ホンダの元祖HV「インサイト」なぜいま復活?
ホンダはハイブリッドセダン「インサイト」の新型を2018年中に国内向けに発売する(撮影:尾形文繁)
ホンダのハイブリッド車(HV)「インサイト」が4年ぶりに復活する。
1999年にホンダ初のHVとして登場したインサイト。ガソリン1リットルあたり35km(10・15モード)をうたい、トヨタ自動車の「プリウス」と共にHV市場を開拓した2ドアのエコカーだった。2009年発売の2代目は、5ドアで200万円を切る価格に挑戦したが、プリウスの圧倒的な販売台数と戦えず、2014年に販売・生産を終えた。4年のブランクを経て、2018年中に3代目インサイトが国内向けに発売される。
インサイトの「2代目」は販売が伸び悩み、2014年に販売・生産を終えた(写真:ホンダ)
今回の3代目は、かつてプリウスと比較されがちだったリアフォルムをすっぱりやめ、近年のホンダのセダンらしいデザインとなった。ほかのセダン「アコード」などと同様、バッテリーを後部座席の下に納め、トランクのスペースを広く取ったという。インテリアも上質さを重視し、従来のインサイトのイメージからの脱却を狙っている。
目玉は2モーターハイブリッドシステム
下からLX、EX、EX・BLACK STYLEの3グレードが用意されており、いずれにも自動ブレーキなどの安全運転支援システム「ホンダセンシング」が標準装備されている。現時点で国内向けの価格と燃費は非公表だ。
目玉は、ホンダが近年、注力している2モーターハイブリッドシステム「スポーツハイブリッドi-MMD」だ。現在、販売されている「クラリティPHEV」「アコード」「CR-V」にも搭載されており、次期型の「ヴェゼル」にも採用が予想される。
1.5L DOHC i-VTECエンジンと発電用と走行用の2つのモーターを駆使することで、3つのモードをシームレスに使い分ける。高速道路など車速が早い場合はエンジンだけで駆動するモード、発進時や街中の走行でバッテリーのみで駆動するモード、加速時やワインディングの道路では、エンジンとバッテリーを組み合わせて駆動するモードに自動的に切り替わる。
走り心地と加速感を向上させ、燃費性能との両立を実現した。インサイトの燃費はガソリン1リットル当たり23.4km(アメリカで販売されているタイプの燃費、市街地モード)と、2011年にマイナーチェンジした2代目の同17.4kmよりも30%程度の改善が見られる。
昨年、日本に復活した「シビック」。セダンに加え、ハッチバックもラインナップされている(撮影:梅谷秀司)
しかし、なぜこのタイミングでの登場なのだろうか。「インサイト=洞察という意味を持つこの車は、ホンダにとって時代ごとのメッセージを表す存在だった」と開発責任者の堀川克己氏は話す。今は電動化の時代、ホンダも2030年までに世界販売に占める電動車の割合を3分の2まで引き上げる計画を掲げる。もともとインサイトはホンダHVのパイオニアであるため、電動化戦略の伝道師として、再度登場することになったといえそうだ。
ホンダの主力セダン「アコード」。日本向けはHVのみだが、北米向けにはガソリン車とHVの設定がある(写真:ホンダ)
すでにアメリカでは今年6月からインサイトを市場投入し、9月までの4カ月間で約6000台を販売。ホンダは、インサイトを「シビック」と「アコード」の中間に位置づける。シビックは月3万台前後が売れているホンダの主力セダンだが、HVの設定がない。シビックとインサイトはプラットフォーム(車台)を共有しており、シビックのサイズで高級HVセダンが欲しい消費者を狙う。
ただ、一つ上の車格のアコードにはHV設定がある。ベースグレードの価格はインサイトが2万2830ドル、アコードHVが2万5100ドル。価格差は約2300ドルと小さいため、HVが欲しい消費者は選択に悩むところだ。
立ち位置を明確に打ち出せるか
インサイトの投入で国内向けのセダンのラインナップはかなりにぎやかになる。旗艦車種のレジェンドを筆頭に、クラリティPHEV、アコード、インサイト、シビック、グレイスと6種類になる。国内市場でのターゲットは40〜50代の独身層だというが、この想定顧客層はクラリティやアコードと重なる。またアメリカと同様、シビックのHV版という立ち位置を明確に打ち出せるのかは疑問だ。
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前出の堀川氏は「プリウスを意識せずに作った」と言う。一度「プリウスのライバル」としてのイメージから抜け出し、ホンダのHVの決定版として新たなポジションを構築したいとの思惑も透けるが、今やSUV(多目的スポーツ車)の勢いに押され全世界で縮小しているセダン市場で、それを実現するのは決して容易なことではないだろう。