疲れたとき、甘いお菓子やジュースを飲みたくなる時がある。だが、フードプロデューサーの南清貴さんは「白米や白い小麦粉、白い砂糖を過剰に摂取すると糖尿病のリスクが高まる。特に、脳が疲れたからとお菓子をバクバク食べる人は要注意だ」という――。

※本稿は、南清貴『40歳からは食べてはいけない 病気になる食べもの』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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■食べ続けると危ない「白い悪魔の三兄弟」

身のまわりに大量にあって当たり前に食べられているけれども、本当は食べてはいけない食べものというのがいくつかある。

その代表の一つが「白い悪魔の三兄弟」、すなわち白米や白い小麦粉など、極度に精製された炭水化物と白い砂糖だ。これらは単純炭水化物と呼ばれる物質で、カロリーはあってもビタミンやミネラルなどの栄養素をまるで含まないところに特徴がある。その特徴から、英語ではエンプティーカロリー(空(から)のカロリー)と言われている。

アルコールもエンプティーカロリーの一種なのだが、「空のカロリー」というのを、「燃えかすの残らないクリーンなエネルギー」などと曲解している人がいるので困りものだ。

この「空」は、重要な栄養素がまったくない、空っぽ、という意味なので、身体にはよくない食べものだということは認識しておいてほしい。

「空のカロリー」を摂取するとどういうことが体内で起きるのだろうか。

カロリーだけはあるので、ブドウ糖には分解される。したがってそれは身体に吸収されて血糖値は上がる。ブドウ糖をエネルギー化するには、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が必要になる。

ところが、何しろ栄養素は「空」だから、この「空のカロリー」食品をエネルギー化するためには、他の食品から摂った栄養素をせっせと使わなければならなくなるのだ。

■白い砂糖を摂取し続けるとどうなるか

つまり、急激に血糖値を上げるだけでなく、栄養素を浪費してしまうところにも単純炭水化物の問題がある。これが、糖尿病の第3の原因であるクロム不足にもつながっている。

ブドウ糖は、いつでもどれだけでも細胞に摂り込まれてよいわけではない。そのため、無尽蔵にブドウ糖が摂り込まれないように細胞にはドアのようなものが付いている。そのドアの鍵を開けるのがクロムというミネラルの役割なのだ。

例えば、白い砂糖を摂取してブドウ糖に分解されると、細胞がブドウ糖を摂り込むために砂糖そのものには含まれないクロムが使われてしまう。しかし、クロムが十分な量、他の食品から摂り込まれているとは限らない。クロムが不足するとブドウ糖が細胞に摂り込まれなくなり、血中にだぶつくことになる。

そのままにしておくとやがて血中でだぶついたブドウ糖の腐敗が始まってしまう。それは身体にとって恐ろしいことなので、ブドウ糖を尿に混じらせて排泄するという作用が起きる。この量が著しくなるのが糖尿病だ。

実は、米も小麦も精製されていなければ重要なクロム源となる食品だ。それがひとたび精製されて白米、白い小麦粉になると、クロムも他の栄養素も含まないエンプティーカロリー=単純炭水化物に変身してしまう。単純炭水化物になった穀類は、白い砂糖と同じ働きを体内で起こすので、やはり摂取してはいけないのだ。

■なぜ血糖値を急に上げるとよくないのか

「白い悪魔の三兄弟」を摂ってはいけない理由は他にもある。「白い悪魔の三兄弟」は消化がよく、短時間での吸収の度合いが激しいため、食べた瞬間、あっと言う間に血糖値を上げてしまうからだ。

写真=iStock.com/spawns
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なぜ、血糖値を急に上げるといけないのだろうか。

食糧が豊富ではなく、常に飢餓との戦いだった人類の長い歴史のなかで、穀物を精製して食べるようになったのも、白い砂糖を常食するようになったのも、つい最近のことだ。血糖値を急激に上げるような食べ方をしてこなかったのだから、人間の身体はそのような贅沢な状態になるのを想定したことがないのだ。

だから、人間の身体には血糖値が急激に上がったときに対応するシステムがまったく備わっていない。インスリンが分泌されて血糖値を下げると言うが、あくまでもそれは緊急避難的な措置であって、インスリンは本来そのような使い方をされるべきものではない。

しかも、急激に血糖値が上がると急激にインスリンが出て急激に血糖値を下げることになる。しかしそれは、本来的に備わっているシステムではないため、うまくコントロールできず、時に血糖値を異常なまでに下げ過ぎてしまうことになる。

■うつ病と似た精神状態に陥ってしまう

血糖値が下がり過ぎた状態が続くと、心拍も呼吸も停止して死に至ってしまうのだから、今度は慌てて血糖値を上げようとする。すると、身体を守るためにアドレナリン、ノルアドレナリンというホルモンが副腎皮質から出てくるのだ。

ちなみに、インスリンを出す膵臓は、他の臓器が内分泌か外分泌、どちらかに属するのに、唯一、両方の機能を持つ特殊な臓器だ。血中にインスリンをはじめとするホルモンを出すのは内分泌作用、十二指腸に消化酵素を出すのは外分泌作用。身体のなかでこの両方をやるのは膵臓だけだ。

血糖値の上がり方が緩やかであれば、インスリンも少しずつ出るのだが、上がり方が急だとどこまで上がるかわからないために急激に大量のインスリンが出てしまう。そして血糖値が下がり過ぎると、今度はどうにかして上げようとする作用が起きる。

この相反する作用が繰り返されると血糖値が乱高下し、人間は感情のコントロールが利かなくなる。

大量のインスリンが出てどんと血糖値が下がった状態を低血糖といって、そのときの人間の精神的な状態は、うつ病の症状とそっくりなのだ。さらに、低血糖のときに必然的に出てくるアドレナリンとかノルアドレナリンには、精神状態を躁(そう)にする働きがあり、血管を収縮させたり、不安や恐怖を増幅させる作用もある。

■料理番組やレシピ本の「落とし穴」

これほど危険なものなのに、血糖値を急激に上げるような商品は世の中に氾濫している。一般に、テレビのコマーシャルや新聞広告で宣伝されていれば、その商品は信頼していいと無意識的に思わされていて、「安全ではないかも?」などと疑うことは基本的にない。そこが落とし穴だ。

そもそも、テレビの料理番組や料理本のレシピを見ると、当たり前のように砂糖を調味料として使っている。あらゆる料理に砂糖がいることになっている。なるべく避けなければいけないものを、わざわざ積極的に摂取しようとしているのだ。

いかに情報が歪曲されているか、そしてそういう情報に洗脳されてしまっているか。きちんとした素材できちんとした料理をすれば、酒だけで十分甘みは出るのだ。みりんさえ使う必要がない。もちろん私がかつて経営していたレストランでも、その後プロデュースした店でも、砂糖は追放してあった。私がそれほどうるさく言うのは、それほど危険だからだ。

WHO(世界保健機関)では、成人も子どもも一日当たりの糖類(砂糖や高果糖コーンシロップなど炭水化物ではないもの)の摂取量を、全摂取カロリーの5%未満にすべきだと勧告している。

一般に、成人は一日平均1800〜2200kcal摂取していると言われているので、計算の便宜上2000kcalとすると、そのうちの5%は100kcalとなる。

■ジュース1本だけでWHOの基準を超える

例えば、缶コーヒー1本に含まれる糖分がだいたい100kcalだ。スポーツドリンクは、缶コーヒーよりもっと砂糖の量が多い。生の果汁などが入っていないペットボトルや缶のジュース類はさらに多く、1ℓ当たり角砂糖で20個分くらいの砂糖が入っている。缶コーヒーの6倍から7倍と考えた方がいい。

こういったものを1本飲んだだけでWHOの勧告量をはるかに超えてしまう。仕事の合間に何気なく気楽に飲んでいるかもしれないが、急激に血糖値を上げることになって、それが感情を大きく乱す原因になっているかもしれない。

一緒にチョコレートだのクッキーだの食べていれば、もっと砂糖の摂取量が増えているだろう。日本人の5人に1人が糖尿病またはその予備軍と言われていることにも大いに関わっていると考えなければならない。

■コンビニなどで思わず手に取ってしまう人は注意

最近は、会社のなかにも自動販売機が置いてあるし、たとえなくても数歩歩けばコンビニエンスストアがある。そこではあふれるほどの清涼飲料水を売っているのだ。無意識に、不用意に、習慣のようにそういうものを飲んでいるなら、やめた方がいい。コマーシャルに絡めとられて、自分の意思ではないところで動いていないか、または動かされていないか、検証してみてほしい。

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それが人生にプラスになっているならいいのだが、無自覚に行動をとった結果、身体が蝕(むしば)まれたり、人生が本来あるべきでない方向にねじ曲げられてしまったり、最終的に使わなくていい高額の医療費を使うことに結びつくなら、きちんと前もって考えておいた方がいいだろう。

何者かに支配された人生など送りたくないではないか。

糖尿病の死亡例は低所得国ほど多い

アメリカの保健指標評価研究所が2010年に発表した「世界疾病負荷調査報告書」によると、糖分を含む飲みものの過剰摂取が原因とされる糖尿病で死亡した例が世界で13万3000人、同じく心臓疾患で死亡した例が4万4000人、癌(がん)で死亡した例が6000人となっている。

しかもその78%は低所得国で発生しているという。つまり、言い方は悪いが、貧乏な国ほど糖分を含む飲みものの過剰摂取が原因で死亡する人が多いということだ。

日本でもいまはじりじりと貧困層が広がってきて、貧困率は16%を超えてしまった。社会が大きく二極化していることも貧困層を広げる原因になっていると言われているが、ともあれ、貧困層が広がっていることは確かだ。日本が低所得国、中所得国に加えられる日は近いかもしれない。

そうなったとき、いままでのような糖分を含む飲料の摂り方をしていたら、間違いなくこの報告書のデータに仲間入りしてしまう。

なぜ、低所得国で糖分入り飲料の影響が大きいかと言うと、貧しくて食べるものがなく、栄養のバランスが取れていないところに砂糖ばかりを大量に摂ってしまうからだ。

もう一つ重要な研究結果を紹介しよう。アメリカのプリンストン大学で行われたラットを使った実験である。ラットレベルではあるが、砂糖の過剰摂取が明らかに依存性を示すという結果が出たのだ。

■“砂糖断ち”させられたラットがとった行動は…

砂糖を大量摂取することを習慣にしてしまったラットを人工的に作り、逆に砂糖を与えない期間を設け、再び与えることにする。すると、再度砂糖を与えたときには、砂糖をもらうためにラットはあらゆる努力を惜しまなくなる。つまり砂糖には依存性があるということがわかったのだ。

南清貴『40歳からは食べてはいけない 病気になる食べもの』(KADOKAWA)

空腹時に多量の砂糖をラットに与えた場合には、脳内でコカインとかモルヒネ、ニコチンといった依存性薬物に反応するときと同じような神経化学反応が出たそうだ。

なおかつ、砂糖の摂取量がその後増えていく。さらに驚いたことに、砂糖の供給を断たれたラットは何とアルコールを欲しがり、アルコールの摂取量も増えることがわかったのだ。これはつまり、砂糖の多量摂取で脳の機能がおかしくなったということを示している。

ラットの実験がそのまま人間に当てはまるわけではないだろうが、似たような反応を起こす可能性を否定することはできない。参考にすべきだろう。

よく根を詰めた仕事をしたあとなどに、脳が疲れたから脳みそに甘いものを与えなくては、とチョコレートを食べる人がいる。脳のエネルギー源はブドウ糖なので、脳を使ってエネルギーを消費したときにブドウ糖を補うのは正しいことだ。

しかし、だからと言って砂糖がたっぷり入ったチョコレートや清涼飲料水を摂取してしまうと、急激に血糖値が上がり過ぎて身体は対応ができなくなってしまう。脳に栄養補給するなら、緩やかに吸収される方法でブドウ糖を摂ることが重要だ。

間違ってもチョコレートをバクバク食べたり、缶コーヒーや缶ジュースをぐびぐびやらないように、注意を喚起したい。

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南 清貴(みなみ・きよたか)
フードプロデューサー
1952年生まれ。一般社団法人 日本オーガニックレストラン協会(JORA)代表理事。1995年、日本初のオーガニックレストラン「キヨズキッチン」を渋谷区・代々木上原に開業。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した料理を考案・提供し、メディア出演多数。食と健康に関する講演・執筆、全国のレストラン、カフェなどの業態開発、企業内社員食堂やクリニック・ホテル・スパなどのフードメニュー開発にも力を注ぐ。2011年の東日本大震災を機に、農に近いところでの生活を決意し、岐阜県に移住。著書に『行ってはいけない外食』(三笠書房)、『40歳からは食べてはいけない病気になる食べもの』(KADOKAWA)など。
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(フードプロデューサー 南 清貴)