ホンダ「シビック」が日本復活から1年。成果は?(撮影:梅谷秀司)

昨年、7年ぶりの日本市場復活を遂げたホンダ「シビック」。5ドアハッチバック、4ドアセダンに加えて、高性能版の「シビックタイプR」の3タイプを7月27日に発表、9月29日に発売した。発表から1年。復活したシビックは成果を収められたのか。

小さなクルマが売れ筋の中で健闘

日本自動車販売協会連合会の統計によれば、9月末の発売にもかかわらず同月のシビックは1289台を売り、乗用車ブランド通称名別新車販売ランキング(軽自動車除く)で40位に顔を出した。翌10月こそ50位圏外で、わずか490台(ホンダ調べ)の販売だったが、同11月は42位で1088台、12月には38位で1475台という販売実績だった。


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年が明け、1月には36位、4月に33位、5〜6月が35位というように、若干の上下はあるが、新型シビックは毎月30位半ば〜40位あたりを推移している。販売台数とその順位が、どれくらいであるのかをほかのホンダ車と比較してみると、シャトル(ステーションワゴン)より少ないが、オデッセイ(ミニバン)より多いという位置関係だ。

「トヨタ『10代目カムリ』、発売1年の通信簿」(2018年8月20日配信)で取り上げたように、昨年7月に約6年ぶりのフルモデルチェンジで10代目に以降したトヨタ自動車の「カムリ」は、今年1〜6月の同集計で34位。33位で同じくトヨタの「クラウン」とともに4ドアセダンとしては善戦している。

今年1〜6月の同集計で、シビックは37位。ホンダ車で軽自動車を除き販売台数上位にあるのは、5位の「フィット」、9位の「フリード」であり、いずれもコンパクトカーだ。「N‐BOX」などの軽自動車人気とともに、小さなクルマホンダの売れ筋の中で、昔の名前を日本市場に復活した成果として、シビックの復活1年目は健闘したといえるだろう。

一方、かつての大衆車仲間であるトヨタ「カローラ」は、12位。1〜6月の販売台数を比べるとカローラの3万9607台に対し、シビックは1万0319台で、3分の1以下という水準だ。

主力のグローバルカーという位置づけはカローラもシビックも同じといえるが、シビックが日本市場から一時撤退した影響は大きい。またカローラが国内市場のために5ナンバー車を残す決断をしたのに対し、シビックは海外市場との共通性を優先し3ナンバー化したことも、国内におけるシビックの存在感の薄さにつながっているのではないか。もちろん、カローラに通じる5ナンバー小型車としての価値は、フィットやシャトルが代行しているともいえる。

シビックつまずきの大きな原因

今後、シビックはどのような道を歩んでいくのだろう。

そもそもシビックは、初代から7世代目までハッチバック車を主として小型車市場に供給されてきた。シビックといえばハッチバック車との印象が強い。そして新型シビック発売からの販売比率を見ると、タイプRを含めハッチバック車がほぼ7割に達し、セダンは3割前後で推移している。また、ハッチバック車のなかでタイプRの販売台数は、15〜20%を占めている。

シビックが、今日なおハッチバック車としての認識が国内市場で高い様子がうかがえるうえ、俊敏で快活な走行性能を備えるタイプRへのあこがれが強いことを改めて認識させられる。

競合車として想定される輸入車のフォルクスワーゲン(VW)「ゴルフ」や、プジョー「308」、ボルボ「V40」などもハッチバック車であり、ゴルフにおいては高い走行性能で知られるグレードの「GTI」が根強い人気である点も、シビックに通じるところがある。

そうしたシビックそのものへの消費者の思いや、世界的な小型人気車種のハッチバック志向と別に、2005年の8世代目シビックで4ドアセダン中心に国内販売を進めたことが、シビックつまずきの大きな原因であったのではないかと想像できる。

7世代目シビックがホンダの期待を裏切り販売不振であったことが、8代目での4ドアセダン化につながったようだ。

実は、7世代目シビックの元の構想は、次世代の小型車の新しい価値として創出されたもので、シビックを想定したものではなかった。ところが急遽シビックに転用されたいきさつがある。したがって、未来志向のシティコミューター的な造形とパッケージングは斬新かつ新鮮だったが、歴代シビックとしてみた場合の快活さはなかった。そうした社内の混乱が、「ホンダといえばシビック」と言われるほどの旗艦車種の運命を左右したともいえるのである。

主力のアメリカ市場では、シビックは絶対のブランドであり、アメリカ市場にはシビッククーペも投入されるなど、消費者に対する厚い配慮がなされてきた。それというのも、アメリカ市場では、シビックの次は「アコード」と出世するように車種を上級へ格上げするのではなく、シビック所有者は次もシビックに買い替え、他車への乗り換えを考える消費者が少ないという特殊性もあったはずだ。それほど、シビックや、ホンダに対する愛情は深い。

日本市場への復活に際し、ハッチバックを軸にタイプRを準備し、そのうえで4ドアセダンもそろえるというシビックの車種構成は、一定の成果を収めたといえるだろう。

筆者は新型シビックが発表されたあと、ハッチバックとセダンそれぞれに試乗した。その時点でタイプRを試乗する機会はなかった。しかしながら、新型シビックは強い印象を残す商品性を備えていた。

開発責任者は、新型シビックの開発に際し、「開発の初期からタイプRを想定して開発してきた」と語った。


(撮影:梅谷秀司)

新型シビックのタイプRは、史上最強のパフォーマンスとうたわれるように、排気量2.0Lの直列4気筒ガソリンターボエンジンは320馬力の最高出力を発生する。ほかのハッチバックとセダンは排気量が1.5Lなので、比較しても意味はないが、それでも1.7倍以上の馬力のエンジンを積むタイプRを視野に開発された車体とサスペンションは、通常のハッチバックとセダンにも高度な操縦安定性をもたらした。

ハンドル操作に対し的確に進路を変え、山間の屈曲路で身軽に走り、壮快な運転を楽しませたのである。車両重量が1300kg台という軽さも効いているだろう。

エンジンは、ターボチャージャーの過給により強化されてはいるが、回転数が低いうちは1.5Lの排気量そのままの出力であり、低い回転でやや加速の物足りなさを覚えた。しかしターボチャージャーが機能して高回転まで回した際の伸びやかな加速は印象深い。タイプRでなくても、シビックはスポーティな運転を楽しませるクルマという特徴がはっきり表れていた。

車幅が1.8mあり、かなり大柄に見える新型シビックではあるが、4ドアセダンもクーペに見えるような外観にしており、シビックはハッチバックを基本とした快活なクルマという伝統がクルマ全体に示されている。7年ぶりの国内市場復活となりながら、それらシビックらしさという伝統を明確に受け継いだ姿や性能が、この1年の販売実績につながったのではないか。

電動化への道筋が見えない

一方で、新型シビックにハイブリッド車(HV)など電動化の車種設定はない。簡素にシビックの価値を強調したという意味で、現状の車種体系は評価されるべきだが、今日の環境情勢において、電動化への道筋が見えないことは、シビックの存在理由に先々の不安を残すのも事実である。


(撮影:梅谷秀司)

次期シビックは、一気に電気スポーティハッチバック車(EV)というくらいの飛躍が求められるかもしれない。競合他社の動向を見るのではなく、そうした大胆な挑戦こそ、ホンダファン、シビックファンの心をくすぐるのではないか。

とはいえ、実はゴルフは、ガソリンターボ車、ディーゼルターボ車、プラグインハイブリッド車、そして電気自動車と車種構成を整え、それらすべてゴルフという価値に揺るぎはないと胸を張る。シビックの次世代像は、すでに遅れぎみであると言えなくもない。