「 OTT と VOD の進化こそ、テレビ局の取るべき道だ」:独・大手放送局は、なぜOTTアプリをローンチしたか?
ドイツの大手テレビ局、プロジーベンザット1(ProSiebenSat.1)は、本格的にインターネットコンテンツ配信(over-the-top:以下、OTT)事業に乗り出した。「ジャーマニーズ・ネクスト・トップ・モデル(Germany's Next Top Model)」や「レイト・ナイト・ベルリン(Late Night Berlin)」などの看板番組をもつ同社は、これまで従来型放送とビデオオンデマンド(以下、VOD)の両方で広告収入に頼ってきた。それがいま、従来型放送の広告収入低下を補うため、またドイツ国内におけるNetflix(ネットフリックス)やAmazonプライム(Prime)との競争の激化を背景に、ディスカバリー(Discovery)と提携し、OTT事業に力を入れはじめた。狙いは、広告収入とサブスクリプション収入の増加だ。
ドイツの消費者心理に変化
発足間もない現在は広告収入型だが、今年11月にはサブスクリプションサービスが追加される予定で、内容は一部のオリジナルコンテンツと、ドイツのプロサッカーリーグであるブンデスリーガの試合中継などのスポーツコンテンツになる。ジョインのアプリのラインナップには、55のテレビチャンネルに加えて、2つのオリジナルシリーズが並んでいる。「シングル・ダイアリーズ(Single Diaries)」と「テクニカリー・シングル(Technically Single)」は、いずれも1話が5〜7分の短編だ。プロジーベンザット1とディスカバリーの2社は、いずれも自社インベントリー(在庫)からの広告収入を維持している。
プロジーベンザット1はアプリダウンロードの具体数を公表していないが、エージェンシー関係者によれば、最初の1週間で100万ダウンロードを達成したという。
これまでドイツの消費者は、ほかの市場に比べ、有料テレビサービスを受け入れるのが遅れていた。無料のテレビ放送網と、2つの公共放送サービスが強く、スカイ・ドイツ(Sky Deutschland)が唯一の有料放送事業者だった。エージェンシーの見方では、スカイの成功は主にスポーツ放映権のおかげだ。しかしここ数年、消費者心理に変化が生じている。その主要因は、NetflixとAmazonプライムの低価格設定だ。
ドイツでは、NetflixとAmazonプライムがサブスクリプション市場を席巻しつつある。エンダース・アナリシス(Enders Analysis)によれば、Netflixの会員数は推定500万人、Amazonプライムは推定1000万人。欧州のテレビネットワークは、増大する脅威に対抗すべく、ジョイントベンチャーや競合プロダクト開発に乗り出しており、とりわけOTTに注目している。プロジーベンザット1も例外ではない。
Facebookとの提携に期待
「Netflixや類似のサービスが、ドイツでの有料放送市場をこじ開けた」と、プロジーベンザット1のエンターテイメント部門で最高デジタル責任者を務める、パク・ユンキョン氏はいう。「従来のテレビ広告は横ばいだが、脅威にさらされている。成長を維持するためには、(サブスクリプションへの)多様化とパートナーシップの形成が不可欠だ。我々はこれ(ジョイン)のプロモーションに全力を注いでいる」。
パク氏がもっとも関心を寄せるのは新規のパートナーシップであり、それが成長を維持する要になると同氏は考えている。そのため、プロジーベンザット1はFacebookと独占契約を結び、Facebookの動画プラットフォームWatchでオリジナルコンテンツを配信することに合意した。FacebookがWatchに関してほかのメディアパートナーと提携する際の通例に従い、コンテンツ制作費はFacebookが負担する。プロジーベンザット1のデジタルチーム約50人がWatchコンテンツの制作に携わる予定だ。将来的には、独自の広告サーバーをFacebookに組み込み、全世界でプログラマティックによる収益化を実現したいと、パク氏はいう。
多くの放送事業者と同様、プロジーベンザット1も、自社のテレビ番組を宣伝するのに最適なプラットフォームはFacebookだと考えている。そのため、広告を通じてオリジナルコンテンツをマネタイズしつつ、ジョインを含めたほかのチャンネルの視聴者増加にもFacebookを利用できると期待している。「長編コンテンツはジョインで配信し、短編コンテンツはFacebookで配信することで、ジョインにもほかのチャンネルにも視聴者を引き込めるはずだ」と、パク氏は語る。
エージェンシーは懐疑的
放送事業者とパブリッシャーの提携は、これまで常に最初の目論見を達成するのに苦戦し、米国の大手テックプラットフォームを抑え込むというミッションを実現できていない。そのため、メディアエージェンシーはいまのところ、ジョインをめぐる連携が長続きするかどうかに懐疑的だ。
広告主を呼び込むため、このOTTサービスは、テレビの見逃し配信が主体の現在のラインナップに、オリジナルコンテンツをもっと増やす必要がある。そう指摘するのは、ピュブリシスメディア(Publicis Media)のドイツ支部でテレビディレクターを務める、ロバート・ブエンジ氏だ。加えて、プロジーベンザット1のような企業は、米国のテックプラットフォームが提供するサービスと、自社のOTT・VODサービスを差別化しなければならない。価格面だけでなく、独自コンテンツやデータでも競合できなくてはならないのだ。
「(ジョインが)長期的にAmazonプライムやNetflixと張り合えるくらい成功できるかは疑わしい」と、ブエンジ氏はいう。「しかし、50以上のチャンネルを有し、従来のテレビが好きな人にとっては魅力的なプロダクトだ。ユーザー視点でみると、非常に使いやすく、かなり力を入れたプロダクトなのだとわかる」。
勝機がないわけではない
ジョインがもし、見逃し配信に加えてオリジナルコンテンツを多数追加し、加えて視聴者の行動や番組の人気に関してデータを共有するなら、ドイツのすべてのメディアエージェンシーにとってパートナーになるだろうと、ブエンジ氏は付け加えた。
「NetflixやAmazonはこうしたデータを共有しない。(ジョインが)もしこうしたデータを共有するなら、もちろん我々にとっての魅力は大いに増す」。
とはいえ、選択肢が増えるのはエージェンシーにとっては歓迎だ。「GoogleやYouTube、AmazonやNetflixといった米国のテック大企業によって、ドイツ国内の従来メディア企業は苦境に立たされており、彼らは存続をかけた競争を迫られている。OTTとVODの進化こそ、彼らの取るべき道だ」と、ブエンジ氏は述べた。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)
