――自分たちの弱点は何だと思いますか?

駆け引きだと思います。昔、代表は個々の駆け引きがもっとうまかったんです、今は素直すぎますね。いろいろなことが相手から見えてしまう。勝つためにはいいことではありません。バリエーションもない。「勝つ」ことに主眼を置きすぎているという問題点じゃないかと思います。わざとスペースを開けてボールを蹴らせるようなディフェンスをするとか、3人目の動きをするとか、そういうのがないと相手は崩れないですからね。それは今の朝鮮代表では男女ともに少ないかもしれません。

それに生真面目で、時間稼ぎのようなことはできないんです。習慣なんですよ。時間稼ぎは怠け者や弱いヤツの行動だと、小さいころから教わってるんで。それで私たちが靴紐を結び直すと時間が稼げると教えると、これまた生真面目にずっとひもを結んでイエローカードをもらってしまう。うまくできないんです。

それ以外でも時間を稼ぐために、コーナー付近にボールを持っていくとかも苦手でした。やっと最近できるようになったのですが、やっぱりシュートレンジに入るとシュートを打っちゃっう。シュートのふりをしてまたコーナー付近に行って、10秒ぐらい稼ぐことが大事だと言っても、やっぱりゴールが近くなると打つんですよね。

この大会では特にそういうことはできないでしょう。在日朝鮮人の子どもたちが見ているから。他の国に行ったらやれても、日本開催では在日の子どもたちの影響なんか考えると「みっともないことをするな」と言われますから。負けても堂々と負けろと。

――プレッシャーは大きいようですね?

もちろん、いろんなプレッシャーはあると思います。でも結果を出せることが強いということです。もし結果が出せないのなら、それは最終的には監督の責任です。選手のレベルはある程度までいってると思いますから、あとは監督の采配次第でしょう。男子も女子もコンディショニングとプランをどう持っていくかで、それをどう回せるかは監督の責任です。

世界を見ている監督で2年間やってるんですけど、今回の試合で結果を出さなければ大変だと思います。協会はシビアに見ていますよ。他の国の年俸に比べると安いかもしれないですが、ある程度は出していると思いますので、強い相手と当たる今回、どれくらいできるかが問われます。だから今回、監督は必死だと思いますね。個人の意見としては今回で監督の力量が見えると思っています。

――ところで、イタリアのハン・グァンソンがテレビ出演を急に取りやめたことがありました。あれは本国の協会が止めたのですか?

テレビに出なかったのは、「しゃべりすぎ」だからですよ(笑)。基本的には海外に行くと自由なんです。でも耳には入ってきますから、それが行き過ぎると協会からは「ちゃらちゃらするな」と怒られます。「お前、海外にいると思って偉そうにするな」って。やり過ぎるな、ほどほどにせい、と。でもね、もし本当に秘密警察が締め付けているんだったら、1人じゃ海外には送らないですよ。今、イタリアでもスイスでもみんな1人で住んでいるんですからね。報道にはナンセンスなものが多すぎます。

――現在の目標を教えてください。

今は、やれることやってみようとしています。最終目標はトップチームがワールドカップに出ることですから、育成はその過程なんです。サッカー協会としてはワールドカップに出して、世界レベルに上げるというのが最初の目的で、その次はベスト16、ベスト8みたいに進みたいと思っています。それが我々の社会貢献ですし、東洋人でもできるということを示したいですね。

――今回はミサイルや経済制裁などの問題があります。

この大会が、代表にとっていい機会になってほしいと思いますし、それ以上にサッカーに集中できる環境であってほしいと思います。警備は厳しいでしょうが、何も問題なく試合が開催され、何もなくプレーできればいいと思います。勝とうが負けようが、何かが起きるような問題はあってほしくないと思います。

お互いに緊張すると思いますが、ホントはね、もっと気楽に日本に行けたらいいと思いますね。私もだんだん歳を取ってきていて、もっと純粋にスポーツで交流したいという気持ちになっていますよ。男はね、お互いに闘争心ありますから無理かもしれませんけど、でも女の子はね。たとえば韓国戦のときって、お互いに小さく手を振って何か話してるんですよ。笑顔で。思わず僕は写真を撮ってSNSに投稿しました。そういうのはスポーツの美しいシーンだと思いますね。

【日本蹴球合同会社/森雅史】