「コロナが終息したら、日本へ半額で行ける!」 世界が「歓喜」したはずがデマ認定でがっかり(井津川倫子)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が7週間ぶりに解除され、長かった自粛生活も終わりが近づいてきました。しばらくは、感染の第2波を避けるために「ニューノーマル」(新しい常識)での生活を続けながら、少しずつ日常に戻っていくのでしょう。
そんななか、なぜか海外で日本の宣言解除に注目が集まっていました。「日本への旅行が半額になる!」というウワサが世界的に広がっていて、「コロナが終息したら日本に行こう!」と楽しみにしていた人たちがいたのです。
さて、このウワサ、いったいどうなったのでしょうか......。
世界に広がった「日本すごい!」のウワサとは?
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が解除された日本。安倍晋三首相は記者会見で「日本モデルの勝利だ」と誇らしげにアピールしました。確かに、欧米諸国と比べて感染者や死者が少ない日本ですが、アベノマスクに代表される失策続きの政府の感染症対策は「日本モデル」などと誇れるものなのでしょうか。
安倍首相の「日本すごい!」アピールに違和感を抱いていたら、皮肉にも別のジャンルで「日本すごい!」ブームが起きていることを発見。なぜか世界中で、「コロナが終息したら、日本に半額で旅行できるぞ!」というウワサが流れていたのです。
Japan will pay for part of your trip(日本政府があなたの旅行代金の一部を払ってくれる:カナダの旅行情報サイト)Japan will pay half your expenses for a holiday after lockdown is lifted(ロックダウンが解除されたら、日本政府があなたの旅行代金の半額を払ってくれる:英紙ミラー)
なんと、海外メディアが注目していたのは、日本のコロナウイルス対策よりも観光業復興支援として実施を計画している「Go to travelキャンペーン」でした。「Go to travelキャンペーン」の時期や詳細はまだ発表されていませんが、異例ともいえる1兆7000億円規模の予算が投入される見通しに、日本国内では「まだ終息していないのに旅行なんて時期尚早だ!」「感染症対策に予算を回すべき」と非難の声が上がっています。
ところが、この「Go to travelキャンペーン」について、一部の海外メディアが先走って「外国人観光客も、このキャンペーンで旅費の支援を受けることができる」と報じたから、さあ大変! 「日本政府は、外国人旅行者に日本を訪れてもらうため、旅行費の半額を支援するキャンペーンを検討している」という「ウワサ」が世界中に広まってしまったのです。
日本でも、「どうやら日本政府が海外観光客誘致に大金をつぎ込むらしい」とか、「海外の友人が『日本がすごいキャンペーンやっているよ』と教えてくれた」といった情報がSNSを中心に拡散。「国内でも県外をまたぐ移動を抑制しているのに、海外から観光客を誘致するなんてもってのほか」と憤ったり、「またまた安倍政府の失策か」と失望したりした方も多かったようです。
新型コロナによる影響で、訪日観光客がもたらす「インバウンド消費」に依存していた日本経済の姿が浮き彫りになったこともあり、「日本政府の半額キャンペーン」は「さもありなん」と受け止められた様子。
米国の旅行サイトは、「半額補助なんて信じられないだろう。でも、コロナで世界の常識がすっかり変わってしまった今、日本政府が何をやっても不思議じゃないよ」と、解説(?)していました。
アベノマスクの国ならやりかねない?「半額旅行キャンペーン」
この「半額旅行キャンペーン」報道にあわてたのが日本政府です。「Go to トラベルキャンペーン」は、あくまでも日本国内の需要を喚起するもので、海外からの旅行客は対象外。どうやら、米国の情報紙が日本国内向けの報道を「海外観光客も対象」と「誤読」して報じたことが発端だったようですが、日本の観光庁は「事実誤認」だと周知して「火消し」を図りました。
Japan announces new plan to boost domestic tourism - but foreigners will still have to pay their way(日本は、国内観光を勢いづけるために新しい計画を発表したが、外国人は費用を負担しなければいけない:英紙デイリーメイル)
観光庁は、一部で報道されている内容が事実と違うと指摘し、「日本国内での旅行需要喚起のため、日本国内居住者を想定し、日本国内における宿泊旅行の費用等を支援するキャンペーン」だと説明しています。
「日本人の、日本人による、日本人のための(キャンペーン)」という、まるで米国のリンカーン元大統領の名言を彷彿させる「火消しコメント」ですが、英国の高級紙をはじめとする各国の主要メディアが相次いで「日本への半額旅行は誤認だった」と「デマ認定」したのですから驚きです。「半額補助」の「ウワサ」は真実だと受け止められていて、かなり広範囲に広がっていたことがうかがえます。
本気で日本を訪れたいと期待していた人がどれほどいたのかは疑問ですが、常識では考えられない「旅費半額補助」政策を打ち出すと、当たり前のように受け止められていたことに驚きを感じ得ません。
布マスク2枚のアベノマスクや、星野源さんの動画に便乗したアベノ動画といった安倍政権の「奇策」は、海外でもすっかり有名になってしまいました。残念なことに、「アベノマスクの国だからどんな奇策をやっても驚かない」と、世界中で認定されているのかもしれません。
それでは、「今週のニュースな英語」は、英紙デイリーメイルの見出しから「boost」(押し上げる、景気づける)を取り上げます。ビジネスの場面でもよく使われる単語です。
人や商品を集中的に宣伝したり、販売促進をしたりする時のフレーズです。
The company is boosting its new product(会社は新製品を積極的に宣伝している)
士気や気力を高める時にも使います。
It boosted his spirits(彼はそれで元気になった)
物理的に、人や物を持ち上げる時の使い方です。
I will boost you over the fence(私があなたを持ち上げて、塀を越えさせるよ)
緊急事態宣言が解除されたものの、各地で感染や新たなクラスターの発生が報告されて第2波への警戒感が高まっています。私たちの気力や経済活動を「boost」するのは、「Go to travelキャンペーン」のような「奇策」よりも、検査態勢の整備や医療現場の安定といった地に足が付いた対策ではないでしょうか。(井津川倫子)