子供ができる"危険日"をめぐるデマと真実
※本稿は、吉川雄司著・月花瑶子監修『やさしく正しい 妊活大事典』(プレジデント社)を再編集したものです。
■一回の「子作り」で成功する本当の確率
【きょうこ先生】今日はせいじさんに「妊活」についての知識をお伝えしていきますね。
【せいじ】はい、よろしくお願いします!
【きょうこ先生】ではさっそく質問ですが、せいじさんカップルが「子作り」のための性交をして一回で妊娠する確率って知っていますか?
【せいじ】どれくらいなんだろ? でもやっぱり80%ぐらいはありますか?
【きょうこ先生】うーん、そこまで高ければ、妊活で悩む夫婦はもっと減るでしょうねぇ。ちなみに、いつ性交すると妊娠しやすいかってことも知っていますか?
【せいじ】「危険日」ってやつですかね? わ、わからないです……。
【きょうこ先生】ふむふむ……やはり、精子と卵子の基礎知識から学んだ方が良さそうですね!
【せいじ】すいません。
【きょうこ先生】「学校の性教育」は完全に“サブコンテンツ”化してしまっていて、誰もちゃんとした「妊活に必要な知識」は覚えていないものです。そこで、まずはクイズからはじめましょう。
【せいじ】よろしくお願いします。
■卵子は年齢とともに古くなっていく
【きょうこ先生】今から精子や卵子、そして妊娠に関する知識をクイズ形式で出題します。学校で習った内容も出てくるので、思い出しながら考えてみてください。では、まずは第一問です!
A:毎日新たな卵子が作られている
B:生まれつき体内にある卵子の数は決まっている
【せいじ】うーむ……そりゃ新たに作られ続けていて、作られなくなったら閉経……みたいな感じでしょうか……?
【きょうこ先生】うーん、そう思いがちですが、実は正解は【B】なんです。実は女性のカラダは卵子(正確には原始卵胞)を新たに作ることはありません。生まれてから、ずっと体内の卵子は減少し続けます。
【せいじ】え、そうなんですか。知らなかった……! よく「出産は若い方がいい」って聞きますけど、あれって体力的な問題かと思っていました。「卵子が無くなる」ってこともあるんですね。
【きょうこ先生】そうですね。あとは「卵子の老化」です。女性はお母さんのおなかのなかにいるときから卵子を保有しているので、自分が20歳の時の卵子は「20歳」ですし、30歳の時の卵子は「30歳」なわけで、年齢に伴い卵子の老化も進むので、「妊娠のしやすさ」に影響があります。
女性が初経を迎える頃に体内に保有している卵子の数は約30万個とされています。その後、若い女性であれば1日に約20〜30個ずつの卵子を失っていき、残り1000個になったあたりで閉経を迎えます。毎日作られる男性の精子とは異なり、女性の卵子の数には限りがあります。「妊娠できるタイムリミットがある」ということは覚えておきましょう。ちなみに、保有している卵子の数は個人によって大きなばらつきがあり、若くても「残りの卵子数が少ない」というケースもあります。
■精子はいつまで生き残れるのか
【きょうこ先生】では、次の問題にいきましょう! 次も卵子に関係する問題です。卵子が「排卵」されたあとのお話です。
A:24時間(約1日)
B:72時間(約3日)
【せいじ】えーっと、何かで危険日は3日間ぐらいあるみたいなのを聞いた気が。これは正解できる気がしますよ。正解は【B】です!
【きょうこ先生】ブブーーーーッ! 正解は【A】なんです。排卵後に受精できる期間は、実はたった24時間しかないんです。
次の問題はこちら! 次は精子に関する問題です。ご自身のカラダに関することですが、答えられるでしょうか……。
A:1時間
B:12〜24時間(約1日)
C:72〜120時間(約3〜5日)
【せいじ】なんとなく「すぐ死んでしまう」というイメージなので、【A】でしょうか?
【きょうこ先生】実は……正解は【C】なんです。なぜか「すぐ死ぬ」と思っている方が多いですが、実はそんなことはありません。
■子どもができない原因の約半分は男性側にある
以下、解説です。少し触れている「精子の健康状態」もとても重要なことです。精子は腟内での射精後、3〜5日間は生き残れるとされています。健康な精子を持つ男性の場合、射精時の精子の数は約1億個と考えられています。
しかし、そこから腟 → 子宮内 → 卵管と移動する中で脱落し、最終的に卵子まで到達する精子の数は100〜1000個程度とされています。
ちなみに、想像以上に多くの男性が「精子の健康状態」で悩んでいます。精子の健康状態は次のような項目で判断されます。
「精液量」「濃度」「総精子数」「運動率」「正常形態率」などです。
【せいじ】「精液量」とか「濃度」は想像がつくのですが「運動率」や「正常形態率」なんて項目もあるんですね! 知らなかった……。
【きょうこ先生】実はあまり知られてないんですけど、なかなか子どもができない夫婦がいたときに、男性側の精子の健康状態が良くないことが原因であることは少なくありません。不妊症夫婦のうち48%は男性側に原因があるんです
WHO(世界保健機関)の1996年の調査では、男性のみが24%、女性のみが41%、男女ともが24%、原因不明11%と報告されています。つまり男性不妊48%、女性不妊65%となります。24%の夫婦は両者に不妊原因があるため、二人とも治療を受ける必要があるということです。
■排卵日2日前がもっとも妊娠しやすい
【きょうこ先生】では最後の問題です! 卵子と精子について解説してきましたが、最後は「妊娠」に関する問題です。
A:排卵日当日
B:排卵日翌日
C:排卵日前日
D:排卵日の2日前
【せいじ】確か卵子が受精できる期間は24時間とのことだったんで、やはり当日じゃないんですか? なので、【A】だと思います!
【きょうこ先生】実は……正解は【D】なんですよ。精子は3〜5日間は生き残れるので、実は排卵される卵子を待ち伏せする方が良いんです。
【せいじ】そうだったんですね……あっ! 僕の頭にあった「危険日は3日間」ってこれか! つまり、排卵日2日前から当日までの3日間が「妊娠しやすい」ってことですか?
【きょうこ先生】うーん、おしい! 実は確率でいうと「排卵3日前〜前日」が妊娠の確率が高い3日間と言われています。図表1で、生理がはじまってから排卵日までの「妊活の流れ」をまとめています。
【きょうこ先生】妊活の流れはだいたいこんな感じです! どうですか? 実は、こんな感じで「妊活」って進むんですよ。図の中にある「基礎体温」や「排卵検査薬」などの解説は後のパートで説明していきますね。
【せいじ】わかりました。この図は家のトイレのドアにでも貼っておきます。
【きょうこ先生】それはいいアイデアですね! 夫婦二人で取り組むことがとても大切だと思います。
■“勝負の日”まで我慢することの功罪
【せいじ】ひとつ気になったんですけど、質問してもいいですか?
【きょうこ先生】どうぞどうぞ。
【せいじ】さっきの図には「禁欲しない! 週に2〜3回は出しておく!」って書いてましたけど、なんだかため込んだほうが「渾身の一発」が発射される気がしているのですが違うんですか?
【きょうこ先生】渾身の一発!? 確かにそう思ってる方は多いですよね〜。結論から言うと、ため込むことは精子の健康にとってはよくないです。
【せいじ】えーそうなんですか! どうしてですか?
【きょうこ先生】みかんの入った段ボール箱のようなもんですかね〜。
【せいじ】す、すいません……解説をお願いします。
【きょうこ先生】「禁欲がなぜ精子にとって良くないか」を説明するには、少し難しい単語を使って説明することになるんですけど、その前に「みかんの入った段ボール箱」、いわゆる「みかん箱」を例にお話ししますね!
【せいじ】はい。よろしくお願いします。
【きょうこ先生】「みかん箱」って、下の方のみかんが腐りはじめたら、どんどん周りのみかんもダメになっていくのを見たことあります?
【せいじ】はい、おばあちゃん家にいつもありました。
【きょうこ先生】キンタマが「段ボール箱」で、精子が「みかん」だと思ってください。
【せいじ】なるほど……先生が言いたいことが何となくわかりました!!
【きょうこ先生】それは良かったです。詳しく説明すると、精巣内にある古い精子からは「活性酸素」というものが産生されます。それによって精子や精子を作る細胞がダメージを受け、結果として精子を作る力が低下していくんですね。また、精子の先っちょについているDNAが断片化(二重らせん構造が引きちぎれること)し、精子の質の低下をもたらしてしまいます。
【せいじ】なるほど……とりあえず……「みかん箱」で覚えます! 無理に我慢しなくていいということですね!
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ヘルスアンドライツ 社長
妊活や不妊治療に取り組む夫婦をサポートする事業を展開。クラウドファンディング「妊活大事典プロジェクト」発起人。twitterアカウント:@UG_0117 ブログ:https://ameblo.jp/yy-0117/
月花 瑶子(げっか・ようこ)
産婦人科専門医
東京・新宿にある不妊治療専門クリニック杉山産婦人科に勤務。ヘルスケア企業にて医療監修のチーフアドバイザーを務め、講演なども行っている。
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(ヘルスアンドライツ 社長 吉川 雄司、日本産科婦人科学会産婦人科専門医 月花 瑶子)