やはり細部は左ハンドルで扱いやすいように作られている

 左側通行の日本では、左ハンドルよりも右ハンドルのほうが圧倒的に運転しやすいのは揺るぎない事実。ドイツ御三家ではほどんどの車種に右ハンドルの設定があり、販売比率も高め。イタリアやフランスのブランドも、日本仕様は一部のスポーツモデル以外、右ハンドル車を主力としている。

「左ハンドル=高級外車の象徴」というステイタス性も昔より薄れた。プジョー206やアルファ145など、かつてのイタリアとフランスのラテン系小型車では右ハンドルになるとペダルレイアウトが明らかにおかしくなってしまうなど、右ハンドル化の弊害が顕著になることが多かったが、今のラテン車のほとんどは右ハンドル仕様でもおおむね違和感なく運転できるようになっている。ブレーキのマスターシリンダーもハンドル位置に合わせた配置とする良心的な輸入車が増えた。

 しかし、それでもなお、輸入車の左ハンドルには積極的に選びたくなるメリットが失われたわけではない。やはり、右側通行の左ハンドルが基本の国で作られたクルマは、今でも左ハンドル仕様こそが100%本来の機能性を発揮するものが多いからだ。とくに、運転フィールの細部を気にするクルマのマニアにとっては無視できない部分が多いといえる。

 たとえばATのシフト。メルセデスが最初に採用したジグザグ式のゲートは、ほとんどの輸入車では右ハンドル仕様でも運転者が左側に座ることを前提としたままのレイアウトになっている。今では国産のコンパクトカーでも普通にジグザグゲートを採用しているのでイメージしやすいと思うが、人間工学的に「P」のポジションは本来運転席側にあるのが自然。右ハンドルの場合、シフト操作の流れとしてはS字を描くようなレイアウトが操作しやすい。

 しかし、輸入車の右ハンドル車のジグザグゲートの多くは助手席側に「P」のポジションがある。慣れれば何の問題もないように思えるが、左ハンドルのジグザグゲート式ATを操作すると、その自然な操作感に「ああ、これが本来の味なんだね!」と、ちょっとした感動を覚えるものだ。

MT車では右ハンドルだと左手でシフトとウインカーを操作する煩わしさも

 左ハンドル車でのちょっとした感動は、ウインカーの操作時にも得られる。本来、ウインカーレバーはシフト操作をしない側の手で操作することが望ましい。フロアシフトの場合、右ハンドル車は左手でシフト操作をするので、ウインカーレバーは右側にある方が操作負担が分散して理にかなっており、日本車ではすべてがそうなっている。

 シフト操作の頻度が低いAT車ではあまり実感しないが、ウインカーレバーが左側にある輸入車のMTでは左手がウインカーとシフト操作の両方を担う煩わしさを実感するはずだ。輸入車のウインカーレバーが左側にあるのは国際規格に準じているからなのだが、やはりAT車でも左ハンドルに乗ったほうがウインカーレバーが左側にある意味が実感でき、より自然に操作できるように感じられるだろう。

 ペダルレイアウトの違和感についてはほとんど解消されつつあるが、厳密にはやはり左ハンドル仕様のほうがより適切な配置になっているものが多い。同じモデルでハンドル左右違いを乗り比べるとそれがわかる。先代型フォード・フォーカスのMT車では右ハンドルになるとフットレストがなくなるし、現行モデルでもルノー・トゥインゴなどの小型のモデルではペダル配置スペースに制約があるせいか、クラッチペダルの位置が微妙に変だったりする。欧米の左ハンドル車に乗ると、そういった細かい部分で「本場の味」を感じられるメリットが今もなおあるといえるのだ。

 あとは、大型のSUVなど、着位置が高くて全幅がワイドなクルマでは、意外と左ハンドルのほうが日本の街で乗りやすい面もある。たとえば、ハマーH2。左ハンドルなので左側には寄せやすいため、全幅が2.2m近くもあるわりには巨体を持て余さない。

 ハマーH2よりひと回り小さなハマーH3には右ハンドル仕様も設定されたが、H2よりは小さいとはいえ全幅は2m弱あるので、ボディの左側の感覚がわかりにくく、より巨大なH2より扱いにくさを感じる場面も。巨体のクルマは左ハンドルのほうが意外と日本の道で扱いやすくなるという一面がある。

また、大型のSUVは着座位置が高いので、左ハンドル最大のデメリットのひとつである右折時や追い越し時の対向車線の確認のしにくさが多少は解消されるという点も見逃せない。リセール面では、左ハンドルのステイタス性もかつてよりはかなり薄れたとはいえ、やはり今でも富裕層向けの高額モデルでは左ハンドル車の相場の方がより高めに推移している傾向が続いている。