Jリーグが「ホームタウン規定」の緩和を発表した。

 大きな変更点は「ホームタウン外での事業」が可能になることだ。サッカースクールやクリニック、イベント、オフィシャルショップの展開などが、ホームタウン外でも可能になる。

 生まれ故郷に住んでいないけれど、生まれ故郷のJクラブを応援している、という人は一定数いるだろう。生まれ故郷のクラブのホームゲームには行けないけれど、自分の生活圏でのアウェイゲームなら行ける、あるいは行く、という人たちだ。

 今回の規制緩和によって、ホームタウン外に住んでいる人たちに向けた仕掛けができる。たとえば、九州のJクラブが東京に住んでいるファン向けに、ホームゲームをパブリックビューイングで一緒に観戦するイベントを開けるようになった。

 ビジネスチャンスを広げていくための規制緩和なら、どのクラブにとってもメリットはあるだろう。個人的にも異論はない。

 Jリーグはそのうえで、「地域密着の理念は変わらない」ことを強調した。当然だろう。

 そもそも、地域密着とは何を意味するのか。僕が思い浮かべるのは「共助の精神」だ。

 Jクラブはサッカーチームという枠組みにとどまらず、練習や試合以外にも地域のために動いている。アカデミー、育成組織、下部組織などと言われる小中高校生のチームは、そのもっとも分かりやすい例だ。

 将来のプロ選手を自前で育てるという意味合いを持っているが、実際にプロまで上り詰めるのはほんのひと握りに過ぎない。だとすれば、アカデミーはサッカーを通した人間教育の場所と考えることができる。主体性や協調性を学ぶ場所だ。

 選手たちが学校を訪問して授業を行なったりするのも、子どもたちに夢を持つ大切さを知ってもらう機会となっている。お年寄りを対象にした健康教室などは、高齢化社会が求めるプログラムのひとつである。

 地域密着をひと言でまとめるなら、「ホームタウンの人々の生活を豊かにするための働きかけ」だろう。スポーツチームが入場料の対価として販売する勝利の喜びは、試合のたびに必ず提供できるものでなく、可視化できるものでもない。だからこそ、地域の人たちとともに歩んでいく姿勢が、クラブの持続的な存続と発展に欠かせない。そう考えると、地域密着とは「勝ち負けにとどまらないクラブの存在価値」を、ホームタウンに落とし込んでいく作業でもある。

 そうやってクラブ発信で目に見える交流を継続していくと、クラブがホームタウンの人々にとって必要なものになっていく。最初のうちは「ときおり必要なもの」だとしても、やがては「欠かせないもの」となり、地域の共有財産となっていく。

 地域の共有財産だから、クラブの危機は他人事ではない。ホームタウンの人々は自分事として受け止め、自分にできることがあれば積極的に動くだろう。「共助の精神」が発揮されていく。

 ホームタウン外でできることが増えても、ホームタウン内での活動が大切なのは変わらない。J1ならリーグ戦は34試合で、ホームゲームは17試合だ。J2ならホームゲームは21試合である。ホームタウンでのホームゲームは、カップ戦を含めても30試合に届かないだろう。1年の12分の1ほどに過ぎない。

 だからこそ、試合が行なわれない日に何をしていくのか、ホームタウンにどれだけ笑顔を広げられるかかに、Jクラブの価値がある。つまりそれは、どれだけ地域に密着した活動ができるか、ということなのだ。