筋トレの「研究論文派VS自己流派」はどちらが正しい?

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連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』24限目」

「THE ANSWER」の連載「骨格筋評論家・バズーカ岡田の『最強の筋肉ゼミ』」。現役ボディビルダーであり、「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍する岡田隆氏(日体大准教授)が日本の男女の“ボディメイクの悩み”に熱くお応えする。24限目のお題は「筋トレの研究論文と自己流」について。

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 Q.効率良くトレーニングを進めたいので、トレーニングに役立ちそうな論文は結構チェックしています。一方、いろんな説があるのでどれを信じればいいのか時々迷います。バズーカさんのオススメを教えてください!

 Twitterでは筋トレ系のアカウントが結構流れてきますが、彼らの間で定期的に起こるバトルがあります。多いものでいうと「サプリメントをかなりマニアックに飲む派VS飲まない派」「重量にこだわってガツンと挙げる派VS丁寧なフォームでピンポイントに効かせる派」「トレーニングは短時間派VS長時間頑張る派」「オフはデブっても関係なく好きなものを何でも食べる派VSクリーンな食事を継続する派」など。これらのバトルは一時収束してはまた起こるの繰り返しで、勃発するたび、「また定期便がきたな?」と思いながらみています。

 そして「研究論文に書かれたトレーニングでこそ結果が出る派VSいやいやいや体は一人一人違うから俺は俺のやり方で派」も定期的に勃発するバトルの一つ。研究論文をものすごく語ってくるトレーニング愛好家や指導者と、論文などまったく関係ないという者の間で、熱いせめぎ合いが展開されています。

 これに関して、私自身の考え方は「両方の考えを持たなければならない」派です。

岡田氏が考える「論文の良いところ」とは

 まず、論文の良いところは、トレーニーの不安を解消してくれる点です。皆、結果が出るか出ないかわからないトレーニングに取り組むのは、やはり不安ですし、結果がみえない時期ともなると、かなりツライです。ですから、答えをどこかに求めたいし、信じるものがほしい。その点、研究論文は一つの答えを出してくれるので、不安を確証や確信に変えてくれる。だから論文に示される結果に救われる人もいるし、拠り所にして頑張れる人もいます。心から頑張ろうと思えるということは、その人が持っている真の力を発揮する準備が整うことと言えるので、とても大切です。

 一方、いくら論文で効率が良いとされても、現実的に守れない方法であればそこまでとらわれる必要はない、というのも私の考えです。研究論文のもとになる実験というのは、その研究の目的を達成できるようにデザインされた条件で行われるものです。これは、実生活の条件に合わないことも多々あります。また実験に参加した被験者は、あなたとは違う性質の人かもしれないし、究極のことを言ってしまえば同じ遺伝子ではありません。

 要は、あなたには当てはまらない可能性がある、ということです。

 一般的に多くの社会人は8時〜18時頃までは通勤中・仕事中だと思いますが、「18時までは仕事でトレーニングできないので、筋トレの時間を20時に設定しました」なんて論文はほぼないでしょう。だいたいの論文が、日中に筋トレをさせた実験から導いた結果なので、そもそもリアルな生活に当てはまっていません。

 論文と同じ結果を求めるのであれば、その実験条件を厳密に再現する必要があります。しかし、食事の時間に内容、通勤時間、仕事中の活動量などは一人ひとり異なります。自分自身の生活を振り返っても、睡眠時間が変わったり、出張が入ったりと、毎日、まったく同じ生活が繰り返されているわけでもありません。仕事や環境が変わることだってあるでしょう。このように、実社会での実態は異なるのに、作り出されたある実験条件から得られた結論で、筋トレの最大効率を語ることはできません。あくまで、示唆を得る、考える元になる情報を得る、ということとして扱うのが良いでしょう。

 また、論文は概ね平均値から語られる結果ですので、実験に参加した個人個人の結果をみれば、それぞれ違いもあります。人間ですから、まったく同じ結果が出ないのは、当たり前ですよね。それまで積み重ねてきたトレーニング経験も全く違う。もっと言ってしまえば、そもそも遺伝子が違うのですから。

岡田氏のオススメは「柔軟に対応すること」

「効率」という言葉に縛られて結論を一つに求めようとしすぎると、トレーニングの効果は頭打ちになると私は思います。論文に執着するあまり、論文から外れたトレーニングや行動をした時に、不安になってしまっては元も子もないですよね。それに、一つの論文が数年後に、「あれ、違っていたよね」という展開になるのもよくある話。「あれは一体何だったんだ……」というパターン、たまにあります(笑)。ですが、そのように試行錯誤して人類は新しい知識を増やしているのです。

 ということで、私のオススメは、一つの方法や結論にこだわりすぎず「柔軟に対応すること」です。論文にこだわってもこだわらなくても、結果は出すには、心から信じて頑張って継続することが大切です。不安にならずに、今「これだ!」と感じるものを、続けてください。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。

岡田 隆
1980年、愛知県生まれ。日体大准教授、柔道全日本男子チーム体力強化部門長、理学療法士。16年リオデジャネイロ五輪では、柔道7階級のメダル制覇に貢献。大学で教鞭を執りつつ、骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でテレビ、雑誌などメディアでも活躍。トレーニング科学からボディメーク、健康、ダイエットなど幅広いテーマで情報を発信する。また、現役ボディビルダーでもあり、2016年に日本社会人ボディビル選手権大会で優勝。「つけたいところに最速で筋肉をつける技術」「HIIT 体脂肪が落ちる最強トレーニング」(ともにサンマーク出版)他、著書多数。「バズーカ岡田」公式サイトでメディア情報他、日々の活動を掲載している。