写真・ロイター/アフロ

「米国大統領の暴露本は、世界中で売れる。とはいえ、トランプ氏ほど暴露本が出る大統領は、過去に見当たりません」

 そう話すのは、国際教養大学客員教授の小西克哉氏だ。暴露本5冊の原語版を読了した小西氏に、話題になった各書の内容を解説してもらった。

「米国は、“表現の自由” が世界でも類を見ないほど保障されており、出版差し止め訴訟も、暴露する側が勝つことが多い。ボルトン氏の場合は、前払いで印税2億円を受け取り、さらに出来高払いもある。暴露本は儲かるんです」

 7月14日には、姪の暴露本も出版された。以下では、5冊の内容について、小西氏が解説する。トランプ氏が目指す再選は、雲行きが怪しくなってきた。

●『FIRE AND FURY』マイケル・ウォルフ著/2018年1月発売
 170万部突破の本書。著者はニューヨーク在住のジャーナリストだ。

「日本でいえば、『東京人』などの雑誌で、政治コラムなどを書く人。しかし、なぜか彼は、ホワイトハウスに自分の部屋を持ち、オーバルオフィス(大統領執務室)に自由に出入りできることから、スティーブン・バノン首席戦略官などの側近が見た、トランプ氏の姿を描いている。
 一番の目玉は、“トランプ氏は大統領選で勝つつもりがなかった” と結論づけていること。“選挙遊説で名前を売ってビジネスに役立てればいいと思っていた。メラニア夫人も、勝利に愕然として、離婚ぎりぎりまでいった” と。
 一部では言われていたことを裏づけたわけです。人物描写が秀逸で、表現力が豊かなおもしろい本です」(小西氏・以下同)

●『UNHINGED』オマロサ・マニゴールト著/2018年8月発売
 発売1週間で3万3000部を売り、米紙「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーリスト入り。トランプ氏とは、出演していた人気テレビ番組『アプレンティス』以来のつき合いがあり、広報担当の大統領補佐官を務めた黒人女性が著者。

「本のタイトルは、“タガが外れてしまっている。精神的にイっちゃってる” という意味。マニゴールト氏によれば、トランプ氏は極度の健忘症で、前日に言ったことすら覚えていない。『精神的に問題がある』と強調している。
 また、大統領選の遊説で黒人教会に行ったとき、トランプ氏が『ニガー、ニガー』と差別用語を多発し、『(黒人に何をされるかわからないから)俺をひとりにしないでくれ』と懇願したなど、黒人への差別意識を丸出しにする姿も暴露されています」

●『FEAR』ボブ・ウッドワード著/2018年9月発売
 190万部突破。著者は、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件を報じた、世界的なジャーナリストだ。

「内容の一部を挙げると、米韓自由貿易協定を破棄する文書がオーバルオフィスの机の上にあり、あとはトランプ氏が署名するだけのものを、コーン国家経済会議議長が忍び込んで、文書を隠してしまったそう。普通なら大問題となるのに、トランプ氏が忘れているから発覚しない。
 また、トランプ氏がマティス国防長官に、シリアのアサド大統領殺害を指示すると、マティス氏は指示を受け入れながら、部下には『絶対にやるな』と命じたことが描かれている。ホワイトハウスでは、側近たちが世界を守るために、“面従腹背” で奔走していたことがわかります」

●『THE ROOM WHERE IT HAPPENED』ジョン・ボルトン著/2020年6月発売
 発売1週間で、78万部を突破した同書。著者は、最重要ポストのひとつ、国家安全保障担当補佐官を務めた。司法省から出版差し止め請求を受けたが勝訴し、出版にこぎつけた。

「現場で交わされた会話のディテールがすごい。実際にメモを細かく取っていたのでしょう。
 たとえば、シンガポールでの米朝首脳会談で、トランプ氏が金正恩・朝鮮労働党委員長に、『あなたをロケットマンと呼んだが、(同名の楽曲を作曲した)エルトン・ジョンを知っているか?』と聞くと、金委員長が、『あれは褒め言葉だと思っていました』と、ウイットに富んだ返答をしたというくだりがあります。
 また、トランプ氏が『米朝で合意したものは議会で批准して、歴代政権が引き継ぐ拘束力のあるものにする』と言ったとき、ポンペオ国務長官が、『この男(トランプ氏)の言うことは、クソだらけだ』というメモを、ボルトン氏のもとに届けたそう。
 つまり、側近たちが知らないことを、トランプ氏が口走ってしまう姿が生々しく描かれています」

●『TOO MUCH AND NEVER ENOUGH』メアリー・トランプ著/2020年7月発売
 発売前から予約が殺到し、話題となっている。著者は、トランプ氏の兄の娘、姪のメアリー氏(55)だ。

「これだけ近い親族の暴露本は、めったにない。注目したいのは、トランプ氏の脱法的節税。2年前、『ニューヨーク・タイムズ』がスクープしたが、そのネタ元は、メアリー氏だったと。
 さらに、トランプ氏がペンシルバニア大学ウォートン校に入学する前、SAT(大学進学適性試験)で、替え玉受験を依頼していた事実を暴露している。
 2019年、有名女優がブローカーを通じて、SATの点数を操作していた事実が明るみに出ましたが、トランプ氏の時代はもっと緩かった。学歴詐称は以前から噂されていたが、そのひとつの証拠となる記述です。
 メアリー氏は臨床心理士であり、トランプ氏の自己中心的な性格を分析。メアリー氏の父は、アルコール依存症のため40代で早逝していますが、“祖父のフレッド氏とトランプ氏は、何もしてくれなかった” と一族内の確執も描かれています」

写真・ロイター/アフロ

(週刊FLASH 2020年7月28日・8月4日号)