CR-V」に初めて3列シート仕様が設定される(写真:ホンダ提供)

一度は日本での販売をやめたホンダCR-V」の復活が近づいている。

CR-Vといえば、トヨタ自動車「RAV4」とともに1990年代のRV(多目的車)ブームに乗って登場した国産クロスオーバーSUV(スポーツ多目的車)の草分け的存在といっていい。

RAV4がデビューした翌年となる1995年に初代CR-V(〜2001年)が発売。悪路走行を主眼においたラダーフレームと呼ばれる構造の従来型SUVのように武骨なスタイルではなく、乗用車をベースに腰高としたスタイリッシュなデザインや乗用車感覚で乗りこなせる走行性能、居住性能の高さなどが評価され、ヒットした。1990年代後半から2000年代前半には街中でその姿をよく見かけたものだ。


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ただ、2代目(2001〜2006年)、3代目(2006〜2011年)、4代目(2011〜2016年)とモデルチェンジを重ねる中で、アメリカ市場をはじめとして海外向けにボディサイズを大型化した影響などもあって、CR-Vは以前ほどの人気はなくなった。

たとえば、2011年11月に発売された4代目CR-Vは翌年の2012年こそ1万2139台を売ったものの、通年で売った最後の2015年の販売台数は837台にとどまった。日本自動車販売協会連合会(自販連)の2015年乗用車(軽自動車除く)ブランド通称名別新車販売ランキング上位50車種を振り返ると、同じホンダの「ヴェゼル」(9位)、トヨタ「ハリアー」(13位)、日産自動車「エクストレイル」(14位)、マツダ「CX-5」(29位)などといったクロスオーバーSUVの姿が見られたのに、CR-Vはランク圏外。日本では2016年8月にいったん販売を打ち切っていた。

CR-V」が日本で復活

そのCR-Vが日本で再び販売される。ホンダはアメリカでの2016年10月発売を起点にタイ、インドネシア、中国など海外で販売している5代目CR-Vに当たるモデルを、日本向けにアレンジして今年中にも発売する。すでに海外のモーターショーなどで出品されている5代目CR-Vを写真や映像で見た読者もいるだろう。

近年、日本に限らず、世界中で自動車メーカーが力を入れているのがクロスオーバーSUV。今年2月にはあのランボルギーニが「ウルス」と呼ぶ超高性能なクロスオーバーSUVを日本に導入した。

トヨタが2016年末に発売した「C-HR」は、2017年の乗用車(軽自動車を除く)ブランド通称名新車販売別ランキングで4位(約11万7300台)という高順位に食い込んだほか、2017年末にマツダが投入した「CX-8」の出足も好調に推移。ホンダも2013年から販売し、2014〜2016年に国内SUV販売台数でトップだったヴェゼルを、この冬に一部改良(マイナーチェンジ)し、商品力向上に余念がない。

まさにクロスオーバーSUVブームに沸く中でのCR-V復活となるワケだ。5代目CR-Vには「アコード」や「オデッセイ」などと共通の2モーターと排気量2リッターのガソリンエンジンを組み合わせる「SPORT HYBRID i-MMD」を搭載するハイブリッドモデルのほかに、排気量1.5リッターのガソリンターボエンジンモデルも用意される。

日本仕様のボディサイズは変更されるかもしれないが、アメリカ仕様は全長4587×全幅1854×全高1676mmとやや幅広いボディサイズだ。まだまったく発表もされていないが、車両本体300万円〜400万円前後の価格設定になるのではと記者は予想している。

「3列シート仕様には一定のニーズがある」

そんなCR-Vの日本復活に当たって、興味深いのは1.5リッターターボエンジンモデルには2列シートと3列シートという2種類が用意されることだ(ハイブリッドモデルは2列シートのみ)。実は歴代を振り返ってみてもCR-Vに3列シートタイプが設定されるのは初めて。おそらく最大乗車人数は7人になるのだろう。

「爆発的に売れるとは思っていませんが、3列シート仕様には一定のニーズがあると見ています」。5代目CR-Vの開発責任者である本田技術研究所の永留高明・四輪R&DセンターLPL 主任研究員は言う。

3列シートといえば、従来はミニバンの領域だったが近年はクロスオーバーSUVにも広がってきている。昨年末、マツダが発売した3列シートSUV「CX-8」は発売1カ月の受注台数が月間販売目標1200台の約10倍に達するなどヒット。トヨタもレクサス「RX」に3列シートロングバージョンの「RX450hL」を昨年末に追加したばかりだ。日産「エクストレイル」や三菱自動車「アウトランダー」などにも3列シート仕様がある。5代目CR-Vもこの流れに乗る。

5代目CR-Vも含めて、3列シートSUVへの乗り換え需要の主力になりそうなのはすでに3列シートのミニバンに乗っているようなユーザーだろう。それも常に多人数乗車するような使い方ではなく、実家に帰省したときに両親を乗せたり、グループで遠出する際に自分の車を出したりするなど、「いざというときに使いたい人」だ。3列シート車といってもカップルや家族4〜5人程度で移動するときは、広い荷室を持ったクルマとして使えるからだ。

かつて、「3列シートは欲しいが箱型の大きなミニバンには抵抗があり、スタイリッシュなデザインも捨てがたい」と考えるユーザーの需要を満たしたのが、ホンダでいえば3代目までの「オデッセイ」や「ストリーム」、トヨタ「ウィッシュ」「プリウスα」、マツダ「MPV」「プレマシー」などの背の低いミニバンだった。

ただ、最近は背が高く、圧倒的に広く多人数乗車に向いているうえ、スライドドアで乗り降りもしやすい箱型ミニバン以外のミニバンの需要は一巡してしまっている。背の低いミニバンの3列目は狭くて実用的ではないケースもあるからだ。ホンダは現行5代目「オデッセイ」の車高を14センチ上げたし、マツダもミニバンの新型車開発からは撤退。トヨタもウィッシュの国内販売を2017年で終了した。

とはいえ、背の低いミニバンのユーザーが背の高いミニバンやステーションワゴンなどに、そのまま移行したいかというとそんなこともなく、クロスオーバーSUVの3列シートは選択肢に入るだろう。

また、マツダ関係者に言わせると「CX-8に他社の箱型ミニバンから乗り換えるユーザーも目につく」のだという。箱型ミニバンは便利だが多人数乗車をそれほどしない人にも、クロスオーバーSUVというスタイリッシュなデザインのクルマの3列シート仕様が魅力に映るケースはあるはず。ホンダも5代目CR-Vでこれらの商機を見込んでいるのだろう。

今後の課題は

記者はホンダが2月下旬に北海道鷹栖町のテストコースで開いた雪上試乗会で、左ハンドルの5代目CR-Vプロトタイプを運転する機会を得た。用意されたのは前述した「SPORT HYBRID i-MMD」というハイブリッドシステムを搭載する仕様だった。


5代目CR-V(写真:ホンダ提供)

モータージャーナリストや自動車評論家のように詳しいインプレッションは書けないが、ホンダ独自のリアルタイムAWD(全輪駆動)を備えた5代目CR-Vは、記者がまったく走り慣れていない雪道でも安心して走れる車だった(もちろんスタッドレスタイヤは装着)。アコードやオデッセイなどでも評判が高い「SPORT HYBRID i-MMD」は、かなり力強いのに静かでゆったりとした走りで、雪道でもその上質さを感じさせた。普通の街中やワインディング、高速道路でもきっと楽に走れるだろう。

ただ、このハイブリッド仕様の5代目CR-Vには3列シートが当初は設定されない。ホンダの1.5リッターターボエンジンはそれなりにパワフルで、CR-Vの重い車体でも力強く走らせるとは思うが、「SPORT HYBRID i-MMD」の3列シート仕様を望むユーザーはきっといるだろう。

2つのモーターを積むパワーユニットのため、スペースを確保するのは技術的に難しいのかもしれないが、競合となるであろう他車との戦いやすさも考えると、今後の課題かもしれない。