安全で速くて壊れにくくて快適! でも昔のクルマのほうが良かったと言われるワケ
車重と価格は確実に重く高くなった
「最新のポルシェが最良のポルシェ」というフレーズがあるが、ポルシェだろうが、日産だろうが、ダイハツだろうが、新しいクルマが一番いいと素直にいえる時代は、ずいぶん前に去ってしまったような気がする。もちろん、トータルでいえばクルマの技術はどんどん進歩しているし、便利で、エコで、安全になっているのは間違いない。でも、手放しで「楽しかった」「よかった」といえるのは、ちょっと昔のクルマばかりだった気もする。その差は一体何なのか?
非常にザックリ言ってしまうと、いまのクルマは100kg重くて、100万円高い。例えばトヨタ86。「GT」で1240kg/300万円。これが、同じような2リッターNAエンジンのFRで、1100kg/200万円だったら、けっこう素直に飛びつけたはず。マツダのNDロードスターは、990kgで260万円(Sグレード)なのでかなり健闘しているが、NAロードスターは100万円近く安かった……。ホンダ・シビックタイプRに至っては、現行のFK8は1390kg、458万円。初代のEK9は、1050kgで199万円! 車重に関しては、やはりスポーツカーなら1300kgが上限。できれば1t=1000kgぐらいのクルマなら、エンジンが少々プアーでも楽しく走れる。
価格も大事。実質賃金が過去7年で大幅マイナス、30代、40代の人でも無貯金の人が23%もいて、非正規社員も多い時代。昔は年功序列+終身雇用で、黙っていても給料は上がり、稼ぎは全部クルマにつぎ込んで、なんてことも許されたが、いまは違う。そういう意味で、むかし以上に安くて遊べるクルマが欲しいところ。学生が少々頑張ってバイトをすれば、そこそこ走れるクルマが買える、そんなクルマがいくつかあれば中高年も若者も、もっとクルマに夢中になれるはず。いまのクルマはオモチャとしては高級すぎる。
あとはやっぱりクルマ好きは、電気より機械が好きなのだろう。ドライブ・バイ・ワイヤなどの操作系の電子制御や、VSCなどの制御があると、安全性やエコの面ではメリットも大きいが、クルマとドライバーの一対一の関係性は薄れてしまう。操作とそれに対するクルマの挙動、反応の因果関係がはっきりしていないと、なかなかドライビングが楽しいと思えなくなる。メンテナンスするにしても、チューニングするにしても、機械いじりなら楽しいが、電気関係は……。
各メーカーの「個性」が減少したことも要因
パワーについては、AE86のころのように130馬力ぐらいだと、「もっとパワーを!」と叫んでいたが、280馬力時代となって大興奮。あのスーパーカーエイジが夢中になったポルシェ930ターボだって260馬力だったのだから、300馬力前後のクルマが最速だった時代のほうが、一番バランスがよかったのかもしれない。ドライビング的には、限られたパワーをどう有効に使うかというのも面白いし、ドッカンターボのようなじゃじゃ馬をどう乗りこなすかも腕の見せ所だった。だがドライバビリティのよすぎるハイパワー+賢い電子制御というのは、どうしても面白みに欠けてしまう。
ないものねだりといえばそれまでだが、絶対的な速さはなくても、ワクワク、ドキドキできるクルマこそが魅力的。要するに、いまのクルマは高効率で少し賢すぎるのかもしれない。もっと積極的にアクセルを踏んでいけて、積極的にハンドルを切って曲がっていける、そんな“正しく間違った”、遊び心ある走りのクルマの登場を、待っている人は多いはずだ。
さらに付け加えるなら、80年代、90年代はメーカー同士の資本提携や技術提携がなく、メーカー同士がライバルとして競い合っていて、それぞれ個性が強かった。それだけにユーザーもその個性に惹かれ、日産ファン、ホンダファン、マツダファンと、それぞれ各メーカーに強い思い入れがあったもの。しかし、今ではそういうものも薄れてきて、いいクルマならメーカーにはこだわらないという人が増えてきている。
もっとも、メーカー間の提携があるからこそ、こうした時代でもトヨタ86/スバルBRZや、BMW Z4/トヨタGRスープラのようなクルマも登場してきたわけで、プラスの面もある。だが、のめり込める感じ、熱烈に応援したくなる気持ちは希薄になってきたのでは。
また蛇足かもしれないが、むかしはクルマに乗ることで、女の子に「モテる」という幻想(?)もあったし、メーカーもけっこう「モテる」ということを意識してクルマを開発していたはず。古い話でいえば、ハコスカのキャッチフレーズは、ずばり「愛のスカイライン」だったし、初代セリカは「恋はセリカで」というコピーを謳った。
ずばり「クルマはSEXの商品です」と言い切ったプリンス自販のPRに載った宣伝担当者の発言もあったし、ケンメリスカイラインの「愛のアンブレラ」とロゴの入った「ケンメリTシャツ」は、57万枚も売れたという記録がある。その後、ソアラやプレリュード、シルビアなどが、デートカーといわれたりもしたが、クルマからフェロモンが失われたのも、クルマの魅力が薄れてきた遠因かもしれない……。