西武・菊池雄星【写真:編集部】

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自身初の開幕戦で6回2失点の好投、「今までの雄星だったら…」

「気持ちよかったぁ〜」

 初の開幕投手という大役を終えた翌日、西武の菊池雄星は記憶の中で再び自らを前夜の夢の舞台に立たせ、恍惚の表情を浮かべた。

 終わってみれば6回110球7安打6奪三振2失点(自責1)。4回、味方のエラーも絡み、ノーアウト満塁から5番ボグゼビックに2点適時打を許したが、その後、中島宏之、T-岡田、伊藤光と3人で後続を断てたことがすべてだった。

 相手投手が球界屈指の右腕・金子千尋だっただけに、「3点目を取られたら試合が終わると思ったので、2失点したところで、『キレイに抑えよう』という思いを捨てました」。より一層腕を振り、切れ、球速とも、もう一段階ギアを上げると、マウンドを降りる6回まで、再び「0」を並べていった。

 潮崎哲也ヘッドコーチも、「あそこで、追加点を許さなかったところが非常に評価できる。今までの雄星だったら、2点を獲られてガックリきて、グダグダになってしまっていたが、変わった。立ち直って、あのままいってくれたことが、最終的に勝利につながった」と、称える。

着々と積み上げてきた自信、「『幸せだなぁ』と思いながら投げていました」

 開幕投手を通達されてから約1か月半、“この日”を目指して調整を続けてきた。14年秋キャンプから土肥義弘投手コーチと取り組んできた投球フォームがようやく本格的に固まりつつある。これまでは、一度良くても、それを継続できないことが結果につながらない最大の原因とされてきた。だが、オープン戦でフォームのバランスを崩すことなく、常に安定した投球をみせた。そこで、はっきりとした手応えと自信をつけたことが、大きかったに違いない。

 元々、ボールそのものには、田邊徳雄監督をはじめとした首脳陣、そして女房役を務める捕手・炭谷銀仁朗が開幕前から「問題ない」と太鼓判を押していたが、一方で、全員が口を揃えていた懸念材料が「緊張しすぎて、自分をコントロールできなくなる」ことだった。だが、蓋を開けてみれば、杞憂に終わった

「変な緊張もしなかったですし、『幸せだなぁ』と思いながら投げていました。1球1球への歓声がすごくて、本当に気持ちよく、楽しめました。『またやりないなぁ』と思いました」

 着々と積み上げてきた自信が不安を消し去り、緊張よりも快感をもたらしたのだろう。選ばれし者にしか味わうことのできない悦びの極致を、24歳にして経験することができた。

 そんな境地の中で奮投する次期エース候補の姿に、潮崎ヘッドコーチは「風格を感じた」という。

田邊監督「ある意味、今季は雄星と心中だよ」

 降板後、普段であれば、アイシングをしながらベンチで大人しくその後の戦況を見守るのが常だが、さすがにこの日は違ったと言う。「3-3になって、9回裏の攻撃の時は、叫びまくってました。『僕の勝敗は一切関係ない』って思ったのは初めてかもしれません」。ただただ、純粋にチームの勝利だけを願って、力の限り声を張り上げた。

 メヒアのタイムリー打で逆転サヨナラ勝利が決まった瞬間、背番号『16』の胸に真っ先に去来したのは、「ホッ」という安堵感だったという。

「肩の荷が下りた、という感じ。監督やコーチから『チームに勢いをつける投球をしてくれ』と言われていたので、結果として勝てたことで、その役割を果たせたという達成感はあります」

 昨季、CS出場権がかかるゲームなど、何度かチームにとって重要な試合の先発マウンドを託されたが、いずれも勝利をもたらすことができなかった。「悔しい気持ちがすごく強くて、『もっと成長して見返したい』という思いをずっと持って、昨年オフから努力してきました。『大事な試合には雄星』と言ってもらえるように、結果を出したい」と、開幕戦を前に語っていた。その言葉に十分値する好投だったと言えよう。

「ある意味、今季は雄星と心中だよ」

 冗談半分とはいえ、田邊監督はそれほどまでに7年目左腕の飛躍を信じ、期待している。

 開幕戦以上の刺激を得るには、CS、そして日本シリーズのマウンドに立つしかない。だが、今回の投球を続けられれば、必ず好成績が残せるはずだ。まだ見ぬ“快感”を味わうために、そしてチームの、指揮官の悲願を達成するために、今の確かな手応えを信じてブレずに前進できるかがカギだろう。

上岡真里江●文 text by Marie Kamioka