東京メトロ東西線の電車(編集部撮影)

首都圏を走る通勤電車で目下、最も「悪名高い」のが東京メトロ東西線。最混雑区間である木場→門前仲町間の朝ピーク時間帯の混雑率は199%。首都圏では断トツのワースト1位だ。

その東西線の混雑率を大きく改善させようというプロジェクトを、東京メトロが進めている。「東西線の輸送改善によって混雑率180%以下を目指す」と、東京メトロは説明する。実現すれば、混雑率は実に20%程度下がることになる。一体、どのようにしてこれだけの混雑緩和を実現しようというのか。

平成初期から下がらない混雑率

東西線の混雑率の推移を過去30年間さかのぼってみると、1988年度の最混雑区間は門前仲町→茅場町間で混雑率は216%だった。

1989年に都営地下鉄新宿線、1990年にJR京葉線が全線開業すると、東西線の利用者の一部が両路線にシフト。混雑率は196%まで低下した。当時の首都圏の通勤電車の平均混雑率は200%を超えていた。平均混雑率が200%を下回ったのは1992年度なので、30年前の東西線はむしろ平均よりも混雑が少ない路線だったともいえる。

しかし、ほかの混雑路線が次々と輸送力を増強して混雑率を引き下げたことで、平均混雑率はみるみるうちに下がった。現在の平均混雑率は163%だ。それに引き換え、東西線の混雑率は30年間200%前後で高止まりしたままだ。

1996年に東葉高速線が東西線と接続すると混雑率は再び200%を超えた。2000年に都営地下鉄大江戸線が開業し、門前仲町で大江戸線に乗り換えるルートが生まれたことで混雑率はやや減ったが、東葉高速線開業による利用者増を解消した程度の効果にすぎなかった。

なお、大江戸線開業の結果、最混雑区間は門前仲町→茅場町間から木場→門前仲町間に変わっている。

過去30年間、東西線のピーク時間帯(7時50分〜8時50分)の輸送力は10両編成の列車が27本。すでに列車本数がパンパンで、これ以上増やせないのだ。

混雑だけではない。乗客が多すぎて駅での乗降に時間がかかり、遅延が発生する事象も頻繁に起きた。列車が遅延すると、単位時間当たりの運行本数が減ってしまう。その結果、運行本数が27本よりも減ってしまいかねない。これでは混雑率の悪化に拍車をかける。


遅延防止にあの手この手

そのため、東京メトロは駅での乗降時間短縮に向けた手をいくつも打ってきた。

まず、2007年から最混雑時間帯の快速(西船橋―東陽町間は浦安のみ停車)のうち浦安―東陽町間は各駅に停車する通勤快速を増やして列車ごとの混雑を平準化。2009年には朝ラッシュ時に走っていた中野方面快速を通勤快速に統一した。快速をなくしたのは、飛びぬけて便利な列車があるとその列車に乗客が集中し、遅延を引き起こしやすいためだ。

2009年には門前仲町で駅の旅客流動の改善にも踏み切っている。同駅では中野方面の最前部付近に大江戸線との乗り換え口がある。しかも先頭は女性専用車両。大江戸線から乗り換える男性の乗客はその隣の2両目に集中する。そこに、2両目以降の車両から大江戸線を目指す乗客の流れが真っ向からぶつかる形になっていた。

そこで、列車の停車位置を5mだけ前寄りに移動。わずか5mだが、乗客の流れがぶつからずにすれ違う形となり、ホーム上の滞留が大きく緩和した。

2010年には、従来車や他線の車両で130cmのドア幅を、180cmと大人の背丈ほどもあるワイドドアを装備した新型車両15000系を13編成130両投入するなどの対策も行った。


ドア幅の広いワイドドア車両(編集部撮影)

ワイドドア車両は1990年代初頭にも5編成導入しており、これらの車両をラッシュ時に集中的に運行することで、乗降時間を多少なりとも減らすことができた。

2017年からはホームドアの設置が始まった。ホームドアを設置すると乗客の転落事故が防げる点で遅延解消に寄与するが、ホームドアがあるとドアの開閉が数秒長くなる。その結果、停車時間が延びてしまう。そこで、ホームドアと車両のドアが連動して動くセンサーをホームドアに設置して、開閉にかかる時間を短縮するという対策を講じている。

しかし、こうした取り組みは現状の混雑率をさらに悪化させないための取り組みにすぎない。東京メトロは2007年から最混雑時間帯を避けた乗車を呼びかけるオフピークキャンペーンを開始しているが、乗客のピークシフトだけでは混雑率の劇的な改善は望めない。混雑率を20%も下げようというのであれば、運行本数を増やすしかない。

混雑率180%以下は達成できるか

東京メトロ側は「秘策がある」という。まずは駅の大規模改良だ。現在、茅場町でホームの延伸、木場でホーム拡幅とコンコース増設、南砂町ではホームと線路の増設を行っている。これらは2022〜2027年度に順次完成する予定だ。

ホームが延伸、拡幅されることで乗客の流れがスムーズになり、乗降時間の短縮につながる。南砂町では中野方面行きの線路とホームを増やし、列車を交互に発着させることで遅延の防止を図る。これらによって列車の運行時間が短くなり、単位時間当たりの列車本数を増やすことができる。

さらに、飯田橋―九段下間に折り返し設備を整備する。こちらは2025年度完成予定で、既存の折り返し線を本線化し、折り返し列車と後続列車の同時運行を可能にすることで増発の余地が出てくる。「これらの施策を総合して混雑率180%以下を目指す」と山村明義社長は意気込む。総事業費は1200億円という計画だ。

現在199%の混雑率を180%以下にするためには、計算上は、1時間当たり27本の列車を30本に増やす必要がある。3本の増発だ。はたして、列車本数を増やし、混雑率を目標どおり下げることはできるか。