by Ryan Somma

ダイオウイカ(学名:Architeuthis dux)は世界最大級の無脊椎動物で、触腕を含めると6.5mにも達する巨大なイカです。そんなダイオウイカが非常に複雑で高度に進化した脳を持っていることが、最新のゲノム(塩基配列)解析で判明しました。

draft genome sequence of the elusive giant squid, Architeuthis dux | GigaScience | Oxford Academic

https://academic.oup.com/gigascience/article/9/1/giz152/5697198

Unprecedented gene study suggests giant squids may be massively intelligent | Inverse

https://www.inverse.com/article/62343-gene-study-reveals-giant-squid-may-be-intelligent

ダイオウイカは世界中の海で発見例があるものの、基本的に深海に生息しているため、その発見数は極めて少なく、そのほとんどが浜辺に打ち上げられたり海を漂ったりした死骸です。生きているダイオウイカの姿を映像で捉えたのは、2006年に日本の研究者が撮影したのが史上初。

以下は2013年に小笠原諸島沖の深海で撮影されたダイオウイカの映像。

Giant Squid (Architeuthis) footage, January 27, 2013 - YouTube

シカゴ大学の生物学者であるキャロライン・アルバーティン氏らの研究チームがダイオウイカのゲノムを解析したところ、そのゲノムサイズはおよそ27億bp(塩基数)だったとのこと。なお、人間の塩基対がおよそ30億bpです。

また、研究チームはこのダイオウイカのゲノムの中に、「プロトカドヘリン」と呼ばれるタンパク質に関わる遺伝子を約100個発見したとのこと。プロトカドヘリンは、細胞の接着を行うタンパク質であるカドヘリンの前駆物質であり、特に神経細胞による情報伝達を行うシナプスの形成に大きく関わります。

2015年の研究ではタコのゲノムにもプロトカドヘリンに関わる遺伝子が多く見つかっており、実際にタコは非常に高い知能を持っていることは従来の研究で示されています。

なぜタコは「無脊椎動物界のスーパースター」と呼ばれるのか? - GIGAZINE



アルバーティン氏は「プロトカドヘリンは、複雑な脳を正しく配線する上で重要な物質だと考えられています」と述べ、ダイオウイカもタコと同様に非常に高い知能を持つ可能性を示唆しました。



by Gilbert Mercier

科学系メディアのInverseは、この研究では「なぜダイオウイカがこれほどまでに巨大になったのか」という疑問が解決されていないと指摘しています。2013年の研究でミトコンドリアDNAの解析が行われた結果、それまで数種類いたと考えられていたダイオウイカが同一種しか存在しないことが判明しています。しかし、ダイオウイカを含む頭足類自体のゲノムサンプルが少なすぎるため、なぜダイオウイカだけがここまで巨大化したのかはいまだ不明のまま。

研究チームは「今回の研究でゲノムが解析されたことで、ダイオウイカという畏敬の念を起こさせる生物の謎を将来的に解き明かすためのきっかけとなるだろう」と述べ、ダイオウイカのゲノムを研究することで地球上の生物の多様性についての理解が進む可能性があると論じました。