代名詞の「二刀流」を封印し、プロ入り後、初めてバットだけで戦い抜いた大谷翔平のメジャー2年目は、思いがけない形で幕を閉じることになった。

「左膝の二分膝蓋骨(にぶんしつがいこつ)の手術。全治まで8〜12週間程度で、今季中の復帰は絶望」

 突然の発表に、アナハイムを訪れた日本人ファンも当惑した様子だった。手術の一報があった翌日の現地時間9月13日、エンゼルスタジアムを訪れたという2人組の女性は、「ツアーで東京から来て、ケガの一報は現地に到着してから知りました。活躍が生で見られないのは残念ですが、(大谷が)普段プレーしているスタジアムの雰囲気を楽しんで帰ります」とコメントした。

 9月10日のインディアンス戦に敗れ、2019シーズンのプレーオフ進出を逃したエンゼルス。大谷は試合に出場したその日の記者会見で、「もっと(シーズンの)早い段階で勝負にいって、(チームの)調子を上げていけたら、違う結果になったのかなと思います」と、淡々とした口調で語った。


手術前までは定期的に投球練習を行なっていた大谷

 そして休養日となった9月12日には、エンゼルスのビリー・エプラーGMがメディアの電話会見に応じ、大谷の状況について次のように述べた。

「翔平の左膝の二分膝蓋骨の症状は先天的なものだ。少しずつ症状が表れ、シーズン中に徐々に痛みが悪化していった。投球の速度を上げていくにあたり症状が出たので大事を取った形。9月2日に手術を勧め、実際に翔平が手術を受ける決断をしたのは、11日に行なわれたインディアンス戦の試合前のことだった」

 大谷が今回手術した「二分膝蓋骨」とは、本来ひとつのはずの膝蓋骨が、ふたつに分裂した状態にあることで、幼少期に多く見られる症状だという。

 過去には、2003年のバロンドールにも輝いた元チェコ代表のサッカー選手、パベル・ネドベドが、膝蓋骨が3つに分かれていることを明かしたことも。痛みさえ出なければ、プレー自体に影響はないとのことだ。

 この「二分膝蓋骨」について、かつて國學院大學の野球部でプレーし、現在は都内の接骨院(太子堂やまがた接骨院)でプロ野球選手の個人トレーナーも務める、柔道整復師の山縣竜治総院長はこう語る。

「大谷投手のような右投げの選手は、投球モーションからボールをリリースする際に、前方に大きな力がかかる体を左足で強く後ろに引く動作が入ります。この動きは主に裏ももで行ないますが、同時に反対側にある前ももが、筋肉にブレーキをかける役割を果たしています。前ももの筋肉は膝蓋骨についていますので、それが上方向に引っ張られることで膝に負担がかかったのではないでしょうか。

 とくに大谷選手のように速い球を投げる人ほど強い力がかかる場所なので、痛みが出たのかもしれませんね。(今後のプレーに与える影響については)体の使い方に気をつければ、投球自体には問題がないと思います。ただ、速球を投げることで膝に強く負担がかかるようであれば、将来的には、投球スタイルを変える必要が出てくるかもしれません」

 シーズン中の欠場が決まり、手術が無事に成功した今、最大の注目は来シーズンの「二刀流」復活だ。大谷は6月26日に投球練習を再開し、およそ週2回ペースで、これまで14回にわたって行なってきた。

 大谷が手術前に最後の投球練習を行なったのは9月1日。本拠地エンゼルススタジアムでのレッドソックスとの試合前のことで、この日は捕手を座らせての29球を含め、合計40球を投げ込んだ。

 以後、9月9日のインディアンス戦の試合前にも、レフトスタンド付近でおよそ70メートル間のキャッチボールを行ない、順調な回復ぶりを見せていた。それだけに、今回の手術については驚きの声が多い。

 今回の左膝手術で、「二刀流」復活への道は”一時休止”となった。だが、現役時代はキャッチャーとして活躍し、ゴールドグラブ賞を3回受賞したブラッド・オースマス監督の頭脳には、「投手」大谷翔平の復活に向けた緻密なシナリオがあるものと思われる。

 大谷が手術を決断する前日の取材で、オースマス監督は「打者をバッターボックスに立たせた練習はこれから。今後は、投球とイニング間の休憩を交えながら、より実践を想定した練習をしていく」と語っていた。

 加えてビリー・エプラーGMも、電話会見で投手と打者、それぞれの復帰プランについてこう明かした。

 まず打撃については、「(翔平は)今は患部を固定した状態。2〜3週間後に検査を受けて、問題がなければリハビリを開始する予定だ。全治8〜12週間の期間を過ぎれば、間もなくバットを振れるようになると思う。トミー・ジョン手術のリハビリを終えることが優先になるだろうが、12月、もしくは来年1月あたりで打撃ができるようになると考えている」と言及。

 続いて投手については、「手術が成功すれば、2〜3週間くらいで投球プログラムを再開できる。だいたい10週間前後を目処にして、ブルペンに復帰させることを想定しており、12月の初旬には、投球プログラムを終えたいと思っている。順調に進めば、春にキャンプインすることになるだろう。ただ、プログラム終了のタイミングで、あらためて見通しを示し、2020年シーズンに向けた準備について考えていく予定だ」とコメントした。

 今シーズンは、9月16日時点で防御率5.08と、投手陣のやりくりに苦しんだエンゼルス。来シーズンのチーム躍進のカギにもなりそうな、大谷の「二刀流」。復活への動向から目が離せない。