日本のプロレス界には、メジャーと呼ばれる団体が2つある。ジャイアント馬場が創設した全日本プロレスと、アントニオ猪木が創設した新日本プロレス。いま、どちらに勢いがあるかと言えば、紛れもなく後者だ。現在のプロレスブームの中心は、兎にも角にも、"シンニチ"。全日本プロレスはすっかり影をひそめてしまった。

 しかし、じつはいま"ゼンニチ"が緩やかに上昇しつつある。半年前、「ガラガラ」と聞いていたのが、先月、平日の後楽園ホールが満員だった。その次の興行も満員に近かった。プロレスファンの間でも、「"ゼンニチ"がキテる」という声をちらほらと耳にする。人気の立役者は、エース・宮原健斗。強烈なヒザ蹴りと華麗なジャーマンで、会場を熱気の渦に巻き込む。三冠ヘビー級王座3度目の防衛を果たした宮原に、全日本プロレスの今を聞いた。

―― 18歳で、佐々木健介さんが代表を務める健介オフィスに入門されましたが、かなり厳しいところだと聞きます。実際はどうでしたか。

「厳しかったですね。でもしっかりした団体だったら、どこもそうだと思います。厳しい、規律のある合宿所生活をするのは同じかなと。いきなり大人の世界に入ったので、びっくりすることばかりでした。練習以外でも、そういうギャップはきつかったです」

―― 若手が逃げ出すことも多かったとか。

「いわゆる"夜逃げ"っていうんですけど。朝起きたらリアルに布団がなくなっている(笑)」

―― その後、フリーになってから全日本プロレスに入団されます。NOAHのほうが多く出場されていましたが、全日本プロレスを選んだ理由とは。

「いろんなものが完成されていなかったので、興味があったんです。全日本プロレスという名前はあっても中身が変わっていたので、これから新しくなるなと思って入団しました。その頃から、トップに立ちたいと思っていましたね」

―― 宮原選手が入団した2014年は、武藤敬司さんが退団した翌年です。当時の全日本プロレスはどのような状況でしたか。

「僕はゴタゴタをそんなに目の当たりにしていないんですよ。会社としては首脳陣が変わったりして落ち着いてはいなかったですけど、あえて関わらないようにしていました。この歳(当時25歳)で踏み込んでも仕方ないとも思いましたし、自分の成長のプラスにはならないと思ったので、耳にしないようにしていました」

―― 昨年秋には、潮崎豪選手ら主力選手の大量離脱がありました。残されたときの心境は。

「芯がブレないようにしていました。潮崎選手や鈴木鼓太郎選手とは同じチームでしたが、プロ集団なので、そこまで情はないんですよ。あったとしても、リングを下りたときの僕なので。逆にチャンスだとも思わなかったですし、ブレなかったです」

―― 潮崎選手とはタッグを組まれていましたが。

「ベルトも返上しました。悔しいとは言いましたけど、意外とそうでもなかったんですよ、じつは(笑)。また獲ればいいや、くらいの感じでした」

―― 潮崎選手とまた戦いたいですか。

「そのうち何かあれば、という感じですね。それより今は、自分をレベルアップしていますから」

―― 全日本プロレス、かなり盛り返してきています。

「会場の雰囲気もそうですし、2016年になって、いい波が立ち始めていると感じます。周りの声としても聞きますし。もっと大きい波を、宮原健斗が作っていきます」

―― 盛り返してきている要因はなんでしょうか。

「僕のお陰じゃないですか(笑)。いや、僕だけじゃなく、若い選手が表に出ているからというのはあると思います。若手が元気というのは、どの業界でも人が集まりやすいポイントですよね。未来を感じさせる力は、若さゆえだと思います」

―― デビュー2、3年目の選手たちが前に出ている団体は珍しいですよね。

「野村(直矢)選手、青柳(優馬)選手、ジェイク・リー選手の3人は、みんな身長が高いんですよ。ジェイク選手は192センチあります。これはプロレスラーにとって武器です。試合内容も、自分がデビューして2年目くらいのときのことを考えると素晴らしいなと思います。地方でもメインを取ったりしていますから」

―― 若手主体興行「AJ PHOENIX」も大盛況です。

「若手の3人が主役になれればいい大会だなと思います。僕はお膳立てでいいんですよね。そこだけは脇役でいいんです。普段は負けても主役で締めようとしますけど(笑)」

―― 宮原選手は最年少三冠王者になってから、変化はありましたか。

「ベルトに成長させてもらっている部分はあります。いまV3ですが、その都度、進化していってますね。勝っても負けても、興行をひとつずつ締めていたら、少しずつ自信が沸いてきたというか、自覚が増しています。『オレがやんなきゃ、誰がやるんだ』くらいの。歴史のあるベルトですから、責任も感じています」

―― 試合内容も変わってきましたか。

「試合に関しては、飛び抜けて急に良くなったという感じではないんですよね。着々と積んできたという感覚です。27歳という若さをよく取り上げられるんですけど、そんなに若いという意識はないんです。もう9年目ですから」

―― 2度目の防衛戦の相手・関本大介選手、3度目の相手・真霜拳號(ましも・けんご)選手は他団体の選手ですが、他団体にベルトが流出する不安はありますか。

「夜寝る前とか、冷静になったときに思います。よくよく考えたら、相当やばいなと。三冠の歴史を振り返ると、意外と全日本以外の選手はベルトを巻いていないんですよ。外国人選手はいっぱい巻いてますけど。なので、流出させちゃいかんと思います」

―― いまの全日本プロレスには、他団体の選手が多く参戦しています。そこも盛り上がりの要因でしょうか。

「いろんな化学反応は生まれているかもしれないですね。腹黒いところでは、他団体のお客さんを引っ張ろうと、僕は思っています。会社はそういうことを考えていないと思うんですけど、プレーヤーとしては意識してやっています」

―― 精力的にプロモーション活動もされています。

「プロモーションに行くと、逆に力をもらえます。各地で団体を応援してくれる人と出会うと、やっぱり頑張らなきゃなと思いますね。あとは、ひとつひとつの興行を大切に締めて、笑顔でお客さんを帰すというのが、一番のプロモーションだということに気づきました」

―― プロモーションの仕方も含め、「新日本プロレスの棚橋弘至選手に似ている」と言われることがありますが、意識はしていますか。

「昔、白いコスチュームだったときはすごい言われました。光栄なんですが、意識したことはないんです。僕がプロレスを見ていたのは武藤さんの世代なので、正直あまり見ていないんですよ。プロモーションは、団体を盛り上げようという考えだと、そういう行動になるんじゃないでしょうか」

―― では、目標にしている選手は。

「ハルク・ホーガン、武藤敬司さん、佐々木健介さん。華がある選手が好きですね。大きくてオーラがある選手。入場してワーっとなる選手に憧れます」

―― これから全日本プロレスをどうしていきたいですか。

「着実に力をつけていきたいです。若い選手の力もそうですし。プロレスって難しいもので、いきなりスターは生まれないんですよね。なので、少しずつ若い世代で競り合うようになると、もっともっと面白くなってくると思います。僕はチャンピオンとして、プロモーションやいろんなところに出て、各地を盛り上げていきたいです」

―― 同じメジャー団体として、新日本プロレスを超えたいという気持ちはありますか。

「心のどこかで意識はしています。あえて言わないですけど。言うと小さい男に見えるじゃないですか(笑)」

 宮原のフィニッシュホールド、"シャットダウン・スープレックス"。相手の両腕を封じて投げるダルマ式ジャーマンだが、空中で一旦、静止する。一度止まって、爆発的な盛り上がりを見せる。それはまるで、全日本プロレスの未来を体現しているかのようで、胸が高鳴る。宮原健斗のハートの強さに、明るい未来を期待せずにはいられない。

尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko