人事部が絶対欲しい「壁を乗り越えられなかった学生」

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■ありふれた質問への「答え方」で決まる

就活戦線まっただ中、企業説明会に足繁く通う学生と同様に、企業もインターンシップや説明会などを通じて優秀な学生を見極めようと必死に努力している。

真の狙いは言うまでもなく「入社後に確実に業績に貢献する人材」の発掘だ。もちろん、学歴だけではあてにならない。

見極めるツールとして、最新の科学的知見に基づく適性検査や一定の準備された質問項目による面接がある。

だが、欧米の研究によれば適性検査や面接で明らかにされるのは人間の行動の20〜40%程度にすぎないとの報告もある。

企業の人事担当者もそのことをある程度理解したうえで、自ら蓄積した長年の経験を武器に業績に貢献する優秀な人材を見抜こうと考えている。

▼落とし穴1:お粗末な「挑戦」体験話

まず面接で前提となる質問は、「これまでの人生において、自らチャレンジした経験の内容と実現を阻む困難な課題を克服するためにどんな努力をしてきたのか」だ。

大手電機メーカーの人事担当者もこう語る。

「予測困難なビジネス環境の中にあって、あらゆる可能性に果敢にチャレンジし、解を見つけ出すことができる人材を理想としている。そのためには自身でこれまで取り組んできた中の一例を挙げて実際にチャレンジしたことを披露してもらう。必ずしも成果に結びつかなかったにしても、そのプロセスで何を得たのか、何を考えたのかなど詳しく聞いている」

おそらくこうした質問は誰しも受けるだろうし、事前に自分なりの回答を準備している学生も多いだろう。

だが、この質問にまともに答えられない学生もいるという。面接官が成果を出すためにどんな壁に遭遇し、どんな苦労をしたのと聞いても「別に壁を意識したこともありませんし、苦労はありませんでした」と答え、その先の質問をする気がなくなったという。

もちろん、こういう学生は真っ先に落とされる。

なぜなら「苦労したことがないというのは、あえて実現可能に課題を設定するなどハードルを下げているか、未知の分野にチャレンジしようとする気がない」と見なすからだ。

■論理的思考の高偏差値学生は「敬遠したい」

▼落とし穴2:主語「私」を繰り返す

次の落とし穴は「自分の実績ばかりを強調する」ことだ。

困難な壁に遭遇したときに自分で創意工夫し、努力を重ねて見事に実現させたストーリーを語る人がいるが、人事担当者はそれだけで評価することはない。

食品会社の人事担当者はこうした回答のチェックポイントについて指摘する。

「まずチャレンジした課題の内容だ。大概の学生はアルバイトやサークル活動でのトラブルの経験を持ちだしてくることが多い。正直言ってその程度の経験なら、あなたでなくても他の人でも解決できだしょうというケースが多い。次に、主語が『私』ばかりで、それを強調しすぎる人は要注意だ。チームでやっていれば課題を克服するのに当然、周囲の手助けがなければ成し遂げられるわけがない。にもかかわらず、自分がリーダーシップを発揮して解決しましたと、実績だけを強調する人は、本当にそうかなと思ってしまう」

また、製薬会社の人事担当者は次のように指摘する。

「(困難クリア体験した学生の)自我がしっかりし、目的意識を持った人だということはよくわかるが、職場やチームで仕事をしているときに、周囲の理解を得ることなく突っ走ってしまう危うさを感じてしまう。とくに高学歴の学生ほど論理的思考力は高い傾向があるが、若い頃はとにかく論理で攻めがち。正論やあるべき論を貫き、まあまあというふうに妥協しないところがある。そういう人は敬遠したい」

では、面接官が最も聞きたい点とは何か。

それは「成功物語よりも失敗の経験であり、さらに失敗を挽回するためにどのようにして周囲を巻き込む努力をしたのか」ということだ。

電機メーカーの人事担当者は「不確実な時代に一人で物事を解決することなんて当然無理だ。ましてや若手の社員ができることは限られている。上司から大役を任せられても実現するために先輩や上司、さらには他部署の人間をどのように巻き込んで仕事を進めることができるかどうかが大事だと考えている」と語る。

■脈ありは「一人では壁乗り越えられなかった」

同じく製薬会社の人事担当者もこう指摘する。

「これまで壁にぶつかった経験を聞き、どうやってそれを乗り越えたのかを質問すると『自分はこうして乗り越えました』と言う人もいれば、『自分はこう考えたのですが自分一人では無理なので誰かに相談して助けてもらいました』と言う人もいる。採用したいのは後者だ。職場の仲間やチーム、あるいは上司からうまくサポートしてもらうことで問題を解決に導くことが組織では最も大事なことだ」

つまり、面接官は自慢話を聞く気は毛頭ない。

個人は非力な存在であり、それを自覚し、足らないところを学習し、周囲の支援を得て物事を遂行できる能力があるかどうかなのだ。

食品会社の人事担当者も「成し遂げた実績よりも周りにどうやって助けを求めたのか、周囲を巻き込んで成果を上げてきたのかをしつこく聞いている。成果を自慢げに話すことなく、周りの人たちとの協力関係を強調する人は入社後もうまくやっているし、成果も出している」と語る。

成果を上げようとしてスタンドプレイに走る人は好まれない。

1人ではとうてい無理だと自覚し、自分の立ち位置を明確化し、仲間やサポーターをいかにたくさん作り、それが結果的に自分に成果に結びつくことに気づいている人ほど採用されやすいということだ。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文)