「医者と結婚」は婚活中の独身女性にとってあこがれの話だが…(写真:RomoloTavani/iStock)

上野由香里さん(47)は関東郊外にある中核都市で開業するクリニックの院長を務める医師の妻だ。もう結婚して20年以上が経ち、子どもも1人いる。

西日本出身の彼女は、大学卒業後に地元で5歳年上の夫と出会い、交際がスタートした。彼は関東地方の出身で現地の病院に勤務していたが、技術習得を目的として3年の期限で西日本の病院に研修に来ていた。研修が終わり、彼が関東に帰ることになったのを機に由香里さんは住み慣れた西日本の地を離れ、関東地方に引っ越し、勤務医の妻となった。

あこがれの「医師の妻」の現実

年収が高く、社会的地位も高い医師は、婚活市場において女性の人気を大きく集めている。そう簡単に医師の妻にはなれない。したがって、現在、医師の妻として生活している女性は、そうした厳しい婚活競争を勝ち抜いた「勝ち組」だと言える。

一方、苦心して医師の妻という座を勝ち取ったにもかかわらず、現実にはさまざまな厳しさも待ち受けているという。

由香里さんは医師との結婚後、交友相手が夫の周囲にいる医師や妻などの医療関係者が多くなった。

そうした人種と交流する中で、由香里さんは2つの興味深い事実に気づいた。1つ目は医師の結婚相手となる女性の職業に一定の傾向があることだ。由香里さんの周囲では、医師の結婚相手となる女性の職業は、保母・幼稚園の先生・学校教諭・看護師・キャビンアテンダント(CA)が多かったという。

これらの職業に共通しているのは、「人のお世話をする仕事」である点だ。この現象には多くの医師に共通するある特徴が関連している。その特徴とは、医師となる男性の多くは良家のご子息、つまりおぼっちゃまであることだ。

裕福な家庭においては、多くの男性が母親に溺愛されて育ってきている。つまり、医師にはマザコンが多い。また、幼少の時より手厚い教育を受けているため、学業成績も優秀だ。そのため、医師にはつねに周囲から称賛されちやほやされて育ってきた男性が多い。しかも、医学生を経て医師となるにつれて、しだいに社会的地位を得て周辺の人々からは先生と呼ばれ、あがめ奉られる存在になる。

そうした環境が彼らにとってはあまりにも一般的だったため、男性医師は無意識のうちに、自らを称賛してくれる犠牲心が強く献身性の高い職業に就く女性を結婚相手に選んでしまうのだ。そして、後述するが、実際に医師の妻としてこの「献身性」は非常に重要な能力だ。

2つ目は、折角苦心して医師の妻となったにもかかわらず、離婚するカップルが意外と多いことだ。公的な統計があるわけではなく、あくまで由香里さん目線の話となるが、由香里さんが所属していた医師の夫婦が集うある同好会では、メンバー10組の夫婦のうち6組が離婚したという。

夫が同僚女医との浮気で相手を妊娠させてしまったケースや、夫が海外の大学病院へ留学するのに伴って、夫の気持ちが離れてしまうなど、パターンはいろいろある。しかしその中でも多いのが、妻がもともと期待していた結婚生活が送れずに不満が爆発し離婚に至る事例である。

夫の一族からの過剰なまでの干渉

医師の妻となるとまず直面するのが、夫の一族からの過剰なまでの干渉だ。医師の家系はともすると、親戚一同とも医師であることは珍しくない。そうすると、これらの血縁家族との比較競争がプレッシャーとなってくる。

端的な例が子どもの進学先だ。医師の一家は体裁を重視するので、小学校や中学校などなるべく早い段階から有名私立の学校に通わせたがることが多い。そうすると、つねに「親戚の○○ちゃんは慶應幼稚舎に入った」などといった情報が耳に入ってくることになる。自分の子どもがそうした名門校に入れず、親戚の子どもが入るようになると、親戚の中での序列が下位に落ちてきてしまう。

また、医師の一族にはボスとして君臨する高齢者がいるケースもある。そうしたボスの機嫌を損ねると親戚付き合いに支障を来すため、いかにその一族のボスに対して貢献しているかをアピールすることが重要になってくる。

この点、由香里さんは、「たとえば、お盆のときのお墓の掃除は大事な役割です。これをやらないと『ダメな嫁』という烙印を押されてしまうんです。でも、それはほかの家の妻も同じ立場。だから、お盆が始まったらすぐにお墓に行かないと、ほかの家に掃除されてしまうんです。ちなみに、去年はフライングぎみにお盆前にお墓に行ったら、すでに掃除された後でした……」と述べる。

「医師の妻」の役目

親戚付き合い以外にも、医師の妻となるとともかく多忙な業務が発生する。たとえば、患者やお世話になった名士が亡くなった場合、まず葬儀に足を運ぶのは妻の役目だ。また、大学病院の教授にお中元やプレゼントを贈ったり、教授の妻とランチを共にしたりして良好な信頼関係を築くのも医師の妻の大事な役割だ。

由香里さんの夫のようにクリニックを経営する開業医の場合、大学病院からの紹介は重要な患者獲得ルートの1つになる。大学病院から安定的に患者を紹介してもらえれば、それはクリニック経営の安定化に資する。

教授がどのクリニックを患者に紹介するかは、教授次第の部分が小さくない。だからこそ、大学病院教授やその妻との人間関係の構築は、縁の下の力持ちで夫を支える妻の重要な任務なのだ。

さらに、より優秀な医師であるためには、つねに情報のアップデートが求められる。夫が向上心の高い医師であるほど、資格試験に費やす時間が多くなる。また、救急病棟に勤務する医師であれば、休日や夜中でも関係なく呼び出されることも多い。

そうなると、家族でゆっくり過ごす時間が相対的に少なくなり、妻からすると不平不満が出る環境になりやすい。そうした状況が妻の結婚当初の期待とあまりにも大きく乖離していると、我慢ができなくなり離婚に至るケースも起こりうるのだ。その点でも、夫のために自らの時間や労力を差し出す「献身性」が医師の妻には求められるのかもしれない。

婚活中の独身女性は誰しも幸せな結婚生活を求めている。その中でも、強い経済力と高い社会的地位を有した医師の妻は多くの女性にとってあこがれの座だ。計算力の高い賢い女性ほど、結婚相手によりよい条件を求める傾向がある。その気持ちはよくわかる。しかし、結婚は条件さえ満たせばうまくいくというものでもない。