今から約2年前の2019年2月25日、チケット購入に必要な整理券を獲得する抽選券を求め、5万人超がマツダスタジアムに殺到した(写真提供:ひろスポ!)

3月26日、プロ野球の公式戦が開幕した。例年、1月下旬にチケットの発売スケジュールが公表され、2月下旬から販売が開始されるのだが、今シーズンは新型コロナ禍の影響で、販売スケジュールの告知が3月にずれ込んだ球団が12球団中7球団に上った。

2月中に告知した5球団も、当初は5000枚を発売し、自治体からの制限要請が緩和されると1万枚まで追加販売するなど、状況の変化とともに販売スケジュールを何度も見直している。

売りに出すカードも小刻みで、発売日の直前にならないと告知しないなど、異常な状態が続いている。中でも読売巨人軍は3月10日にシーズンシートチケットのみ観戦有効とし、一般指定席券の販売を当面見送ることを告知。

12球団中唯一、ファンクラブ会員すらチケットが買えない状態が続いていたが、3月26日から4月15日までの9試合分のチケットを、3月23日から順次先行販売することを前日の3月22日になってようやく告知した。

プロ野球のチケット売り出し時期は、コロナ前までは12球団中10球団がゲーム開催日前月の初旬。広島東洋カープと阪神タイガースだけが他の10球団とは異なり、開幕前にそのシーズンの全試合分を一気に売り出す方法を採ってきた。

今シーズンはタイガースが全試合分の一挙発売をとりやめる中、カープは3月9日、例年どおりシーズン全試合分のチケットを売り出した。

恒例化している3月1日の大騒動

カープは毎年3月1日にシーズン全試合分のチケットを球場窓口で発売し、窓口販売で余った分を、翌日からインターネット販売も始める方法を採っているが、ここ数年は毎年大騒ぎになっていることは読者諸氏もご存じかもしれない。

そもそもシーズンシートオーナーとファンクラブ会員への優先販売に批判がある。シーズンシートオーナーにもファンクラブ会員にも定員があるうえ、シーズンごとの入れ替えがない。欠員が出なければファンクラブ会員にすらなれないのだ。

言わば特権階級たるシーズンシートオーナーやファンクラブ会員に優先販売した残りしか、一般販売には回ってこない。当然「特権階級が優遇されすぎ」という不満が出る。

そのうえ、カープは1人が1回に買えるチケット枚数が事実上青天井で、カープの販売方式はいわゆる“転売ヤー”を呼び込んでいるとする批判も絶えないのだ。

かつては1回に買える試合数も、枚数も無制限だったが、近年は買える試合数を限定するなどの制限は徐々に加えてきてはいる。

とはいえ、今年も1人が一度に買える試合数は最大6試合としたものの、1試合あたりの枚数は最大50枚と、事実上青天井に等しい。最上級のファンクラブ会員でもせいぜい10枚程度しか買えない他球団とは大きく異なる。

カープは人気がなく球場に閑古鳥が鳴いていた時代が長かった。その時代に町内会や会社単位でチケットを大量に買ってくれたファンへの恩があるから、1人が何試合分でも、何枚でも買えるようにしておくのだというのが、球団側の基本方針なのだが、そういう売り方が“転売ヤー”にとって好都合であることも事実だ。

2019年には、窓口販売の順番を決める整理券をもらうための抽選券を求め、5万人もの人がマツダスタジアムに押し寄せ、球場周辺の交通機関がマヒするなど大混乱に陥った。

発売4時間後でも残席あり

昨年は4万6000枚の抽選券を配布し、抽選で当選した1200人に整理券を配布。3月1日はパンチカーペットを2メートル間隔で順路に貼ってソーシャルディスタンスを確保。警備員も大量に動員して窓口販売を実施したが、この日に売ったチケットは後日すべて払い戻しになった。

今年の発売日は例年よりも8日遅い3月9日。さすがに球場での窓口販売は取り止め、インターネット販売のみに切り替えた。

球場窓口販売を止めれば、球場及び球場周辺に多くの人が押し寄せるということは回避できる。それでも、球場に並ばなくて済む分、転売ヤーにとっては好都合だろう。

例年の混乱ぶりからすると、午前8時の受付開始からアクセスが集中してサーバーがダウンし、回線がつながった時には1年分のチケットはすべて完売だったということになるのではないかと筆者は考えていた。

実際、発売から2〜3時間は回線がつながりにくい状態が続いたようだが、9日正午に球団HPで残券状況を確認してみたところ、さすがに土日祝日開催のゲームと最終戦は全席完売していたが、平日のゲームはまだ買える状態だったのだ。

次の図はスクリーンショットで9日正午時点の残券状況を撮り、その画像をもとに横軸を座種、縦軸を試合開催日としてエクセルに落とし、全体感を見るために縮小してみたものだ。


白い部分が「完売済み」、赤が「売り切れ間近」、オレンジが「残りわずか」、水色が「空席あり」、青が「余裕あり」である。

結局翌10日には全席が完売したようだが、今シーズンは全座席数の半分しか売りに出していない。にもかかわらず販売開始から4時間後でもこれだけの残券があった。

ということは、カープのチケットをターゲットにする“転売ヤー”の数が大幅に減った可能性があるのだ。

券面発送時期の変更が奏効?

“転売ヤー”減少の要因と考えられる原因は3つ。1つは販路の縮小だ。チケットを転売する販路のうち、出品条件が厳しい3大サイトのヤフオク!、メルカリ、楽天市場では、未使用のプロ野球チケットの出品はゼロかせいぜい1〜2点。複数ヒットするのは大昔の骨董品級の名試合の半券だけだ。

それ以外のサイトでも、チケットストリートは出品ゼロ。チケット流通センターには大量の出品があるが、出品価格は常識的な水準だ。他の転売サイトでも状況は似たり寄ったり。一部のサイトで一時的に10万円を超える出品もあったようだが、筆者が9日夕方に確認した時点では探し当てることはできなかった。

2点目は2月上旬にマツダスタジアムの年間シートホルダーの男女が、不正転売禁止法違反の疑いで逮捕された件だ。報道によれば、2015年から不正転売を繰り返し、1億円近い収入を得ていたという。

これまでも年間シートホルダーによる大量転売は横行していたが、ホンモノの年間シートホルダーが逮捕されたということが実名報道されたのはこれがおそらく初だろう。

ちなみに報道から類推すると、この男女がカープの年間シートホルダーになったのは2015年である。黒田博樹投手がメジャーからカープに復帰することが明かになり、年間シートが3月1日以前に完売したタイミングだ。

そして3つ目が券面の発送時期だ。今回、球団はシーズン途中で入場制限が変更される可能性があることから、チケットの発送を入金直後ではなく、該当するゲーム開催月の最初の試合日の10日前から順次発送する形に変えた。

つまり、転売しようにも、売るための現物が、ゲーム開催日が近づくまで手許に来ないのだ。チケット転売サイトが権利のみの出品を禁止していれば、転売ヤーにとっては現金化できるまでに時間を要する、旨みのない商品ということになる。おそらく“転売ヤー”退治に最も効果を発揮しているのはこれだろう。

“転売ヤー”が稼いだ利益を税務申告しなければ脱税になる。チケット転売サイトの運営会社が協力すれば、無申告の転売ヤーを脱税で摘発することは可能なはずなのだが、その摘発件数はさほど多くはない。

国税庁が毎年公表している『インターネット取引を行っている個人に対する調査状況』によれば、2019年度にインターネット取引を行っている個人に対し、税務調査を実施した件数は1877件で、このうち申告漏れがあった件数は1680件。1件あたりの追徴税額は過去最高の349万円である。


ただ、この統計で言うところのインターネット取引には、ネットオークションのほか、ネット通販、コンテンツ配信、ネット広告、株式や商品先物、為替などのネットトレード、出会い系サイトなどこれらに該当しないその他ネット取引が含まれている。これら全体で申告漏れの摘発件数が1680件、追徴税額の平均が349万円なのだ。

税務当局の摘発を受けているのは、世の中にはびこる転売ヤーのごく一部でしかないことは間違いない。

今年はチケットの「賞味期限」が短い

報道によれば、2月に逮捕された男女は5年間に約1億円を売り上げていながら、逮捕容疑は脱税ではなく不正転売禁止法違反だったからか、女性は起訴猶予、男性は略式起訴で罰金100万円で済んだという。

チケットの不正転売では、不正転売禁止法違反での摘発がたまに報道されるだけで、脱税容疑での逮捕や更正処分については基本的に報道されない。

今シーズンは入場制限がかかっている分、プロ野球のチケットはプラチナ化する確率が高まっている一方で、カープに限らず、各球団ともにコロナの影響で、チケット発売日からゲーム開催日までの間隔が短い。

それだけチケットの賞味期限も短いわけで、転売ヤーとしては短期間に売り切ってしまわなければならない分、厳しい年ということになるはずだ。

コロナが去ればまた転売ヤーの天下が戻ってしまうのでは元も子もない。税務当局には是非とも転売ヤーの摘発を強化してもらいたいと思う次第だ。