目的地の途中で立ち寄りたい場所がある場合、知っておくと便利な途中下車の制度。旅行プランにあわせて上手に活用しましょう。

途中下車できるきっぷ、できないきっぷ

 最近は「Suica」「ICOCA」といったICカードの普及できっぷを買う機会も減ってしまいましたが、そのきっぷの券面には鉄道会社と乗客のあいだで交わした“契約”の内容が書かれています。そのひとつ、近距離の普通乗車券に書かれている「下車前途無効」は、「駅で降りてしまったら、その先の券面の区間についての効力は無効」という意味です。


きっぷの右下に書かれている「下車前途無効」。鉄道会社と乗客が交わした契約のひとつ(児山 計撮影)。

 JRの普通乗車券は一部例外を除き、乗車する片道の営業キロ(運賃を計算するときに使う距離)が101km以上の場合、途中下車をしても券は回収されず、再びその券で改札を通って旅行を続けられます。この途中下車制度をうまく活用すると、乗り降りのたびに券を買い直すよりも安く旅行ができる場合があります。

 たとえば、東京から名古屋に旅行する際に、静岡でちょっと降りる用事がある場合、乗車券を「東京→静岡」(3350円)と「静岡→名古屋」(3350円)に分けて買うと6700円ですが、「東京→名古屋」(6260円)を買って静岡で途中下車すると、440円安くなります。途中下車は乗車券の区間内の駅であれば、後戻りしない限り何回でもできます。


「東京都区内→名古屋市内」の乗車券。この場合、「券面の都区市内各駅下車前途無効」とあるとおり名古屋市内の駅で下車するとそこできっぷは無効になる(児山 計撮影)。

 ただし、乗車券の発駅・着駅に「東京都区内」「名古屋市内」などと書かれている場合は注意が必要です。たとえば「東京都区内→名古屋市内」の乗車券の場合、名古屋市内に指定されている駅、東海道本線だと南大高〜名古屋間のいずれの駅かで下車した場合は、その時点で乗車券の効力は終わり、回収されてしまいます。

往復のルートを変えてお得に旅行

 JRの乗車券は、基本的には距離が長くなるほど運賃の上昇率が下がります。そのため旅行先によっては同じ区間を往復するよりも、帰りを別ルートにして一筆書きのルートにすると安くなるケースもあります。

 たとえば東京から金沢に旅行する場合、北陸新幹線で往復すると運賃・料金合わせて2万8240円です。しかし乗車券を、北陸新幹線、北陸本線、東海道新幹線経由(金沢、米原経由)で、東京から東京まで一筆書きでぐるりと1周するルートで買うと2万6140円になります。どちらも新幹線や特急は普通車指定席(通常期)を利用。ぐるり1周ルートはもちろん金沢で途中下車が可能です。米原経由の金沢〜東京間は時間こそかかりますが、往復で違う風景を楽しめると考えれば悪くありません。なお、このルートの場合、乗車券の有効期間は7日間です。

 一筆書きができないルートでも、重複区間を別途購入し、1枚で買える区間の距離をできるだけ伸ばして途中下車を利用すれば、安く、バリエーションのある旅行を楽しめます。


上野駅から特急で2時間半弱のいわき駅も東京近郊区間。上野〜いわき間の乗車券は101km以上あっても、下車した駅で回収される(児山 計撮影)。

 営業キロ101km以上の普通乗車券は途中下車ができるのが原則ですが、例外も。大都市近郊区間内のみを利用する場合、距離にかかわらず下車した駅で乗車券の効力は失われます。

 大都市近郊区間とは東京、大阪、福岡、新潟、仙台の各都市圏で定められたエリアのこと。そのエリア内で完結する普通乗車券は、実際の乗車経路にかかわらず最短経路で運賃を計算する代わりに、途中駅で下車をするとその先の区間は無効になってしまいます。

 特に東京近郊区間はその範囲が広く、伊東、松本、水上、黒磯、いわき、銚子までや、房総半島全体も含まれます。そのため東京近郊区間の端から端、たとえば500kmほどあるいわきから松本までの乗車券も「下車前途無効」。途中の上野や甲府で改札を出ると、そこできっぷは回収されてしまいます。

途中下車するためのひと工夫

 とはいえ、途中下車したいということもあります。そんなときは東京近郊区間から1駅はみ出した駅まで乗車券を買ってみましょう。

 たとえば東京近郊区間の中央本線・新宿〜松本間(みどり湖経由)の場合、営業キロは225.1kmで運賃は4000円ですが、これを東京近郊区間外で1駅先の北松本駅までのきっぷとして購入しても、運賃は同じ4000円です。しかし東京近郊区間内相互発着ではなくなるため、途中下車ができる乗車券になります。また、きっぷの有効期間も1日から3日に伸びるため、たとえば小淵沢で途中下車して1泊してから松本に向かうといったことも可能になるわけです。


途中下車制度のある西日本鉄道。ただし自動改札にきっぷを通すと回収されてしまうため、途中下車の際は駅員にきっぷを見せて途中下車をする旨の申告が必要(児山 計撮影)。

 私鉄はJRのように大規模な路線網を持っているところは少なく、大部分の鉄道では途中下車をした場合、そこで普通乗車券は回収されてしまいます。

 大手私鉄では西日本鉄道が17kmを超える距離で、かつ乗車券の運賃と同一運賃の駅でない場合に途中下車を認めているほか、近鉄や会津鉄道のように特定の駅のみ途中下車を認めているケースなどがあります。

 途中下車制度をうまく活用すれば、乗車券をその都度買うよりも安く自由度の高い旅行を楽しむことができます。時刻表のきっぷについて書かれたページを参考に、旅行プランを最大限に活かせるような買い方を考えてみても良いかもしれません。