ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 今年最初の東京開催が先週からスタートしました。昨秋の開催では終盤に雨が続いて、かなり極端な馬場状態になっていましたが、それから2カ月が経過して、芝生はしっかりと生えそろい、開幕週では好時計の決着が多く見られました。

 その開幕週に行なわれた重賞は、ダートのGIII根岸S。ダート初参戦の安田記念馬モズアスコットが、圧巻のパフォーマンスを披露して快勝しました。そして、今週の東京では芝のマイル重賞、GIII東京新聞杯(2月9日/東京・芝1600m)が行なわれます。

 マイラーの実績馬の始動には、やや早い2月のレースであることや、賞金別定のルールのため、実績馬にとっては負担重量が重くなることから、基本的に重賞実績が豊富な馬より、将来を嘱望される馬たちが比較的参戦しやすい一戦と言えます。

 昨年は、インディチャンプがオープン入り初戦でこのレースを勝利。初の重賞制覇を飾ると、その勢いのまま、GI安田記念(東京・芝1600m)、GIマイルCS(京都・芝1600m)と、マイルGIの春秋制覇を成し遂げました。その結果、JRA賞の最優秀短距離馬も受賞しました。

 また、2年前の勝ち馬は、当時まだ2勝馬だったリスグラシュー。同馬も、そこからさらに力をつけていって、昨年はGI宝塚記念(阪神・芝2200m)とGI有馬記念(中山・芝2500m)の、春秋グランプリ制覇を達成。海外GIを含めて、GI年間3勝を挙げて年度代表馬にも輝きました。

 こうした馬たちと同様、今年ものちのGI馬となる素質馬が台頭することを期待したいですね。

 まず注目しているのは、現在3連勝中の明け4歳馬ヴァンドギャルド(牡4歳)です。

 クラシック戦線においては、2歳秋から重賞に挑戦し続けていましたが、毎回あとひと押しが足りず、賞金加算に失敗。結局、クラシックの舞台に立つことは叶わなかったのですが、GIIIアーリントンC(9着。2019年4月13日/阪神・芝1600m)のあと、早めに休養に入って、成長を促したことが功を奏したのでしょう。昨秋の3戦は、それまでよりも相手が楽になったとはいえ、休む前の決め手不足を払拭する強さを見せて、3連勝を飾りました。

 この馬の強みは、そつなく立ち回れて、どの位置からでもしっかりと脚を使えるところですが、3歳の春までは堅実さがある反面、決め手を欠いていたので、勝たせるのが難しそうな馬だと思って見ていました。しかし復帰後は、レースのうまさに加え、追ってからの迫力が増しましたね。

 前走の3勝クラス(1600万下)・ウエルカムS(2019年11月24日/東京・芝1800m)では、厩舎の方針もあってか、同馬を管理する藤原英昭厩舎所属のルーキー・岩田望来騎手が騎乗。出たなりで、馬の邪魔をしないよう、馬群の外をクルッと回ってくるような競馬でした。言ってみれば、可もなく不可もなくといったレース運びでしたが、それでも3勝クラスを一発で勝ち切ってしまうのですから、確実に力をつけていると思います。

 今回は、復帰後の2戦で手綱を取っていた福永祐一騎手が再び騎乗します。福永騎手と言えば、昨年の勝ち馬インディチャンプの主戦。東京のような広いコースを得意としていますから、昨年同様、いい競馬をしてくれるのではないでしょうか。

 インディチャンプとヴァンドギャルドを比べてみると、鞍上が福永騎手であること以外にも、連勝中の明け4歳馬であること、3歳春の時点では重賞であと一歩及ばなかったこと、といった共通点があります。さらに、GIII毎日杯(阪神・芝1800m)のあと、アーリントンCで敗れたところで、春シーズンを早々に切り上げた臨戦過程はまったく一緒。ヴァンドギャルドも今回勝利すれば、インディチャンプと同じように、のちにGI制覇を果たす存在になっていくかもしれません。

 今春の安田記念(6月7日)を見据えたうえで、注目すべき馬がもう1頭います。クリストフ・ルメール騎手が手綱を取るレッドヴェイロン(牡5歳)です。

 母エリモピクシーの産駒たちが、東京のマイル戦を滅法得意としているのは有名で、昨年のレースでもインディチャンプの2着だったのは、1つ上の姉レッドオルガでした。レッドヴェイロン自身も、3歳時にGI NHKマイルC(東京・芝1600m)で3着と好走。以降、そうした血統面を考慮してか、関西馬ながら東京の芝マイル戦を意識的に使われ、3戦2勝、2着1回と、好成績を残しています。

 2走前の3勝クラス・紅葉S(2019年10月27日/東京・芝1600m)では、大幅な馬体増にありながら難なく勝利。前走のオープン特別・キャピタルS(2019年11月23日/東京・芝1600m)でも、不良馬場に適性があったドーヴァーにこそ屈しましたが、内容的には文句なしの2着でした。

 ルメール騎手は今回、これまで主戦を務めてきた藤沢和雄厩舎のレイエンダ(牡5歳)も出走しますが、レッドヴェイロンに騎乗。その選択には驚かされました。単に先約を優先した、という可能性もありますが、親密な藤沢厩舎の馬で、しかもダービー馬の弟であるお手馬を手放すとは……もしかすると、2頭の評価に差があるのかもしれません。

 また、レッドヴェイロンを管理する石坂正厩舎は、同調教師の定年により、来年の2月末で厩舎解散となります。つまり、フェブラリーS以外のGIはすべて、あと1回ずつしか出走機会がないということ。

 GI出走のチャンスがある馬にはそれだけ力を注ぐはずで、レッドヴェイロンについても、今春の安田記念に向かわせたい思いが強いでしょう。その意味でも今回は、賞金加算のための2着以上の確保へ、全力を注いでくると思います。

 これら上位人気が予想されるヴァンドギャルドとレッドヴェイロン。前者は福永騎手に手綱が戻って、後者はルメール騎手の選択によって、ここでも好レースが期待できそうです。


横山典弘騎手騎乗でクリノガウディーの一変はあるか!?

 さて、今回の「ヒモ穴馬」においても、乗り替わりが起爆剤になりそうな馬を取り上げたいと思います。クリノガウディー(牡4歳)です。

 同馬は今回、初めて横山典弘騎手とコンビを組みます。これまでの戦績が示すように、重賞ではやや物足りない馬。あとひと押しを利かせるには何か工夫が必要だと思っていましたが、横山典騎手のテン乗りという策は、こういう馬には面白いかもしれません。

 戸崎圭太騎手が乗った2走前のGIII富士S(2019年10月19日/東京・芝1600m)では、最後方の集団から直線で馬群に突っ込んでいっての4着でした。春先にはハナを切るような競馬もしていましたから、戦法に関して自在と言えます。引っかかる心配のないマイル戦では、大崩れしないだけの地力があります。まさしく、勝ち負けまで持ち込むには、鞍上のセンスが問われる馬だと見ています。

 そんな馬に、横山典騎手が騎乗。どういう競馬をするのか、本当に見物です。ハマらなければ、大敗という可能性もありますが、鞍上の狙いとレースの流れがかみ合えば、大駆けも十分に見込めます。スタンドのファンをアッと言わせる走りを期待しています。