のアメリカ国民に対して日本の警察官による「レイシャル・プロファイリング」が疑われる行為が多発しているとツイートして警告した(写真:/Bloomberg)

12月6日の朝、ツイッターでアメリカ大使館領事部が、日本の警察が外国人を「レイシャル・プロファイリング」していることについて、日本で暮らすアメリカ国民に警告を発したことを知った。レイシャル・プロファイリングとは、特定の人種や民族、肌の色、宗教などを対象に捜査活動を行うことだ。

そのツイートは、文字通り非常警報で、次のように書かれている。「レイシャル・プロファイリングが疑われる事案で、外国人が日本の警察から職務質問を受けたという報告があった。数名が拘束され、職務質問や所持品検査をされた」「拘束された場合は領事館への連絡を要請する必要がある」。

自転車に乗っていると突然警官が来て…

私は驚かなかった。

数週間前のある日の午後、八王子駅の近くで、自転車でブラブラしていると、突然警察官が目の前に割り込み、私に止まるように合図した。私は驚いた。そして、私の中にいるブラック・アメリカンが、一抹の恐怖と憤りを感じた。


アメリカ大使館領事部が発した日本の警察にレイシャル・プロファイリングの疑いがあるというツイート(ツイッターより)

だが、私はそれを抑えた。 警官は私の自転車の登録を確認したいと伝えた。 理由を聞いた。警官は自転車が盗難されていないことを確認しなければならないと言ったので、私はその必要はないと言った。彼は拘束して申し訳ないが、最近盗まれた自転車があったので、確認しなければならないと言った。これは決まっている任務だと言い、 そしてまた詫びた。

私は警察は自転車に乗っている人全員を定期的に止めて確認しているかどうか尋ねた。もしそうなら、ひどい人員不足だ。彼はニタっと笑って、一部の人を止めただけだと言った。私はどんな理由であっても今後避けることができるように、自分が何をしたからこの「一部の」人々に含まれたのかと当然疑問に思った。

「一部の人? 本当に? ランダムですか? もしくは直感的ですか? それと決まりがあるのですか?」 私は尋ねた。「常連の容疑者たちを検挙しただけだと言わないでくださいね」。

警官は答えなかった。彼は私に奇妙な視線を向けただけで、私の在留カードを確認したいと言った。ちょうど近くの交番からほかの警官が何人か現れた。 そして、私が大道芸人で、彼らは熱狂的ファンであるかのように、みんな笑顔で会釈をし、そして密かに「ソフトに」私を取り囲んだ。

その時八王子駅には多くの通行人がいて、通り過ぎる人たちはこの光景を決めつけた目で一瞥し、非難するように私を睨みつけた。私はこの非難の焦点となることでとても恥ずかしい思いをした。非常に不快だと警官に伝えた。彼は私の在留カードを偽造品だと疑うかのようにスキャンし続け、その間、謝罪して会釈をした。

人生で初めて、自分個人が法執行機関のハラスメントの標的にされていると感じた。この犯罪に関する疑いは、自分の人種や民族(外国人であること)に関係していると感じた。誰かが私の尊厳に唾を吐いたように感じ、泣きそうになった。警官たちは自転車が盗難されていないと確認するためだけに15分間公然と私を辱めたのだ。

帰宅途中で私は側溝に嘔吐し、その週の残りは具合が悪かった。

「20年間頻繁に警察に止められた」

日本におけるレイシャル・プロファイリングの存在を感じているのは私だけではない。

世界的なダンサー兼振付師であり、長年日本に住んでいるブルックリン出身のテリー・ライトさんは、警告の中で「疑い」という言葉が使われていることに気づいた。彼は初めて日本に来てから20年以上の間、日本の警察に頻繁に止められてきたので、彼にとってレイシャル・プロファイリングは疑いどころか、「当たり前のこと」とさえ感じると語る。

その理由として、ライトさんは自分が止められた時のエピソードを挙げた。東京で何人かの友人とともに金曜の夜に繰り出した時のことだ。自分たちが警官に止められる前に、酔っ払って騒いでいる日本人男性たちを目にした。ライトさんほかの黒人男性2人とドレッドヘアの日本人男性と一緒だった。

「警察は私のことを調べようとしたが、大声で話している酔っ払いの日本人男性たちにはまったく注意を払っていなかった」。アメリカのストリートダンスのパイオニアであるライトさんはこう話す。

「だから、私は警官に尋ねた。『なぜあなたは彼らのところには行かなかったんですか? どうして私たちのところに来たのですか? 私たちは黒人だからですか?』。すると、警官はこう答えた。『ええと、それがまさにあなたがドラッグを持っていると思う理由です』」。

この答えに私は大笑いしてしまった。つい最近私が経験したことと同じだったからだ。だが、ライトさんは笑っていなかった。

「だからこそ、アメリカ大使館から、日本でプロファイリングされている疑いを警告されたとき」と、テリーは苦笑いして続けた。「『濡れているから、ビーチに行くときは気をつけて!』と言われているように感じた」。

今回のアメリカ大使館による警告が遅きに失していると思ったのは、テリーさんだけではなかった。実際、ソーシャルメディアでは多くの人が「そんなこといまさら言うまでもない」という反応をしていた。

一部の人はまた、レイシャル・プロファイリングが疑われる例が大幅に増えている理由をそれぞれ推察した。アメリカ人、特に有色人種が、警察がつねに自分たちを不当に標的にしていると不満を言っているわけではない。

ここでのシナリオは、映画「カサブランカ」のシーンを思い出させた。腐敗したフランスの警官ルノー署長が、自分が常連のカジノの真ん中で、その晩のギャンブルの賞金を手渡される直前に、ハンフリー・ボガート演じるリックに対して、「ここでギャンブルが行われているのを知ってショックだ」と言うシーンだ。

なぜ突然アメリカ大使館が警告を発したのか

アメリカ大使館が突然、日本の警察を諌めることに決めた真相に迫ろうとして、いくつかの理論が浮上した。

「アメリカ大使館の誰かが警察に止められたに違いない」と、日本で作家として活躍するマシュー・カウフマンさんは推察する。

「長年にわたって多くのアメリカ人が、何度も警察に止められたことへの不満を伝えにアメリカ大使館に行ったはずだ。しかし、私が知るかぎり、プレスリリースみたいな警告がこれまで発行されたことがなかった。連続的にハラスメントを受けてきた一般の人々の苦情は却下されることが多いが、幹部からの苦情は波風を立てることがあるのではないか」

私は在日アメリカ大使館に連絡し、実際の回答を得て憶測に終止符を打とうとしたが、残念ながらなんの回答もなかった。 プライバシー上の理由から、アメリカ大使館は特定の件について論じないと言う。

広報担当者によると、「アメリカ国務省は、海外のアメリカ国民の安全と保安を超えた責任を負わない。当局は、警察によるアメリカ国民を含む外国人のレイシャル・プロファイリングの疑いについて、日本で複数の信頼できる報告を受けており、これらの報告をしかるべき日本当局に伝えている。在日大使館のアメリカ市民サービス課のツイッターアカウントは、重要な安全および保安情報を提供することにより、海外に渡航および居住するアメリカ国民を保護する役目がある」としている。

「私は日本が大好きで、文化と人々が大好きだ。しかし、日本はつねに島国であり続け、その歴史の大半は世界から孤立してきた」と、教師、ミュージシャン、音楽プロデューサーのデロン・レイノルズさんは話す。

「根底にある人種差別的なトーンに加えて、今の日本は孤立主義的な感情を強めている。日本政府が外国人にハラスメントをするように伝えているとしか思えない。白人である私もハラスメントを受けていると思うが、悲しいことに、日本では有色人種の人々からよりひどい話を聞く」

私は日本に17年間住んでいるが、アメリカ大使館が日本について警告を出したことはほとんどない。他国と異なり、日本は長年アメリカ人にとって安全な場所だった。

2011年の東日本大震災の時、アメリカ大使館は日本からの出国を検討するよう忠告した。私も出国しかけたが、私もこの国が大好きだ。日本は私の家であり、危機の最中に日本を捨てることはできなかった。

パンデミックが人種差別的な空気を強めた

そして今、私たちは別の危機の真っ只中にいる。今回は終わりの見えないパンデミックだ。そしてこう状況は、いわゆるグローバルコミュニティの醜さを引き出している。世界中で外国人排斥が加速しており、日本もその例外ではない。一部の国で人種差別と新型コロナウイルスに結び付けられる中、アメリカなどでは、#StopAsianHateのような運動も起こった。

今回、新たな変異株であるオミクロン株がアフリカで検出された際、多くの感染症学者が「ウイルスの特性については研究中」としているにもかかわらず、多くの国はアフリカ諸国を対象とした渡航禁止措置などを発し、さらにアフリカ系の人々に汚名を着せた。

これが、アメリカ大使館が疑うレイシャル・プロファイリングに悪影響を及ぼす可能性があるだろうか。つまり、この影響がバイレイシャルの日本人や、アメリカ人以外の「黒人」にまで及ぶか、ということである。

日本政府はそうではないと述べている。事実、松野博一官房長官は、警察が人種や国籍に基づいて不審者に質問しているという主張を否定した。しかしこれは、多くの外国人居住者の生きた経験に反する。

警官がプロファイリングを行っていないのであれば、きちんとその誤解を説明して、解消しなければならない。私の個人的な経験から言えば、このような扱いを受けることは不愉快以外何でもなく、多くの外国人、特に有色人種は同じように感じているのだ。