ホンダジェット。(写真: 本田技研工業の発表資料より)

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 ホンダ・ジェットがついに世界一の年間出荷台数を記録した。セスナ・サイテーションと競合する重量5.7t以下の小型ジェット機部門でである。ホンダ創業者・本田宗一郎の号令の下、計画されて30年余り、全くの素人からこの高い評価を得るまでの苦労は並大抵ではあるまい。しかし、営業利益は赤字続きのままである。これが航空機産業の現実であり、多くの航空機メーカーが国家事業として奨励されて初めて成り立つ現実を見つめてほしい。

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 一方、セスナは言わずと知れたアメリカの小型・自家用機の雄である。自家用ビジネス機の部門で、何であれセスナに勝つことは至難の業だ。ホンダ・ジェットは特異な形態をとっている。そのもっとも特徴的なのはエンジンの位置だ。業界の常識では、このクラスはリアジェットの形態をとる。セスナ・サイテーションを見ればわかるように、胴体の後部左右に2基のジェットエンジンを搭載しているのが普通だ。

 ホンダ・ジェットは主翼の上にエンジンナセルを取り付けて、上部に持ち上げる形でエンジンを取り付けている。これは、居住スペースの点で有利になる。胴体後部左右に2基のエンジンを取り付けると、居住スペースである胴体後部を、エンジン取り付け構造材を通すこととなり、このクラスの小型機ではかなりのスペースを無駄にすることとなる。そこで、主翼に取り付ければよいのだが、低翼では翼面下にはスペースがない。おそらくは、空力上では翼に着けるよりは、ポッドで離してつけたほうが有利であろう。

 しかし、主翼上部に取り付けると、リアジェットに比較して整備がつらくなる。これらを勘案したうえで考えられた配置であろう。ホンダらしい狙いが誇らしく思える。

 そもそも、小型自家用機ではレシプロエンジンが主力であった。ビジネス機においても、三菱・MU2という機体がかつてあった。これはターボプロップという形式のエンジンで、ジェットエンジンに変わりはないのだが、プロペラを介して推進力に変えることで燃費を良くしていた。これは戦後日本初の国産旅客機YS-11でも取られた手法だが、あっという間に純ジェット旅客機DC-9とB727に国内線幹線空路をとられてしまった。つまり、どんどん純ジェットの経済性が上回ってきているのだ。

 この流れは、小型機の分野でいまだに続いている。YSの路線を占有したボンバルディア機もターボプロップ・ジェットだが、間もなく純ジェット機が取って代わるだろう。三菱・MRJもその一つだ。これは、ターボファン・ジェットの燃費向上策が進んでいることが底流にある。だいぶ前から戦闘機用のエンジンでもターボファンが登場し、小型自家用機でも純ジェットが占有しようとしている。そのエンジンも燃費改善が進み、「GE Honda エアロ エンジンズ(GEホンダ)」製の「HF120」を搭載している。このエンジンは、「GE Honda」と名乗ってGEが入っているが、それは型式証明をとるための苦労であり、実際はホンダ製だ。この話だけで長くなるので、別の機会にすることにする。

 戦後、富士重工のFA200、三菱重工のMU-2など小型機開発が続いたが、その後絶えて久しい日本の翼が三菱・MRJ、ホンダ・ジェットと続いていることは、うれしい限りだ。アメリカの戦後政策で航空機開発、ロケット開発など多くの制約を受けてきた過去を払拭してほしい。知識集約型産業として、今後の日本経済の成り立ちにも大きな影響を与えるはずだ。