電気自動車は次世代の主流といったムードが広がりつつある

 ディーゼルゲートと呼ばれたディーゼルエンジンの排ガス処理に関する問題が発覚して以降、欧州の自動車業界は電動化が話題の中心となっている。当初はマイルドハイブリッドでお茶を濁す程度の電動化が主流になると言われていたが、もはやBEV(バッテリーEV)と呼ばれるエンジンを積まない純粋な電気自動車こそ次世代の主流といったムードとなりつつある。

 国連の気候変動サミットにおいて涙ながらに訴えた活動家グレタ・トゥーンベリさんがヨットで大西洋を渡ったように、欧州では「#Flygskam(飛び恥)」という言葉が流行るなどCO2排出量を減らすことが大正義となっている状況を見聞きしたこともあるだろう。CO2の排出量削減については政治的な駆け引きも無視できないが、現時点ではそれを否定することは野蛮な行為とみなされるのも、また事実だ。

 つまり走行中にCO2を排出しないBEVは絶対正義といえる存在となっている。たしかに生産時のCO2排出量まで考えるとBEVよりも古いエンジン車を大事にするほうが有利という見方もあるが、再生可能エネルギーの活用が広がることで発電は必ずしもCO2排出を伴うものでなくなっている。化石燃料を使い続けるという選択に理解を得るのは難しい。

 では、BEVの販売量が増えているのかといえば、その答えは微妙だ。たとえば、電気自動車専門メーカーとして独自のブランド力を持つテスラ。その2019年第3四半期の世界新車販売台数は前年同期比で16.2%増となっている。しかし、絶対的な台数でいえば9万7000台程度であって、世界の自動車生産台数(おおよそ2250万台)からすると誤差の範疇といえるような販売規模でしかない。

多くのユーザーはパワートレインにこだわりがない?

 日本国内の販売状況でも2019年度上半期における日産リーフの販売台数は9244台。同時期の乗用車(軽自動車を除く)の販売台数が142万台余りであるから、やはり比率でいうと0.6%程度に過ぎないのだ。つまりEVシフトの動きは活発だが、実際にはそれほど売れていない。

 では、環境意識の高いユーザーが声高に叫んでいるだけで、実際にはBEVは売れていないし、将来的にもシェアは拡大しないのかといえば、そうとは限らないだろう。まず、多くのユーザーがエンジン車にこだわっているとは思えない。現時点では航続可能距離などでエンジン車のほうに利便性があるといえるので、BEVへの移行は目立っていないが、ハードウェアの進化次第で一気に流れが変わる可能性は否定できない。

 たとえば、カメラはかつてフィルムを使っていた。デジカメが登場した当初はおもちゃのようなものでプロユースはフィルムが残り続けるといわれていたが、実際はどうだろうか。プロ機もデジタルに移行したのは、ご存じのとおり。いまやフィルムを見たことがない若者ばかりとなっている。さらにいえばスマートフォンの普及もあって、単機能のカメラ自体を所有するということさえ、過去のものとなりつつある。

 デジカメとBEVを同一視することは適切ではないだろうが、少なくとも多くのユーザーにとって、フィルムへのこだわりがなかったように、それほどエンジンへのこだわりもないと考えるのが妥当だ。利便性とコストのほうがパワートレインへのこだわりより上位にくるだろう。

 まして、クルマは所有するものからシェアリングに移行するとも予想されている。そうなれば、ユーザーの好みでパワートレインを選ぶこともなくなる。その際にエンジン車が主流のままなのか、BEVに移行しているのかは定かではないが……。