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「日本はプレーの細部にわたる集中と注意に関し、再確認をするべきだろう。ただ喜ぶだけでも、残念がるだけでも、こうした試合(勝っても負けても次のラウンドに進めるウズベキスタン戦のような試合)は意味がない。後々の憂いがないように万全の準備をすることだ」

 スペイン人指導者、ミケル・エチャリ(72)は、ウズベキスタンに2-1で勝利してアジアカップのグループリーグを首位で通過した森保ジャパンに対し、そんなメッセージを送っている。

 エチャリは、バスク代表(FIFA非公認)監督を務めており、昨年は、その名采配によってベネズエラ代表を完膚無きまでに叩いている。戦術的なディテールに優れ、「ミスター・パーフェクト」の異名を取る。数年前には、当時最強を誇ったバルセロナのメンバーが主力のカタルーニャ代表を破った。その試合でのプレッシング戦術は関係者の間で研究され、他のクラブのバルサ対策に用いられるようになったほどだ。


ウズベキスタン戦で相手に脅威を与えていた伊東純也

 そのエチャリは、日本対ウズベキスタン戦について戦術的ディテールの指摘をしている。

「日本は4-2-3-1のシステムを基調に、第1戦、第2戦で出場機会の少なかった選手を中心にメンバーを組んでいる。すでに決勝トーナメントへの進出を決定。チーム内の競争力を高めながら、グループ首位を争う試合だった。

 一方のウズベキスタンは、得失点差により、日本に引き分ければ首位通過となる。4-1-4-1で、守りを固めながらカウンターを狙う、という意志を強く示している。1トップのエルドル・ショムロドフがサイドに流れ、カウンターを発動。率いるエクトル・クーペル監督のサッカーは『(攻守の)バランス』『(ブロックを作って守る)リトリート』『カウンター』の3語で説明され、それを最大限に生かし、成功を収めてきたのだ。

 日本はパスを用い、コンビネーションを使って攻める。彼ららしい戦いだった。ボランチの青山敏弘(サンフレッチェ広島)が配球役として質の高さを見せ、伊東純也(ゲンク)、室屋成(FC東京)の右サイドは脅威を与えていた。

 もっとも、プレーのテンポは全体的にやや遅い。リトリートし、ブロックを作って守るウズベキスタンを崩し切れず、ラストプレーの精度も低かった。空中戦でも、アンカーに入ったオタベク・シュクロフには分が悪かった。

 ただ、日本は試合を支配していた。それだけに、一瞬の隙が生まれてしまったのが悔やまれる」

 前半40分の日本の失点に関して、エチャリは独自の見解を見せている。

「左サイドで与えたスローイン。一番近くにいた乾貴士(アラベス)は、スローワーに気をとられすぎている。スローインに対し、一番近くにいる選手は、常に投げる選手と自分の背後を確認していなければならない。背後を取られる、というのは味方にとって非常に危険なプレーになるからだ。

 実際、乾が背後を簡単に取られたことで、左サイドバックの佐々木翔(サンフレッチェ広島)が慌てて飛び出してしまう。それによって、さらにその背後にスペースが生まれ、絶好のパスが出されることになった。そこからはショムロドフの独壇場だった。並走していた槙野智章(浦和レッズ)はスピードで置き去りにされ、なす術がなかった。

 厳しいことを言っているかもしれない。しかし、トップレベルでは、こうした細部がしばしば勝負を決める。ロシアワールドカップのベルギー戦における最後のCKの選択がそうだったように、だ。日本はショートコーナーの対応でも、前半、後手に回って混乱する場面があった」

 エチャリはあえてそう苦言を呈している。それは日本の力に敬意を表しているからでもあるだろう。

 その直後の前半43分、日本は武藤嘉紀(ニューカッスル)が同点弾をヘディングで決めた。

「失点後、日本はすぐに反撃している。右サイドの室屋が1対1の攻防を制し、クロスを折り返し、武藤がヘディングで合わせた。日本はその後も、右サイドからの攻撃を中心にイニシアチブを握った。そして後半13分にも、室屋のクロスが跳ね返されたあと、塩谷司(アルアイン)がエリア外から左足で強烈な一撃を叩き込んだ。

 日本はその後も優勢だった。質の高さを示したと言えるだろう。たとえば、前線に入った北川航也(清水エスパルス)の動きの質はとても高かった。反転からのシュートなど、そのセンスのよさを見せている。

 しかし、チームとして気になるディテールはあった。後半30分を過ぎて、乾は2度続けて、相手を背負ったプレーから自陣で不用意にボールを失い、カウンターを浴びている。事なきを得たが、猛省が必要だろう。
 
 これは乾個人に対してだけの”ダメ出し”ではない。彼は際どいシュートを打ち、惜しいCKも蹴っている。個人としてはそこまで悪いプレーではなかった。ただ、ディテールが勝負を決めることがある、ということだ」

 エチャリはひとりのプロフェッショナルとして、厳しい指摘を与えている。そしてグループリーグ最後の試合をこう総括した。

「勝利した事実はすばらしい。ただし、こうした試合は、そこで得た教訓を大事にすべきだろう。決勝ラウンドを戦い抜くための糧にすべきだ」
(つづく)