「ムサコはもう無理」トイレ禁止タワマンの末路
「武蔵小杉はもう無理かもしれない」。2019年10月12日、日本列島に上陸し、甚大な被害をもたらした台風19号。武蔵小杉駅前に立つタワーマンション「パークシティ武蔵小杉ステーションフォレストタワー」では地下の電気系統が浸水。停電や断水などの被害が起きた。同マンションの高層階に住む男性のAさんが、災害当時のマンションの内情を明かす。なお、19年12月末現在は一部断水などがあるものの、電力も水も復旧している。
■住人間で起きたエレベーター問題
「19年12日の夜21時ごろ、マンションの館内放送で1階フロア部分が浸水しているとありました。大したことはないだろうと行ってみるとエントランスが池になっていました。その日はそのまま就寝しましたが、夜中に目が覚めると電気が止まっていた。非常階段があるエレベーターホールは自動ドアなので、そこも抜けられず。朝まで自分のフロアに閉じ込められてしまいました。朝、階段で1階に下りると掲示板に『エレベーター復旧は1カ月後』とあり、実家に避難しました。荷物を取るために2回、部屋まで階段で行かざるをえませんでしたが」
今回のようなケースの場合、「民法等により、賃貸人(所有者)側は賃料減額に応じる必要があります」と城南中央法律事務所の野澤隆弁護士は話す。実際に賃貸で住んでいるAさんもオーナーに掛け合ったところ、翌月11月分の賃料が半額になったという。
やはり負担がのしかかるのは所有者側だ。野澤弁護士は続ける。
「今回の被害でマンションの資産価値が下がる可能性が高く、その場合、賃料も下げる方向にシフトせざるをえません。加えて修繕積立金の負担分が増大し、住宅ローンを組んでいるオーナーは返済できなくなる可能性もある」
この状況では、賃料の減額などの交渉は居住者側から行動を起こさないといけない。そういった情報を住民間で共有するために、居住者たちを集めたLINEグループが作られた。しかしそのグループでは、住民同士の温度差の違いや不公平感が募り、不平不満が書き込まれるケースも見られた。
具体的な例を挙げると、同マンションのエレベーターには低層階用(1〜21階)と高層階用(1・21〜47階)の2つがある。電力が一部復旧した後も、すべてのエレベーターが稼働していたわけではなく、慢性的な渋滞が起きていた。そこで、高層階用のエレベーターを使用する21階の住人に対し、「高層階用のエレベーターがより混雑するから、低層階用のエレベーターを使ってくれ」とグループ内で論争が起きた。21階まで一気に昇る高層階用のエレベーターで楽をしようとせず、ちゃんと低層階用エレベーターで時間をかけて昇ってこい、ということだ。
■駐車場はやっぱり使えない
プレジデント誌19年12月13日号記事「武蔵小杉の『トイレ禁止タワマン』に新たな火種が勃発」では、同マンション内の地下駐車場が全面的に使用禁止となっていることを報じた。
今回、Aさんの案内で駐車場を訪れてみると、当時は駐車されたままだった車が1台もなくなっていた。駐車場の復旧に関してはまだ先が見込めず、同マンションの管理側では使用開始は1年近く先になるという話もあるようだ。そのため、利用者は同マンションの外に新たに駐車場を借り、不便な生活を強いられている。
LINEグループには、以下のような内容が投稿されたという。「新車に1カ月以上乗れなかったこと。鹿島田の青空駐車場は耐えられなかったこと。それらを考慮して、マンションの賃貸契約を半年で解約しました。高層階で水圧も安定せず、穏やかに過ごしたい週末に避難訓練というのも、億劫でした。あまりにも期待と違う生活を、安くない家賃を払い続けて過ごすのでは、気楽な賃貸を選んだ意味がない」。
鹿島田駅は武蔵小杉駅から3駅先だ。歩いて行くと40分もかかる。たしかに、自分の車に乗るだけでそれだけ時間がかかるのなら、都心にアクセスがしやすい街といえども、交通の便が良いとは言えないだろう。
(プレジデント編集部)