アップル子会社のクラリスが“復活”して狙う「新たな市場」
アップルは1987年、当時販売していたペイントソフト「MacPaint」やオフィスソフト「AppleWorks」の取り扱いを、クラリスという名の子会社に移管した。ところが、クラリスのソフトの大半は98年にアップルのもとに戻されるか、販売終了となってしまった。こうしてクラリスは、同社が88年に買収した主力製品のデータベースソフト「FileMaker」の名をとって、ファイルメーカーと社名を変更したのである。
そのクラリスが帰ってきた。アップル子会社であるファイルメーカーが8月6日(米国時間)、社名をClaris International(クラリス インターナショナル)に変更したと発表したのだ。これは主力製品の「FileMaker Pro」を中心とした事業から多角化していくのが狙いだという。
社名変更と同時にクラリスは、イタリアのスタートアップであるStamplayを買収したと発表した。Stamplayは、DropboxやSlackといったサーヴィスをまたいで、コードを書くことなくワークフローを自動化できるプラットフォームを開発する企業だ。例えば、Salesforceに新たな見込み顧客が追加されたら、営業担当者たちにSlackで自動通知すると同時に、見込み顧客のメールアドレスをメーリングリストに追加したりする──といった具合だ。
受け継がれてきた伝統に忠実に
これに伴い、Stamplayの最高経営責任者(CEO)だったジュリアーノ・イアコベリはローマからシリコンヴァレーに移り、事業開発を引き続き統括する。製品名は「Claris Connect」と変更になる。なお、FileMaker Proの製品名は「Claris FileMaker Pro」として開発・提供が続けられるという。
「クラリスは数多くあった新社名の選択肢のひとつに挙げられていましたが、あえて昔の名前に戻すことにしました」と、3月に同社CEOに就任したブラッド・フライターグは言う。「わたしたちは自社の歴史と受け継がれてきた伝統に忠実でありたいのです」
FileMaker ProとConnectは、どちらもコードを書くことなくプログラミングの基本的なタスクを実行できる点で、技術に詳しくないユーザーに恩恵をもたらす。FileMaker Proは「Microsoft Access」や「Airtable」のような最新のツールのように、データベースのアプリケーションをつくる際にグラフィカルユーザインターフェース(GUI)を用いている。
「多くの企業は、自動化すべき数十もしくは数百ものタスクを抱えています。しかし、そのために必要な人材は限られているのです」と、フライターグは指摘する。要するに、FileMaker ProやConnectのようなツールを導入することで、企業は開発者に依頼することなしにプログラムが必要なプロジェクトを実行できるようになる。「わたしたちのヴィジョンは常に、パワフルなテクノロジーを誰もが利用できるようにすることでした」と、彼は言う。
AI、AR、そしてIoTへ
FileMakerの存在は、アップルのiPhoneやApple Watchといった目新しいガジェットの陰に埋もれがちである。しかし、このデータベースソリューションには多くの熱心なユーザーがいる。フライターグによると、クラリスの顧客は50,000ユーザーに達するのだという。
これはオラクルの43万ユーザーに比べるとずっと少ないが、クラリスは小規模な市場に焦点を当てている。それはウェブアプリケーションの開発だ。
クラリスはConnectをFileMakerの顧客に売り込もうと考えているが、当面はFileMaker Proとは別の製品として販売されることになる。つまり現在のStamplayのユーザーは、Claris Connectを利用するためにFileMaker Proのライセンスを購入する必要はない。
フライターグは今後数カ月で、クラリスから新しいツールを提供できるようにしたいと考えているという。例えば、人工知能(AI)や拡張現実(AR)、モノのインターネット(IoT)といった分野だ。