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インターネットが普及し、SNS(ソーシャルネットワークサービス)がネットのコミュケーション機能をさらに広げたことで、ネットは「社会の分断化」の原因と指摘されることが多くなった。

そのことが真実かどうかを確かめようと大規模な調査を行い、その結果を本書「ネットは社会を分断しない」(KADOKAWA)にまとめた。

「ネットは社会を分断しない」(田中辰雄、浜屋敏著)KADOKAWA

中高年の分断、先鋭化

インターネット草創期の1990年代には、それに触れた人たちのあいだでは、世界の国々で情報交換が可能になるとの予想から、ネットは社会をよくするという期待があった。

ところが、ネットが一般に普及するにつれ、現実は違う方向に進む。「『ネトウヨ』『パヨク』と呼ばれる極端な主張を行う人ばかりが目立ち、相互理解の議論はほとんど見られない」という分断化がみえるようになった。

こうしたネット状況に、ネット草創期当初に語られていた、ネット社会の明るい未来展望や、ネットを通じた健全な政治活動への期待がしぼみ、それらの論客たちは次々に舞台を降りた。ネットに寄せられた相互理解を進めるツールとしての期待も薄れ、代わって前面にでてきたのが、「社会の分断」という言葉だった。

果たして分断はネットが原因なのか――。慶應義塾大学経済学部の田中辰雄教授(計量経済学)らは、その確認のため、大規模なアンケート調査を複数回実施し、この説を「ひっくり返す」結果を得た。調査は計3回。最初は2017年8月に10万人を対象に、2回目は18年2月に5万人、そして3回目は補足として19年5月に2万人を対象に行われた。

これら調査の結果、ネットが社会を分断するという説とは大きく矛盾する事実が判明したという。それは「分断が進んでいるのは、年齢別にみると中高年」ということ。ネットのせいで分断が進むということなら、ネットを使う若年層ほど顕著なはず。だが、そうではなく、ネットを使うことが比較的少ないはずの中高年で見られたことは、ネット原因説に投げかけられた第一の疑問だ。

中高年の分断が先鋭化していることを裏付ける例として本書では、17年の朝鮮学校補助金交付をめぐる「弁護士大量懲戒請求事件」の請求人や、安保法制、モリカケ事件で安倍退陣を求めてデモを続けた人たちの中に中高年が目立ったことをあげる。前者の事件での懲戒請求した人の平均年齢は55歳だった。中高年の分断先鋭化は米国でも同様なことが、スタンフォード大学の調査結果を引用して紹介されている。

分断が先にあった

分断化の「ネット主犯説」に、もっともらしさを与えてるのはブログやSNSの拡大だ。本書によれば、こうしたネットメディアの利用者は、政治的に過激であり、分断化が進んでおり、ネット利用と分断化には「正の相関関係がある」が、だからといってネット利用、即、分断化とはいえるものではないという。

それは、もともと政治的に過激だった人が、自分の主張を広めるための格好のツールとしてネットメディアにとびついたことが考えられ、因果が逆の可能性があるからだ。つまり、分断が先にあり、それからネットメディア利用が起こったのであり、ネットが分断の原因になったわけではない。

とはいっても因果関係の判定は困難。そこで著者らの調査では、同じ人物を2時点で追跡して比較し、ネットメディア利用開始前後でその人物の「分断」の度合いの変化をはかった。度合いが上昇していれば、ネットメディアのために分断化が進んだと判断できるのものだが、その傾向は見つからなかったという。

また、リアルな場面では、自分と同じ意見と接することを好む選択的接触が多くなりがちだが、ネットでのそれは強くはない。むしろ、自分と異なる意見に接している傾向があるという。リアルでは、新聞、雑誌などのメディアを購入、あるいは図書館などでの閲覧・借り出しなどの出費、などと手間がかかる一方、ネットではそれらが軽減されアクセスがより容易であることもあるが、SNSなどで接する論客の4割程度は自分とは反対意見の人で、接する論客の9割以上が同じ意見の人というのは1割程度だった。

「ネットは社会を分断しない」田中辰雄、浜屋敏著KADOKAWA税別860円