いつもなら多くの客でにぎわう銀座コリドー街も、人影はまばらだ(記者撮影)

すすきの(札幌市)は前年比7割減、歌舞伎町(東京都)やミナミ(大阪府)も5割減――。これは2020年12月第1週〜第3週の金曜日夜に、全国の主要な繁華街を歩く人が前年同期と比べてどれほど減少したかを示すデータだ。

携帯電話のGPS(全地球測位システム)による位置情報などをビッグデータ化し、ソフトバンクのグループ会社で情報サービス事業を手がけるAgoopが集計した。減少幅が最も大きいのが、北海道随一の繁華街である「すすきの」エリアだ。

札幌では11月以降、新型コロナウイルスの第3波が全国でもいち早く襲来し感染者数が急増。北海道はすすきのの飲食店に対し、営業時間短縮や臨時休業などを要請しており、こうした対応策が消費者の外出・外食控えを誘引したとみられる。

都内でも、来街者のうち高齢者が占める割合が高い銀座、在宅勤務普及を背景に会社員が減った新橋と汐留、連日「夜の街」報道がなされている歌舞伎町などで、人出は半減。大阪や名古屋の栄なども2019年までの賑わいはない。

最繁忙期だが「忘年会予約ほぼゼロ」

「忘年会の予約件数はほぼゼロ。12月は普段の2倍近くは稼ぐ月なのに・・・・・・」。銀座で居酒屋を数店舗運営する経営者はため息をつく。

その居酒屋では、例年であれば11月下旬から12月中旬頃まで、週末は忘年会の予約でいっぱいになる。しかし、感染者数の増加や東京都による時間短縮営業の要請などを背景に、11月下旬頃から予約のキャンセルが相次ぎ、店内を埋め尽くすはずの酔客が消えた。

ほかの飲食業者も苦境は同様だ。信用調査会社・東京商工リサーチのアンケートによると、94.2%の企業(有効回答9970社中9394社)が忘年会や新年会を控えるという。

「各店舗は12月を終えるとすぐに、翌年の12月を目指し様々な計画を立て戦略を練る。まさしく1年の集大成だ」。「テング酒場」や「旬鮮酒場天狗」などの総合居酒屋ブランドを展開する、中堅外食チェーンのテンアライド幹部は、酒類を提供する飲食店にとっての12月の重要性についてそう強調する。

大半の総合居酒屋チェーンは従来、繁華街や駅前の一等地に大きめの店舗を構え、大人数での宴会で稼ぐという「勝利の方程式」で売り上げを確保してきた。その中でも忘年会シーズンである12月は特別だ。

テンアライドでは実際、例年12月の来店客数(既存店ベース)は最も少ない月と比べて約2割増となり、客単価も年間で最も高い。コロナの影響がまったくなかった2019年3月期決算では、各四半期の中で10〜12月の第3四半期が売上高、営業利益ともに最高だった。

同社では新型コロナ感染者が抑制されていた11月中旬までは客足が回復傾向だったが、第3波による時短営業要請が出された11月25日頃から急減。11月の既存店売上高は前年同月比43.9%減にまで落ち込んでしまった。「12月はさらに厳しい数字が出る」(テンアライド幹部)といい、利益の源泉とも言えるシーズンであるはずが今期は一転、多額の赤字を計上することになるのは間違いない。

春先の歓送迎会も期待できず

こうした厳しい状況下において、実態に即さず一貫性のない行政の対応に振り回される飲食店側の不満は根強い。

「感染者が増えたら営業時間短縮要請。落ち着いたら解除し、また時短要請。一体いつまで振り回されるのか」。前出の飲食店経営者は憤りを隠さない。2021年1月11日までの営業時間短縮要請に応じ、感染拡大防止協力金100万円を受給する予定だというが、売り上げが激減するなか、高い賃料と従業員への給与を補えるほどの額ではないという。

「飲食店ばかりが感染源となっているかのようなメッセージが連日のように発信される。ほとんどの店は行政の定めた感染症対策を施しているのに、なぜわれわれは悪者扱いされ、ここまでの犠牲を強いられなければならないのか」(同)

個人店よりは余裕があると思われがちなチェーンはさらに厳しい。ある外食チェーン幹部は「これまで自治体からの要請すべてに応じ、臨時休業・時短営業などに踏み切った。だが、協力金の対象は原則として中小企業のみで1円ももらえない。感染症対策に協力するという点では個人店もチェーンも同じはずなのに、あまりにも不公平ではないか」と怒りをあらわにする。

忘年会需要を失ったいま、次の焦点は3〜4月の歓送迎会シーズンだ。だが、少なくとも現時点では状況が好転する兆しは見られない。居酒屋ブランド「金の蔵」を持つ三光マーケティングフーズも「このままの流れでいくと、春の歓送迎会シーズンも期待できない」と覚悟している。

居酒屋チェーンでは、コロナ影響が甚大な大箱の居酒屋を大量閉店し、販売チャネルの拡充や新業態育成に注力する動きが活発化している。

実際、テンアライドは自社通販サイト「天狗キッチン」を開始したり、売り上げが落ちなかった立ち飲みの小型店「神田屋」の積極投入を企図したりする。三光マーケティングフーズも、居酒屋を大量閉店する一方、「焼肉万里」などに注力。残した居酒屋店舗で同社の保有するブランド「東京チカラめし」の焼き牛丼を販売する「二毛作戦略」を打つなど、懸命な努力を続ける。

だが、これまで「当たり前」だったビジネスモデルを転換するのは容易なことではない。すでに少なくない企業が最終赤字に転落し自己資本を痛める結果となっている中、「もはや私企業の努力で何とかなるレベルではない」という声が業界内から漏れ伝わってくる。「資金繰り」や「雇用維持」など様々な課題が噴出する外食産業には、行政からの抜本的な支援策が急務だ。

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