2015年 秋山翔吾のヒートマップ

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直球、スライダー、フォークで打率.380以上、課題は「左打者共通の弱点」

 今季、プロ野球では65年ぶりに両リーグでトリプルスリー達成選手が誕生した。さらに、新人最多セーブなど数々の記録が塗り替えられ、例年以上に個人成績の“偉業”に注目が集まった。その中でも一際、輝きを放ったのが、歴代1位となるシーズン216安打を放った西武・秋山翔吾外野手の活躍だろう。

 日本プロ野球史上最も安打を放ち、リーグ2位の打率.359をマーク。各球団のバッテリーが攻略に頭を悩ませた左打者に、弱点はあったのか。ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜と4球団で捕手として活躍した野球解説者の野口寿浩氏に、今季の結果球の球種別成績、ヒートマップ(コース別打撃成績)から、打撃傾向を分析してもらった。

 野口氏はヒートマップを見るや否や、「(ヒットゾーンが)広い。低打率のゾーンが少ないですね……」と驚きを見せた。それもそのはず。ストレート、スライダー、フォークの3球種で3割8分超えをマーク。成績が悪かったカットボールでも.258、チェンジアップも.297という極端に悪い数字ではなく、必然的にヒートマップに高打率を意味する「暖色系」の色が多くなっている。

 その中で敢えて弱点を挙げると、「やっぱり膝元スライダーというのは左打者共通のウィークポイントですね」と、ソフトバンク・柳田らも苦手とした箇所の低打率を指摘。さらに「インロー(内角低め)は基本的に好きじゃないみたいですね」と球種に関わらず、膝元のボールに課題があるとした。

苦手とする大谷&武田の配球は?

「秋山は器用で、バットコントロールがいい。おそらく、方向を決めて打席に立っている可能性がある。インローに来ると、引っ張ろうと思うと引っ張れるんだけど、左方向を狙っているときに『どっちに打とう』と一瞬迷いが出る。そうすると、ヒットが出ない。方向の決め打ちなのかもしれないですね」

 野口氏は、内角低めの低打率の要因をこう分析。広角に打ち分けられる技術を持つだけに、ボールが投じられるまでの心理状態が結果に出ている可能性もあると指摘した。

 一方で、球種別の成績に関しては「偏りがないですよね」と見る。

「強いて言うならカットボールですが、2割5分ですしね。万遍なくさばけている。もう穴はほぼないですね」

 さらに野口氏は、秋山が今季15打席以上対戦して最も打率が悪かった日本ハム・大谷(20打数3安打、打率.150)、ソフトバンク・武田(18打数4安打、打率.222)との対戦投手別のヒートマップを分析。「どちらも特徴的なピッチャーですね」と指摘した。

苦手2投手には一味違った“特殊球”

 武田の代名詞ともいえる高速で縦に割れる“ドロップカーブ”は、「結果球」に限定されるヒートマップ上では2打数0安打と大きくは目立たず、ストレートが決め球となることが多かった。しかし、少なからず影響は存在すると野口氏は分析。「(ヒートマップ上の2球の)カーブは追い込まれた後に打ちに行って、仕方なく凡退という可能性もあります。武田のカーブは基本的に嫌いなんでしょうね」と考察した。

 一方、対大谷に関しては、「いつもの大谷のピッチングをしていますね。他の投手がこれをやれと言われてもできませんから、参考にならないでしょう」と言う。高めを中心にストレートだけで17打数2安打と抑え込んだ右腕は“別格”と表現。日本プロ野球で最も多く安打を放った男に対しても、普段通りのストレート攻めで打ち取った大谷の実力が際立つ結果となった。

 今回のデータ全体を総合して、野口氏は「特殊ボールがあるピッチャー(が苦手と)いう感じがします」と指摘した。裏を返せば、この結果は、武田の高速で縦に割れるカーブや、大谷の160キロに迫るストレートなど、どんな打者も圧倒するボールがなければ今季の秋山を抑えるのは難しかったということを表している。

 多くの左打者が苦手とするインローを除けば、今季の秋山に対して、一般的な投手が攻める際の穴はほぼ見当たらなった。日本が誇るリードオフマンを来季、他球団のバッテリーはどのように攻めるのだろうか。