今年好スタートのヴィッセル神戸に宮澤ミシェルが期待も、不安要素もあり?「イニエスタを休ませた時にチームとして戦えるかが重要になる」
ヴィッセル神戸について語った宮澤ミシェル氏
サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第136回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマはヴィッセル神戸について。天皇杯とゼロックス・スーパーカップを制し、ACLでも白星スタートと今年好調なスタートを見せたヴィッセル神戸。そんなチームに宮澤ミシェルも大きな期待を寄せるが、不安要素もあるという。
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ヴィッセル神戸は、今シーズンが楽しみになるスタートを切ったね。
まずは元旦の天皇杯決勝で鹿島アントラーズに勝利して初めてのタイトル獲得でしょ。そこから短めのオフを挟んで今季に向けてのチームづくりをしてきた。
「さあ、今季はどうなる?」と注目されたなかで迎えた、昨年のリーグ優勝の横浜F.マリノスとの『ゼロックス・スーパーカップ』も制した。まあ、PK戦で両チーム合わせて9人連続失敗というのは、いかがなものかと思うけれども(笑)。
そして、Jリーグ開幕に先駆けてスタートしたアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)では、グループリーグ第1戦をマレーシアのジョホールに5対1で勝利した。初出場の大会で、初めての試合のなか、勝ったのは大きいよな。
今季は清水エスパルスからFWドウグラスを獲得したけれど、本当にいい補強をしたと思うよ。ネームバリューでは昨季限りで引退したダヴィド・ビジャや、退団したルーカス・ポドルスキには及ばないけれど、シーズンを通してみたらドウグラス獲得は戦力アップなのは間違いないよ。
ドウグラスは、ACLでは1トップで起用されていたけれど、2シャドーのところでもプレーできる。1トップに藤本憲明を使って、ドウグラスを2列目という布陣もあるだろうね。
ドウグラスは高さはさほどないけれど、ピンポイントで合わせる上手さがあるし、足元の技術もしっかりしていて、サイドに流れて起点をつくることもできる。ケガさえなければリーグ戦での年間2桁ゴールは固い選手だよ。
ACLの第2戦は、2月19日に韓国の水原三星と対戦するけど、トルステン・フィンク監督がどういう布陣を敷いて、どう戦っていくのか注目したいね。
パスをつなぎながらポゼッションを高めるスタイルをとるJクラブにとってACLの相性が悪いんだよな。ガンバ大阪がタイトルを獲ったこともあるけれど、当時とはアジアのレベルは違っているからね。前線に強烈なFWを置いた浦和レッズや鹿島アントラーズがタイトルを手にしたのとは対照的に、昨季まではパスサッカーの川崎フロンターレがグループステージ敗退の憂き目にあった。
その難しいACLで、神戸が主導権を握ってパスサッカーで勝ち上がっていけるのか。アンドレス・イニエスタ次第なところは否めないよな。
彼のコンディションが常に万全なら何の心配もないけれど、J1リーグも2月21日から開幕する。神戸も2月23日に横浜FCと対戦するけれど、週1でJリーグを戦いながら、ACLもあるなかでは、全試合に出るのは難しくなる。イニエスタを休ませる試合も出てくるだろうから、そこでチームとしての戦い方をちゃんとできるかが重要になるよ。
神戸のスタイルは、前線の選手がスペースに飛び出すタイミングでスピードアップできるかがポイント。イニエスタは広い視野でそこを見ているから、スパーンと縦パスが出る。だけど、そのパスが出ないと、何度も何度も中盤でパスをつないで作り直す羽目になる。いまのバルセロナや悪い時のアルゼンチン代表がまさにこの状況。イニエスタがいないときにポゼッションサッカーの典型的な悪いパターンにハマらないようにしてもらいたいよ。
DFラインもメンバーが揃わないときがポイントだよな。ACLは4バックで戦っていたけれど、DFラインもCBにフェルマーレン、ダンクレー、大崎玲央がいて、左サイドに酒井高徳、右サイドSBに西大伍が揃うときは安心感があるよ。でも、誰かがケガをしたり、出場停止になったときに代わりになれる選手が台頭するか。そこだよな。
カギを握るひとりが、MFのサンペールだと思うよ。去年は守備的MFとして起用されて、パスさばきで流石と思わせることもあったけれど、彼が低い位置でボールを持ったときに相手が強烈なプレスをかけてボールを奪い、そこからシュートに持ち込まれるケースがたびたびあった。天皇杯準決勝でもミスしてイニエスタに怒られていたもんね。そこが改善されていれば、中盤が安定するから、神戸にとっては攻守で助けとなるんじゃないかな。
ACLとJリーグの両方の戦いをしっかり見届けながら、今シーズンの神戸がつくる物語を楽しんで行きましょ!
構成/津金壱郎 撮影/山本雷太