ベストセラーの定番、(左)トヨタ プリウスと(右)ホンダ N−BOX。

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軽の魅力をあらゆる角度から解剖、各カテゴリーに君臨する、登録車の“最強王者”と対峙して軽のスゴさにズバリ迫る!

軽はもちろん、幅広い車種に詳しい自動車ライター・佐野弘宗氏が解説!

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白ナンバーの登録車で、国内ベストセラーの定番といえばトヨタ・プリウス。そして軽の王者はホンダN−BOX…というのは各メディアでも大きく報じられていて、皆さんも肌で実感していることだろう。

この2台はいわば「階級違い」の王者だが、そういう階級を取っ払うと、この2台はここ数年、抜きつ抜かれつのデッドヒート状態だ!

■新型N−BOXの勢いがスゴい

―現行プリウスが初めて1年まるまる売られた2016年(1〜12月)の販売台数は、さすがにプリウスの勝ちでした。しかし、翌17年は早くもN−BOXが逆転しています。

「N−BOXは17年にフルモデルチェンジしたわけで販売台数の伸びは予想できたけど、新型の発売は同年の9月。つまり1年の半分以上はモデル末期だった。一方のプリウスはまだまだ新しい。…といったことを考えると、プリウスに先代の全盛期ほどの勢いがないのは事実。でも、それ以上に新しいN−BOXの勢いがスゴイってこと」

プリウスのデザインは賛否両論がありますもんね。

「その影響はあったかもしれないけど、今のプリウスクルマとしてはスキがない。トヨタが社運を賭けた例の『TNGA』(※)もあって、先代の弱点だった乗り心地や操縦性は飛躍的によくなったと思う。小さな15インチタイヤを履く低いグレードでも走りは悪くない。もちろん燃費性能は軽を含めて、間違いなく市販車トップ。先代まではなかった4WDも用意されていて、北国の人も、安心して買えるようになった」

※トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャーの略。クルマのプラットフォームを根幹としたクルマづくりの開発方針、開発手法のこと。2015年12月に発売した4代目プリウスに初めて適用された。

■ミニバンのような前後移動が可能に!

―それでもN−BOXに勢いで負けているのは、やっぱりデザインが原因?

「うーん、一般論として今のプリウスのデザインの“クセがスゴイ”のは事実。ただ、いろいろ言われたとしても、登録車では不動のトップなわけで、やっぱりN−BOXがスゴすぎなんだ」

―でも、N−BOXもいつの間にか、安くても140万円近く、高いと200万円超に! 軽は高くなりました。

「そのとおりではあるんだけど、そもそも“軽だから安くて当然”という考えはおかしい。だって、軽だからって、タイヤが3本でよかったりするわけではない。必要な部品の数は普通のクルマと同じ。サイズがちょっと小さいだけで自然に安くなるわけでなく、“軽は安い”という客側の勝手な思い込みに応えるために、メーカーが血のにじむような努力をしてきた結果なんだ。

軽は基本的に日本でしか売れないから、例えば世界中で大量に売れるトヨタ・ヴィッツやホンダ・フィットより、むしろスズキ・アルトのほうが高価でも不思議じゃない。というか、そのほうが自然なくらいだ」

―言われてみれば…。

「冷静に客観的に考えると、新しいN−BOXはまったく高くないと思う。ボディ剛性は高いし、エンジンはF1ゆずりのハイテクで新開発されたもの。内外装の造りなんて、そこいらのコンパクトカーより明らかに手が込んでいて高級感がある。

それにN−BOXでは、自動ブレーキや軽唯一の車間距離維持機能付きクルーズコントロールなどを含む『ホンダセンシング』やLEDヘッドライトが、なんと全車標準装備! これは本当にサイズと排気量が小さいだけで、クルマのメカニズムや装備内容は今のヴィッツやフィットより高度になっている」

―しかも室内空間はプリウスよりずっと広いです。

「でしょ!? さすがに絶対的なボディサイズが小さいから、プリウスと違ってフル乗車して人数分のスーツケースを積んで…みたいな使い方は難しい。N−BOXの場合、後席に人が座るなら小さなバッグしか積めないし、スーツケースを積むならフル乗車はできない。でも、そういう使い方以外なら、圧倒的にN−BOXは便利!」

―あと、軽のデメリットとしては、乗車定員が最大4名で、高速道路を走るとうるさくて疲れやすく、そして燃費もイマイチ…といったところでしょうか?

「乗車定員は軽の規定だから仕方ないとして、高速性能は新型N−BOXで開発陣が最もこだわって、実際にも最も進化したポイントなの。N−BOXの開発初期に担当エンジニアみんなが旧型で日本全国を走りまくり、“せっかくの楽しい高速ドライブなのに、車内で家族が会話できないのはおかしい”と気がついた。

その結果、クルマの静粛性を高めたのはもちろん“広さはそのままで、前後席を近づければ楽しくおしゃべりできる”と考えて、助手席を大きく後ろまでスライドできる『助手席スーパースライドシート』にたどり着いた」

―N−BOXのスーパースライドシートは、後ろだけじゃなく、前方にも大きくスライドします。

「そう、“前にもスライドできたら何か便利になるんじゃないか!?→車内にいて前後席に移動できるじゃん!!”と、イモづる式に開発が進んだらしい。

というわけで、N−BOX(のスーパースライドシート仕様)は事実上、軽初の“前後ウォークスルー”が実現した。室内の前後方向がどんなに広くなっても、左右幅が狭い軽ではミニバンのような前後ウォークスルーだけは絶対不可能というのが常識だった。でも、その長年の常識をN−BOXはついに覆した。大げさに言うと、これってエンゼルスの大谷翔平選手の二刀流に匹敵するくらい(?)歴史的は快挙かもしれない」

■軽が劣る点はほとんどない

―マジで大げさ(笑)。

「そうかもしれないけど、これが軽の歴史を変える大事件なのは事実。ホント、“軽なもので…”という言い訳が必要なのは、乗車定員くらいしかなくなった気がする」

―そういえば、高速道路の制限速度が軽だけ低かった時代ってありましたよね?

「確かに2000年9月までは、軽の高速の法定速度が時速80キロだった。“いろいろ我慢してもらう代わりに、税金その他の維持費はお安くしておきますので”というのが軽の立ち位置だったのに、安全上などの理由から、衝突安全基準や制限速度がいつの間にか登録車と同じになった。こうなると、軽の表面的なデメリットの多くは消滅して、税金や高速料金などのメリットだけが残った。まあ細かく比較すれば、高速での静かさや安定性、燃費もプリウスのほうが優秀だし、長時間運転しても疲れにくい。でも、制限速度を守ってトコトコ走るなら、今や軽が劣る点はほとんど見当たらない」

―考えれば考えるほど、軽に乗らない手はないと思っちゃいますね。

「N−BOXの開発陣は、もはや他社の軽のことはほとんど眼中にない。N−BOXこそ“現代の理想のファミリーカーだ!”と本気で信じている。そんな、日本で一番使いやすいクルマが税金その他でも優遇されるんだから、圧倒的支持を集めるのは当然だよね」

◆この続き、『週刊プレイボーイ21号』(5月7日発売)「こうなったら日本のクルマは全部『軽』でよくね!?」では、軽の魅力をあらゆる角度から解剖するブチ抜き特集を掲載。そちらもお読みください!

(撮影/岡倉禎志)