クーペからワゴンに変形するスズキの「ワクスポ」は、家族みんなが共感できるPHEV
今年の東京モーターショーに、スズキは興味深いコンセプトカーを出展しました。開発に携わった方々から話を聞いてみると、それは将来に向けた電動化技術を見据えているだけでなく、スズキという自動車メーカーが「やるべきこと」を、社員自ら考え、提案しているようにも感じられます。
「ワクスポ」と名付けられた写真のクルマは、ボディの後部がクーペからワゴンに変形するというコンセプト。名前の通り、ワクワクするスポーティなクルマを目指したのでしょうけれど、ぶっちゃけ外観だけがクーペに変わったところで、走りのスポーツ性が向上するとは思えません。むしろ変形ギミックを搭載することによって運動性能や動力性能が犠牲になるデメリットの方が大きいのではないか。だったら、最初からスポーティなワゴンというコンセプトで作れば良さそうなものを、なぜわざわざ「変形」させたかったのか? スズキの商品企画を担当されている高橋修司氏(工学博士)に訊いたところ、その理由は「家族みんなが共感できるクルマにしたかったから」とのこと。
「団塊世代や団塊ジュニアの方々には、クーペに対する憧れがあると思うんです。しかし、家族みんなで1台のクルマを共有することを考えると、クーペというクルマではなかなか購入に踏み切れない」。つまり売れない。そこで、お母さんが日常的に使うのに便利そうなワゴンと、お父さんの心情に「グッとくる」クーペを1台のクルマで両立させ、双方の購買意欲を刺激することを目指したというわけです。息子さんや娘さんの好みや目的に合わせることもできるでしょう。
しかもパワートレインはフロントのエンジンに加え、前後にモーターも搭載するプラグインハイブリッドの4輪駆動(を想定)なので、お母さんが街中で買い物や送迎に使うときにはほとんど電気のみで経済的に走行可能。そしてお父さんやお子さんが1人で運転を楽しむときには、エンジンとモーターの組み合わせによるパワフルな走りが味わえるのです。
車体のサイズは全長3,700mm × 全幅1,650mm × 全高1,430mm。軽自動車より少し大きいいわゆるAセグメントです。これは「程よいサイズで、自分自身の手で操る感覚が楽めることを重視した」とのこと。
デザイナーの方にお話をうかがったところ、プラットフォームは当然ながら、スズキの同セグメントのクルマ(例えばコンパクト・ワゴンの「ソリオ」あたり)と共有することを前提にしなければならないので、制約のあるディメンションの中で「どれだけクーペらしいロングノーズに見せられるか」ということに苦心したそうです。ボディがグリーンとシルバーで塗り分けられているのも、「前後に伸びやかなスタイルに見せるため」。スポーティながら落ち着いたカラーリングや、両サイドと同色のロールバー風Cピラーが、お父さんたちの青春時代に憧れたクーペを想起させることでしょう。
変形ギミックは、このCピラーの後方が電動で昇降。クーペ形態からワゴン形態に移ると後部座席の頭上空間が広がると共にシートが後方へスライドし、2+2シーターから4人乗りに変わります。ボディ後部を手動で取り外し式にすればもっと軽量化できるはず、とクルマ好きのお父さんなら考えるかもしれませんが、「お母さんにいちいち手で取り外させることはできないので、電動はマスト」とのこと。ごもっとも。
後部座席用の小さなドアは、巧妙に設計された上下2本のアームで支えられており、一度外側に開いてから後方にスライドする仕組みです。これも後部座席の乗降性と、一見2ドアクーペ風のスタイルを両立させたデザイナーのアイディアです。「スライドドアながらボディのレールを残さない」ための工夫で、「これは市販車になんとか活かせないかなと思っています」とのこと。ドアを支えるアームにはメッキが施され、"見せる演出"も考えられています。
ダッシュボードは、ワゴン形態時にはウッド調の落ち着いた雰囲気ですが、クーペになると車両の様々な情報を表示する、まさにコクピットへと早替わり。スポーツ・ドライブ心を掻き立てます。
スズキという会社が出すクルマとして「スポーツだけに特化するのではなく、実用性も割り切ってはいけないと考えています」と、高橋さんは言います。このまま市販化することはおそらく難しいであろうことは承知の上で、もし市販化するとしたら価格はいくら位を想定していますか? と尋ねると、「Aセグメントのなので、スイフトスポーツよりお求めやすい価格でご提供しないと、なかなか商品的には苦しいかなと思います」とのお答え。つまり200万円以下ということになります。
プラグインハイブリッドで、そんな価格で出せますか?
「これだけ世の中に素晴らしい商品が増えていると、スズキとしてはそのくらいの価格帯で出さないと、という意思でやっています」
でも、もしこれがヨーロッパのブランドなら、きっと300万円台とか普通にしますよね。
「するかもしれませんね(笑)。でも(スズキとしては)それでは意味がない。今はクルマが高くなりすぎているのではないかと感じています。適正な価格で、それに見合ったバリューを提供していく。そうしないと(スズキは)生き残っていけないのではないかと」
このワクスポよりもカッコ良いクーペや荷物が載るワゴンは、世の中にたくさんあります。しかし、それらを両方とも所有できる家庭は、少なくともこの日本ではあまり多くないでしょう。しかもプラグインハイブリッドで200万円以下となれば、ワクワク感はさらに高まります。
今回お話を聞いて、それが単なるショー向けのお遊びではなく、スズキという会社の生き残りをかけた戦略に基づいて真面目に考えられたものであることも分かりました。エンジニアやデザイナーの気持ちが、購買者である私たちのもとに、双方にとって幸せな形で届けられることを期待したいものです。
「ワクスポ」と名付けられた写真のクルマは、ボディの後部がクーペからワゴンに変形するというコンセプト。名前の通り、ワクワクするスポーティなクルマを目指したのでしょうけれど、ぶっちゃけ外観だけがクーペに変わったところで、走りのスポーツ性が向上するとは思えません。むしろ変形ギミックを搭載することによって運動性能や動力性能が犠牲になるデメリットの方が大きいのではないか。だったら、最初からスポーティなワゴンというコンセプトで作れば良さそうなものを、なぜわざわざ「変形」させたかったのか? スズキの商品企画を担当されている高橋修司氏(工学博士)に訊いたところ、その理由は「家族みんなが共感できるクルマにしたかったから」とのこと。
しかもパワートレインはフロントのエンジンに加え、前後にモーターも搭載するプラグインハイブリッドの4輪駆動(を想定)なので、お母さんが街中で買い物や送迎に使うときにはほとんど電気のみで経済的に走行可能。そしてお父さんやお子さんが1人で運転を楽しむときには、エンジンとモーターの組み合わせによるパワフルな走りが味わえるのです。
車体のサイズは全長3,700mm × 全幅1,650mm × 全高1,430mm。軽自動車より少し大きいいわゆるAセグメントです。これは「程よいサイズで、自分自身の手で操る感覚が楽めることを重視した」とのこと。
デザイナーの方にお話をうかがったところ、プラットフォームは当然ながら、スズキの同セグメントのクルマ(例えばコンパクト・ワゴンの「ソリオ」あたり)と共有することを前提にしなければならないので、制約のあるディメンションの中で「どれだけクーペらしいロングノーズに見せられるか」ということに苦心したそうです。ボディがグリーンとシルバーで塗り分けられているのも、「前後に伸びやかなスタイルに見せるため」。スポーティながら落ち着いたカラーリングや、両サイドと同色のロールバー風Cピラーが、お父さんたちの青春時代に憧れたクーペを想起させることでしょう。
変形ギミックは、このCピラーの後方が電動で昇降。クーペ形態からワゴン形態に移ると後部座席の頭上空間が広がると共にシートが後方へスライドし、2+2シーターから4人乗りに変わります。ボディ後部を手動で取り外し式にすればもっと軽量化できるはず、とクルマ好きのお父さんなら考えるかもしれませんが、「お母さんにいちいち手で取り外させることはできないので、電動はマスト」とのこと。ごもっとも。
後部座席用の小さなドアは、巧妙に設計された上下2本のアームで支えられており、一度外側に開いてから後方にスライドする仕組みです。これも後部座席の乗降性と、一見2ドアクーペ風のスタイルを両立させたデザイナーのアイディアです。「スライドドアながらボディのレールを残さない」ための工夫で、「これは市販車になんとか活かせないかなと思っています」とのこと。ドアを支えるアームにはメッキが施され、"見せる演出"も考えられています。
ダッシュボードは、ワゴン形態時にはウッド調の落ち着いた雰囲気ですが、クーペになると車両の様々な情報を表示する、まさにコクピットへと早替わり。スポーツ・ドライブ心を掻き立てます。
スズキという会社が出すクルマとして「スポーツだけに特化するのではなく、実用性も割り切ってはいけないと考えています」と、高橋さんは言います。このまま市販化することはおそらく難しいであろうことは承知の上で、もし市販化するとしたら価格はいくら位を想定していますか? と尋ねると、「Aセグメントのなので、スイフトスポーツよりお求めやすい価格でご提供しないと、なかなか商品的には苦しいかなと思います」とのお答え。つまり200万円以下ということになります。
プラグインハイブリッドで、そんな価格で出せますか?
「これだけ世の中に素晴らしい商品が増えていると、スズキとしてはそのくらいの価格帯で出さないと、という意思でやっています」
でも、もしこれがヨーロッパのブランドなら、きっと300万円台とか普通にしますよね。
「するかもしれませんね(笑)。でも(スズキとしては)それでは意味がない。今はクルマが高くなりすぎているのではないかと感じています。適正な価格で、それに見合ったバリューを提供していく。そうしないと(スズキは)生き残っていけないのではないかと」
このワクスポよりもカッコ良いクーペや荷物が載るワゴンは、世の中にたくさんあります。しかし、それらを両方とも所有できる家庭は、少なくともこの日本ではあまり多くないでしょう。しかもプラグインハイブリッドで200万円以下となれば、ワクワク感はさらに高まります。
今回お話を聞いて、それが単なるショー向けのお遊びではなく、スズキという会社の生き残りをかけた戦略に基づいて真面目に考えられたものであることも分かりました。エンジニアやデザイナーの気持ちが、購買者である私たちのもとに、双方にとって幸せな形で届けられることを期待したいものです。