国内外の店舗数百店を閉鎖する方針を打ち出したオンワードホールディングス。写真は同社の主力ブランド「23区」の銀座店舗(記者撮影)

「23区」や「自由区」、「組曲」など百貨店向けブランドを多数展開するアパレルメーカー大手のオンワードホールディングス(以下、オンワード)が、事業構造改革の一環として、国内外の店舗数百店を閉鎖する方針を明らかにした。

「アパレル業界を取り巻く環境は大きく変化している。既存のリアル店舗を中心とした事業基盤については選択と集中を進め、デジタルシフトの流れに対応して成長していきたい」。10月4日と7日に都内で開催した決算説明会の場で、オンワードの保元道宣社長は構造改革の目的についてこう説明した。

2020年2月期は最終赤字に転落

今回の構造改革では、韓国事業から全面撤退するほか、「オープニングセレモニー」などのブランドを廃止する予定だ。継続するブランドにおいても不採算店舗の整理を加速させる。現在、国内外で展開する約3000店舗のうち、「約2割の600店を閉鎖」との一部報道もあったが、閉鎖店舗数について「目標数値はない」(保元社長)という。

一連の事業整理に伴い減損損失などが発生し、オンワードは今2020年2月期の上期(2019年3〜8月期)決算で252億円の特別損失を計上。これに伴い通期の業績見通しも下方修正し、約240億円の最終赤字(従来予想は55億円の黒字)に転落する見通しだ。同社の赤字決算は、リーマンショック直後に業績が急降下した2009年2月期以来となる。


オンワードが巨額赤字を計上してまで改革に踏み込む背景には、同社を取り巻く経営環境の厳しさがある。オンワードは過去最高益を記録した2000年代中頃までは200億円前後の営業利益を安定的に稼いでいたが、百貨店の集客力鈍化や海外事業の不振により近年の業績は低迷。ここ数年の営業利益は50億円前後から抜け出せず、100億円を目指した前2019年2月期までの中期経営計画も大幅な未達で終わっていた。

そうした中でも健闘していたのが、自社ECサイト「オンワード・クローゼット」を中心としたEC事業だ。2009年12月にオンワード・クローゼットを開設し、自社ブランド商品のネット販売を開始。経済産業省出身の保元社長の肝いり施策として進め、2019年2月期のEC売上高は255億円(前期比26%増)と、会社全体の約1割を稼ぐまでの存在になった。


店舗閉鎖などの構造改革の詳細を発表するオンワードの保元道宣社長(記者撮影)

今回の構造改革で実店舗の展開規模は縮小させ、この先は経営資源の大部分をECのさらなる拡大に振り向ける方針だ。

「23区」や「自由区」といったオンワードの基幹ブランドの店舗は、一部の路面店などを除き、大半を百貨店に集中させる。同社は今後、百貨店側と店舗撤退の交渉を行い、浮いた人員をデジタル分野に再配置するなどして、来期・再来期まで集中的に改革を進める構えだ。これまでEC施策は専門の事業本部で一元的に担っていたが、今年からは「23区」などブランドごとにEC担当の組織を設置し、ECでの販売も意識した商品企画を強化する。国内外のデジタル分野での有力企業との連携も検討しているという。

こういった強化策により、EC売上高を2021年度に500億円、将来的に1000億円規模へと一気に拡大する計画を掲げる。

百貨店以外に店舗を拡大できなかった

オンワードはデジタル化の推進にあたって「自社サイト中心主義」を常々掲げており、現在もEC売上高の約8割をオンワード・クローゼット経由が占める。多数のブランドが出店し、外部事業者が運営するECモールは顧客の詳細なデータを入手できないのに対し、自社サイトは顧客の購買動向をリアルタイムで蓄積・分析できる。

自社サイトの売り上げをさらに増やすことで、事業規模の拡大だけでなく、顧客の需要に合った商品企画や在庫管理の精度向上につなげる狙いは大きい。だが、もくろみ通りECを拡大し続けられるかどうかは、現時点では不透明だ。

今後の売り上げ増に向けては、百貨店で取り込みきれなかった20〜30代の若い顧客をいかに開拓できるかがカギを握る。これらの世代は中高年層と比べて「オンワード」の認知度もそこまで高くない。価格帯の垣根なく多数のブランドの商品を比較購買できるネット上で顧客をつかむためには、価格競争力や強力なブランドイメージが必要となる。

ただ、オンワードは「23区」をはじめとする主力ブランドの多くが百貨店に店舗を構えている。若い世代が頻繁に足を運ぶような駅ビルや商業施設内の店舗はごくわずかだ。商品を実際に手に取れないネット上だけで、若い層に向けてブランドイメージを浸透させるには限界もある。業界関係者は、「アパレルECは(商品を見たり試着したりできる)リアル店舗を構えていることが前提となる。オンワードの問題は、これまで百貨店以外にリアル店舗を広げられなかったことだ」と指摘する。

振り返ると、オンワードは百貨店の発展とともに業容を拡大してきた。同社は紳士服の量産体制を整えた1950年代にさらなる拡販をもくろみ、当時としては画期的な「委託販売」を思いつく。いったん商品を百貨店に買い取ってもらうが、売れ残った商品をオンワードが引き取る仕組みで、これが発展して現在の百貨店の主流である「消化仕入れ」につながった。

百貨店側に在庫リスクがないこの仕組みは、通常の買い取り販売に比べて、数多くの商品を百貨店の棚に並べてもらうことができる。高度経済成長期の大量販売時代に、この手法はオンワード、百貨店双方にプラスの効果をもたらした。

目立つ消化仕入れのデメリット

しかし、モノが売れなくなった昨今は、消化仕入れのデメリットが目立つようになってきた。百貨店側は、アパレルに仕入れと販売を任せたため、消費者の購買行動の変化に柔軟に対応できなくなった。百貨店の衣類販売が減少するとともに、アパレル各社も苦しい経営を強いられるようになった。

アパレル各社がEC強化を打ち出そうにも、「店舗売上げ至上主義」である百貨店の売り場では、ECサイトへの顧客誘導や、ECで注文して店頭で受け取るといった連携をとれないケースが多かった。

百貨店側の事情が壁となってデジタル化を進められないケースも相次ぐ。オンワードグループ傘下のオンワード樫山では昨年、全商品にRFID(ICタグ)を導入し、物流倉庫での入・出荷作業の効率化に向けた活用を始めた。だが、百貨店との調整が必要となり、店頭での在庫管理やレジ業務への展開は実現できていない。

百貨店との取引形態がデジタル戦略の足かせになるからとはいえ、百貨店以外のリアル店舗開拓には今さら感がある。また、オンワードの大半のブランドは、若い世代にとって高額な印象もあり、EC強化にあたって価格戦略をどう見直していくかも問われることになる。

「サプライチェーン全体のデジタル化により、お客様に支持される商品の開発を進める」。保元社長は決算説明会でこう語り、企画から販売までの各段階でデジタルの活用を急ぐ必要性を強調した。今回の構造改革でオンワードが再成長に向けて一歩を踏み出したことは間違いないが、百貨店の売り上げに依存してきた名門アパレルの先行きは、相当な苦労を伴うものになりそうだ。