コロナ禍で生活はどう変わったのか……内閣府の「新型コロナウィルス感染症の影響下に置ける生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年)をひも解いた。コロナ禍での大きな変化は、家族への意識が高まっていること。約半数が家族の重要性をより意識するようになったと回答。加えて高まっているのは、「東京在住者が、地方暮らしに関心を持つ」ことで、東京都23区に住む20代がもっとも関心が高く、35.4%が「興味がある」と回答。広い家や割安な生活費など地方生活には利点も多い。

とはいえ、現実的に考えると、単身で移住するのはなかなかハードルが高い。都会女子が地方に住むきっかけは、実家に戻るか結婚という人が大多数なのではないだろうか。

そこで今回は、「コロナ禍を機に結婚し、地方に移住した」という女性を取材。メリットとデメリットは何かを深堀りした。

東京生まれ、東京育ちで虫が大嫌い

萩島花音さん(仮名・32歳)は、東京生まれ、東京育ち。現在は東海地方の人口4万人ほどの都市に住み、もうすぐ1年になるという。

「東京からクルマで3時間。大学時代から交際していた彼と結婚して移住しました」

彼は地元の企業の4代目。代々、東京の大学で人脈を作り、見分を広めてから地元に帰るというのが宿命というか、運命だった。

「22歳の時に彼から告白されて、関係を深める前に、“自分はいずれ結婚したら地元に戻らなくてはいけない。僕は花音ちゃんといつか結婚したいと思っている。でも、地方に帰るのが受け入れられないなら、ここまでにしよう”と言ってくれたんです。それまでチャラい遊び人に泣かされてばかりいたので、誠実な彼のことが好きになってしまい、彼を受け入れたんです」

彼の地元の都市の名前を言われたけれどわからなかった。でも近接する大都市の名前を言われるとわかった。

「付き合い始めたのは、大学の卒業式。親に紹介したいと言われたのが、その5か月後の夏休み。彼の家に行ったら、大きな門と池がある日本家屋で、ドラマのワンシーンみたいでした。圧倒されながらも驚いたのが虫の数で。蚊、アブ、蜂、蛾、蝶……害虫も益虫もわんさかいて、卒倒するかと思いました。私は虫が大嫌いなんです」

その時は、なんとか我慢した。花音さんは彼の両親も気に入り、30歳ごろから家に帰る準備をするということで話は落ち着いたという。

「22歳の時は、30歳はまだ先の話だったけれど、あっという間にその時は来ました。その間、彼も修行のために超有名商社で稼業に関連がある仕事をしていて。私も外資系のコンサルティング会社でキャリアを積み、毎日が厳しくも楽しかったです。多忙によるすれ違いも多く、一時期別れたこともありますが、彼の方から連絡が来て、再び付き合うことになりました」

でも、年齢を重ねるほど、地方に行きたくない気持ちが募ってきた。花音さんを地方に出したくない両親は「都心はいいよ。なんでも買えるしね」と言ってくる。

「コロナ禍前までは、ここまで付き合って申し訳ないけれど、彼と別れて、私はキャリア人生を邁進しようかと考えていたんです」

コロナ禍のテレワークが人生を変えた

出社の声がかからなかった

コロナ禍で働き方は大きく変わった。それまで朝から夜まで働き、深夜まで接待や飲み会をしていた生活が一転し、家に閉じ込められるようになってしまった。

「早朝会議、深夜までの会食など、“私が行かなくては話がまとまらない”とめちゃくちゃ頑張って、とても楽しくはあったけれど、ボロボロになって仕事をしていました。飲まされるから、飲み会の前にウコンや肝機能向上ドリンクを飲むヨーグルト(無糖)で割って飲んだり(笑)。無糖がなかなか売っていないから、会社の冷蔵庫に名前を書いて常備していました。楽しかったですね」

しかし、それらが一気になくなってしまった。ステイホームが言い渡され、テレワークに突入。

「いきなり真逆の生活になりました。前は“出張帰りでも来い!”などと言われていたのに。1回目の緊急事態宣言のとき、私はテレワークをしていたんですが、幹部候補というか仕事がデキる人は、時折招集がかけられていたんです。優秀なチーム、ヘッドメンバーは、都内のホテルなどに集まってミーティングしていたことが、解除明けの出社のときにうっすらとわかってきました」

自分は相当やっているつもりでも、実は蚊帳の外だったと知ってしまった。

「今思えば、自意識が強い私に対して“この人じゃないな”と思われたんでしょうね。その疎外感を味わっているときに、彼が“30歳になることだし、これを機に家に帰る。結婚してほしい”と言ってきました」

コロナ禍前なら、地元と東京のホテルで盛大に結婚式を行わなければならなかったが、それがなくなった。

「この結婚式も私のネックだったんです。私は結婚式ビジネスについて仕事上かなり詳しく、ぶっちゃけ、あまりやりたくなかったんです。でもコロナ禍でやらなくて済むようになりました。そこで、親族だけの小さな式を挙げ、関連する人々には、“コロナ禍明けに盛大なパーティをする”と報告だけしたんです」

4か月の調整期間を経て、花音さんは移住。花音さんは常時テレワークが可能な企業に転職し、夫は勤務していた商社を辞めて親の会社に入った。

「月1回出社でいい、知り合いの会社に転職しました。地方に移住して思ったのは、慣れるまでが本当に、本当に大変だということ。文化の問題なんですよね」

空の青さ、美しい風景だけではない地方生活の現実。

子供についてあからさまに聞いてくる親族たちと、義実家の過干渉……後編に続きます